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プロローグ

トウィンカに母、アリアは死ぬ前、いつも首に下げていた赤く透き通った結晶をみせた。

結晶は手のひらにちょうどのるサイズで、六角柱の形をしていた。


「これはね、お父さんなのよ」


「はい?」


トウィンカは思わず聞き返してしまう。

今まで父の話を母から、何度も面白おかしく聞かされてきたが、こんな唐突に変なことを言われたのははじめてだ。

ベッドで横になっているアリアの顔をみるが、病人特有の青い顔をしているにもかかわらず、まるで暖かい日差しのような笑顔で赤い結晶を見つめてほほえんでいた。


「あのね、ウィン。わたしは、死ぬ間際まで冗談をいうバカじゃないのよ?」


ウィンというのは、トウィンカの愛称だ。

子どものように、頬をふくらまるアリアにトウィンカは差し出す結晶を受け取りながら笑ってしまう。


「本当なんだから、もう。ごほっ、……ごほ」


「お母さん!」


「平気よ」


アリアの顔は話しはじめたころより、一層顔色が悪くなっている。

ウィンは話すことをとめようとするが、アリアは首を横にふった。


「ねぇ、ウィン。あなたの瞳はお父さんと同じ色でとても綺麗だわ。それに、その雪のように白い髪も。大好きよ、ウィン」


トウィンカが物心ついたときからいつもアリアが言っていた言葉。

トウィンカの白い髪に赤い瞳。それは、この国では珍しい色だった。老人で元々の髪の色素がぬけて、白髪になった人はたくさんいるが、生まれたときから白い髪の子は滅多にいない。それだけならまだしも、赤い瞳が人の恐怖をあおった。血の色を連想させるような色だと誰かが言いはじめ、それから、トウィンカは今まで恐れられてきた。

悪魔の落とし子、トウィンカ、と。

しかし、トウィンカは鼻で笑い飛ばしてきた。アリアがいつもほめてくれるから。自慢の髪と瞳だからだ。

そのアリアの寿命が、あと少しでつきようとしている。本来はアリアの寿命は三年前でつきていたはずだった。ここまで生きられたのは、アリアいわく、母親の愛らしい。

大事なものをさわるようにアリアの手が、結晶を握るトウィンカの手に重なる。


「ウィン、あなたはあなたの思うように、何にも縛られることなく、好きに生きなさい。それがお母さんの最後の願い」


アリアはそれだけ言うと、眠るように息を引き取った。

その顔は今までみたアリアの顔の中で、一番安らかな顔をしていた。

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