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例えばこんな勇者と魔王

作者: 米米かぶり
掲載日:2013/02/20

 イタン暦四七五年。魔王と呼ばれる一体の悪魔が率いる数多の悪魔達--通称【魔王軍】は、ゆっくりと世界にその魔手を伸ばし始めていた。じわじわと、しかし確実に進みゆく彼らの進行に、各国は歯噛みしながらも有効打を打てずにいた。

 しかしそんな中、世界に覇を唱えんとする魔王軍に敢然と立ち向かう者達がいた。

 そのトップに立つ男は--『勇者』と、そう呼ばれるようになる。



・・・

・・

・



「ご報告いたします! 魔王様、アクシャス様からの伝令『トーテンクスの街は既に我が軍のもの』とのこと!」

「同じくトミッセ様より『コルダは近く我が管理下となる』とのことです!」

「ミリタリ様よりは『トーコンの支配は完了、ダラックへ勢力拡大の許可を求む』と!」


 次々と部下達から報告される勝利の報告に、玉座に座る一体の悪魔が笑みを浮かべる。悪魔の名はウロン、魔王と呼ばれる悪魔だ。


「ふん。つまらんぐらいに大勝だな、まあ所詮人間などその程度か。魔界の天下を取った我らに抗うほどの力はないか」


 ウロンはそう呟くと部下達へと指示を出す。その指示に従い、部下の悪魔達もまたそれぞれの持ち場へと戻っていく。


「まあ、まだあの勇者なる男が残っているか……。アルム、貴様はあの男をどう見る?」


 ウロンは自らの傍らに立つ中年の悪魔、側近のアルムに問う。アルムは難しげな顔をする。


「なかなかに手強いかと、現に奴(きゃつ)の本拠地たるアングリー国には、未だ我らは進行出来ずにいます」

「確か……一度こちらから仕掛けて防がれたのであったな。ドレータスの奴が失敗したのだったか?」

「はい。此方も相当な被害が出て、撤退を余儀なくされました。それに最近では他の国でも勇者率いる者達により、我らの進行は減速せざるを得なくなっています」


 ふむ、とウロンは自分の下へ集められた資料を思い出す。確かに、魔界からこの大陸に進出し始めた時に比べてその速度は遅くなっている。思っていたよりも、自分が勝利の美酒に酔いしれていたことに気付いたウロンは気を引き締める。


「なるほどな」

「至急、何か対策を打たねばなりません」

「そうでもある。が、いかんせん我らが事を急ぎすぎたきらいもあると我は思う。部下の気を引き締める意味でも、勇者の台頭は悪い話ではない。もちろん、対策を怠りはせん」


 アルムにそう告げたウロンは、さてと呟いて次の予定を思い出しながら椅子から立ち上がる。


「よし。勇者への対策は明日の幹部会議で行うぞ。幹部共にそう伝えておけ」


「--失礼しますっ!」


 そうアルムに伝えた瞬間に、一人の悪魔が血相を変えて扉を開く。その悪魔は若くして幹部会議にも顔を出すエリートであり、常に冷静沈着でウロンも密かに目を付けていた者だった。

 しかしながら、現在彼は可哀想なぐらいに焦った様子で、冷や汗らしきものすら確認できた。その様子にただ事ではないと、感じたウロンは彼の無礼を問いたださずすぐさま用を聞き出す。


「どうした?」

「ゆ、勇者が今、来ています!」


 その言葉に魔王の名を持つウロンも、その隣のアルムも驚きを隠すことができなかった。


「馬鹿な……」と、アルムが言っているのが聞こえ、普段から優れた知略でウロンを支える彼にしては珍しくこの件は予測の外だったらしい。


「今、ここにか?」


 ウロンの言葉に報告に来た悪魔は「……はい」と、答える。

 その様子から、彼もまた今回の事態を信じきれずにいるようだった。


「本当に……、本人なのか?」

「はい。確認を取りましたが間違いなく、勇者本人です」

「今はどうなっている」

「カイザス様が出ています。しかし、どうなるかは……」



 不安を隠せない部下の表情を見て、ウロンは覚悟は決める。

 いや、決めさせられた。

 部下にではなく、勇者によって。


「我が出るしかあるまいな……」

「魔王様っ!?」


 ウロンの言葉に、傍らで茫然としていたアルムが息を吹き返す。そしてまくし立てるようにウロンを諌めようと言葉を重ねる。


「いけません。魔王様、あなたが出る必要はありませぬ。ここはカイザス殿に任せ、それで駄目ならば私が奴の相手を務めます! わざわざ魔王様が向かわれることなど!」

「なんだ? 我が勇者に遅れを取るとでも」

「それは……いえ、その通りです」


 ある種、不敬ともとれるアルムの発言だが、全てはウロンとその何千という部下のための物だ。アルムは自分の保身のために動く悪魔ではない。真実を真実として受け止める度胸のある剛の精神を持つ者だ。

