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外伝 巫女ちゃん奮闘記

 誰よりも大きな背中……。始めてその背中を見たあの日から私はあの人に心を奪われていたのだと思います。


 最初にこの地に住んでいた私達の一族はもともと違う世界から神様の導きによってやってきました。もっともこの世界に住む人間は皆さん神様の導きによってこの世界に降り立ったのであなたもそこら辺の事情は良くご存知のはずです。


 私達の一族は戦いに敗れて住む場所を失いました。そして長い間安住の地を求めて放浪していたと聞いています。


 そして私の両親の世代の時に私達の神様からお導きがありました。神様の娘であるこの世界の神様の作った世界に移り住むように言われたのです。安住の地を約束された一族は信仰を捨てる事を条件にこの地に移り住みました。その結果一族は前の世界の神様の名前を失ってしまったのです。むろんこの世界の神様の名前も知っていたはずなのですが、この地に移った時に失ってしまいました。


 それでも一族はこの地で必死生きようとしました。そして生まれたのが私でした。私は一族がこの地に移ってから始めて生まれた子供でした。


 それから他の夫婦にも子供が生まれて一族に活気がつき始めた時悪夢が起こりました。


 巨大な体を持ち8つの頭を持つ八首の大蛇の襲来でした。


 凶暴な八首の大蛇わ相手に私達はなすすべがありませんでした。そしてこの地に移り信仰を捨てて一族の神様との繋がりを失ってしまった私達には祈る神すらありませんでした。


 だからでしょうか、誰かがあの八首の大蛇に祈ろうと言い出し生贄を差し出すことになってしまったのは……


 この地で生まれ育った私には分からない事でしたが、長い間住む場所を求めてさまよい続けた大人達はこの地を捨てる事が出来なかったのです。その結果、生贄を出して八首の大蛇から村を守ろうと考えたのでした。そしてその最初の生贄が最初にこの地で生まれた私でした。


 けれども私にはそのことが理不尽でなりませんでした。けれども私が逃げれば誰か他の子供が生贄になるだけでしたし、何よりも私には逃げる場所がありませんでした。


 両親にすら見捨てられ、私は体を縛られて祭壇に捧げられました。そして村の人間が立ち去って私一人になった時、私は『誰か』に助けを求めました。けれども誰も私を助けには来てくれませんでした。


 やがて八首の大蛇が現れて私に気づきました。大蛇は私の事を食べようとして私に向けて首を伸ばしました。私はもう駄目だと思いました。それでも死にたくなくて生きたくて、必死に助けを求めました。


 その時でした、何処からか優しい声が聞こえたのは。そして私の目の前で八首の大蛇が黄金の巨体に突き飛ばれたのです。大蛇を突き飛ばしたのは山のように大きな体を黄金のウロコに包まれたドラゴン様でした。


 ドラゴン様は私を庇うように大蛇の前に立ちました。私がドラゴン様に魅入られたのはその時になります。ドラゴン様は大蛇に飛び掛ると大蛇の心臓を握りつぶしました。そしてゆっくりと私の方に振り返りました。普通に考えれば今度はドラゴン様が私の事を食べようとするかもしれないと考えるのでしょう。でも私はそうは思いませんでした。ドラゴン様は私の事を助けに来てくれたと思えたからです。


 それの思いを証明するかのように時雲の切れ目から太陽の光が差し込んでドラゴン様の姿が神々しく写りました。私がドラゴン様の姿に心を奪われているとドラドン様は私の側までやって来て起用に私の体を縛っている縄を切ってくださいました。そして私に向けて手を伸ばそうとして途中で止めました。それからドラゴン様はちょっと何かを考えているように見えました。それからドラゴン様は顔を私に近づけてきました。


 私の事を一口で飲み込めるような大きな顔が私に向けて迫ってきましたが、私は怖いとは思いませんでした。何故ならドラゴン様は口を開けてはいなかったからです。そしてドラゴン様の顔は私の横を通り過ぎました。その事によく分からずにいると、ドラゴン様は頬を私の体にそっと触れさせました。


 この時になってようやく私はドラゴンさまが私の事を慰めようとしている事が分かりました。だから私も体をドラゴン様の頬に預けました。一族がやって来たのはその時でした。黄金に輝く巨体が降り立ったので何事かと様子を見に来たのでしょう。ドラゴン様はそれを見ると私から離れて八首の大蛇の死体の元に行きました。そして尾の辺りをいじくると落胆したかのように首を落としました。


 私はその姿を見て助けてくれた恩人にも関わらず可愛いと思ってしまいました。


 それからドラゴン様は大蛇の死体を燃やすと森の奥に入って行きました。体が大きいうえに黄金に輝いているので何処にいるのかは丸分かりでしたが。


 そして私はというと村に帰ることになりました。しかし元の生活に戻る事は出来ませんでした。生贄にした負い目とドラゴン様と仲良くしていたことで私は一族から腫れ物を触るかのように扱われるようになったのです。


 両親からも余所しくされて孤独になった私の唯一の慰めはドラゴン様の事を観察する事でした。ドラゴン様は入って行った森に住むつもりらしく巣を作ろうと頑張っていました。しかし巣作りはなかなか上手くいかず、ドラゴン様はいつも落ち込んでいました。


 そんなある日ドラゴン様はどこか遠くに飛び去って行きました。私はドラゴン様がここに住むのを諦めてどこか他の地に行って行ってしまったのでは無いのかと不安になりました。


 しかしドラゴン様は数日後にたくさんの木を抱えて戻ってきました。そしてそれからもドラゴン様はどこかに飛んで行ってはさまざまな物を持ち帰ってきました。私はそれを見てドラゴン様が巣の材料を集めている事に気づきました。


 私が神様と出会ったのはその日の夜のことでした。もっとも出合ったと言っても夢の中での事ですが。神様の姿に関しては偶像崇拝禁止のお告げがあるのでここでは言えません。神様は私に自分はこの世界を創った神様だと名乗り、ドラゴン様は自分の使いだと言いました。そしてドラゴン様が集めた建築資材でドラゴン様の神殿を建てるように言いました。その為にドラゴン様の弟妹の5頭のドラゴンと多くの人がやってくるとも。


 翌日目を覚ました私はその事を村中に触れ回り神殿を建てるように言いました。もっとも最初は誰も信じてはくれませんでした。それでも5頭のドラゴンと大勢の人々がやって来るのを見て皆は私の話を信じてくれました。


 それからドラゴン様の神殿を建てる事になりました。その間私はずっとドラゴン様の側にいました。ドラゴン様を見ていて私はある事に気づきました。ドラゴン様はただ頭がいいだけではなくて私達人間と同じ心を持っていると。


 その事に気づいた日の夜、夢の中に神様が出てきて私にこう言いました。ドラゴン様は人間の魂を持ち、人間の心を持っていると。ただし同時にドラゴンとしての本能も持っているので完全に人間と同じでは無いと。


 それでも私はその事実を知って喜びました。ドラゴン様に人間の心が有るのなら心を通わせる事が出来ると思ったからです。それから私は前にもましてドラゴン様の側にいて話しかけました。ドラゴン様はそんな私を邪魔だとは思わずに私の相手をしてくれました。やがて私は人間の言葉を話す事が出来ないドラゴン様の言いたいことが分かるようになりました。そして気がつくと私は黄金竜の巫女と呼ばれるようになっていたのです。


 その後神殿は無事に完成してドラゴン様は住む場所を手に入れました。またドラゴン様を信仰してこの地に残りたいと言う人達を受け入れて私達の村は町と呼べるだけに規模になりました。


 しかし住人が増えても私の扱いは変わりませんでした。いえ、前にもまして私と周りとの間には壁が出来ていました。結局私の事をただの女の子扱いしてくれるのはドラゴン様だけだったのです。


 そんな私が種族を超越してドラゴン様を愛するようになったのは当然の事でした……

次回、巫女ちゃん変態記に続きます。

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