 だからこそ、ウロンはアルムを自らの側近にしている。彼の言葉や考えには確かな信を置いている。

 だが--今回ばかりは別であった。


「なあアルム。奴は、勇者は何故こんなタイミングに、こんな風にしてやってきたのだと思う?」

「は?」

「いいから、考えて見ろ。準備を整えることもなく、勇者が単身無謀な突撃を行った訳をだ」


 アルムは不思議そうな顔をするが、やはり魔王側近としての彼の頭脳は止まってはいないらしく、しばしの黙考の内に自信なさげにだが声を出す。


「奇襲ですか? それにしても、蛮勇じみていますが」

「蛮勇ではない、勇気だ。なにせ奴は勇者、その看板に偽りはない」


 つまりどういうことですか、とアルムはウロンへ続きを催促する。


「気付いたのであろうな。このまま正攻法で我らとぶつかり合っても、勝ち目はないと。だから打って出たのだ」

「しかしそれにしても、このようにしてやってくる必要があったのですか?」

「このやり方で勝利する切り札を奴が持っていたとしたら?」


 凄みを効かせたウロンの声に、アルムはぞっとする。


「例えここで奴を退けられても、奴が後からその切り札を使ったらどうする? 今度は、万全の準備を整えて」

「し、しかし本当にそんな切り札があるのなら……。わざわざ危険を冒す必要など」

「ここで勇者がしくじれば、どのみち我らの勝利は確定する。我らに対して少なからぬ勝利をもたらした勇者が、果たして本当にその程度のことを考えられぬと思うか?」


 苦しそうな表情を見せるアルムに、ウロンはその表情を変える。楽しそうな笑顔に。


「と、我に予想させるまでが奴の狙いだ。こうなれば我はもう、こう考えざるを得なくなる。『勇者とはいずれ決着をつけなければならない』--と」


 さて、お手並み拝見といこうじゃないか。勇者よ。


 苦々しい表情のアルムと、蚊帳の外になっていた部下を眺めながらウロンは勇者と相対する準備を始めるのであった。




◇■◇■◇■◇■◇■◇



(魔王様が……来る!)


 魔王からの信頼も厚い幹部の一人であるカイザスは、部下から伝えられた情報に苦悩と安堵を同時に覚えていた。

 それは自分たちの頂点である魔王自らを働かせることになった故の苦悩、そして己では目の前の男の相手が出来ないと悟っていた故の安堵であった。


(これが……勇者か)


 まだ年若い人間だった。カイザスからすれば若造と言ってもいい相手だった。

 それでも油断などしていなかったのだが、始まってみれば終始勇者に翻弄されるばかり。まさに百戦錬磨と言える相当な手練れであることは疑うよしもなかった。


--勝てない。


 漠然とカイザスはそれを理解していた。

 だからカイザスに出来るのは、魔王たるウロンが現れるまでの時間を稼ぐことであった。勇者はそれを知っていながら、あえてそれに乗っかっているようで今は静寂さを保っている。あるいは、最初から勇者は魔王との直接対決だけを望んでいると、そういうことなのかもしれない。

 金色の髪をしっかりと纏めて、清潔感に溢れたその男はなにもかも見通したかのような笑顔でカイザスを見ている。どこか見下されているような気もしたカイザスだったが、鋼の自制心でそれを抑える。


 そして数分後、その戦いが功を労する。


 カイザスと勇者が相対していた扉が開かれる。

 その奥から現れたのは、赤い瞳が特徴的な一体の悪魔。魔王と呼ばれる悪魔、ウロンに他ならない。


--勇者と魔王が、ここに相対した。



 張り詰める空気にカイザスが息を呑む。今から起きることを決して見逃すまいと決心し、勇者と魔王を静かに見守る。

 先に動いたのは魔王、次に動いたのは勇者であった。


「--お待たせいたしました。わたくし魔王商会代表取締役、ウロン・トーチェルと申します。本日はお忙しい中、よく当商会においでくださいました」

「--いえ、こちらこそ。事前に連絡など取れずに申し訳ございません。わたくし勇者商会代表取締役のランク・ホールドと申します」



 これが後に伝説となる、勇者と魔王の『商談』であった。


◇■◇■◇■◇■◇■◇



 イタン暦四七五年、魔界全土にシェアを持つ【魔王商会】は人間大陸へと進出。【魔王】と呼ばれるウロン・トーチェルを代表取締役とし、軍隊のようにきめ細やかな社訓をもち【魔王軍】などと渾名される彼らは、高品質低価格な商品を売りに次々と人間大陸に進出。各国の商会は大打撃を受けたが、シェアを取り戻す有効打を打てずにいた。

 そんな中、潰れかけの商会を勇者商会の名でまとめ上げた男がいた。彼の名はランク・ホールド、立ち上げた商会の名から【勇者】と呼ばれた。

 地元密着や、品質確保をスローガンに掲げた彼の戦略は見事に成功。一部地域、商品で魔王商会からシェアを取り戻し頭角を現す。

 しかし依然として、魔王商会のシェア拡大は勢い止まらずランク・ホールドは新たな戦略を手に、魔王商会との直接交渉に打って出たのであった。



 そんな勇者と魔王の経済戦争のお話も、世界のどこかにはあるらしい。

【ネーム】

 ウロン・トーチェル

【ジョブ】

 魔王商会代表取締役

【ステータス】

 たいりょく(D)

 まりょく (D)

 ちから  (D)

 まもり  (D)

 すばやさ (D)

 かしこさ (S)

 うんのよさ(A)

 かりすま (B)

 


【ネーム】

 ランク・ホールド

【ジョブ】

 勇者商会代表取締役

【ステータス】

 たいりょく(C)

 まりょく (E)

 ちから  (E)

 まもり  (D)

 すばやさ (D)

 かしこさ (S)

 うんのよさ(A)

 かりすま (A)



※一般的な兵士一人の能力を(B)として、(E)→(D)→(C)→(B)→(A)→(S)となります。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 負けたっ! 面白かったです。 [気になる点] ノンジャンルで放ってある点。 これ、コメディーに入れ直しませんか? [一言] ふと「代表取締役魔王」ってタイトルで小説書けないかなと思いついた…
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