表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人造人間とカスミソウ  作者: 天猫紅楼
21/29

複雑な心

 その日のエバはずっと、ウィルの家で雑誌を読んだりテレビを見たり、ゴロゴロして時間を潰していた。 さすがにマスターにぞんざいな扱いはしなかったが、時折

「事務所に戻らなくても良いのですか?」

と尋ねるウィルに、エバは

「うん……もう少しなら大丈夫……」

と曖昧な答えを返しながら、とうとう日が暮れた。

 すると、懐の携帯電話がけたたましく鳴った。 エバは途端に眉をしかめ、まるで汚いものを持つかのように、ジャケットのポケットから携帯電話を取り出した。

「はい~~」

≪おい、エバ! いつになったら帰ってくるんだっ!≫

 エバの耳元に、レンドの怒り狂った叫びが聞こえてきたので、彼は思わず携帯電話を耳から離した。

「えっと~……もうそろそろかなぁ……」

≪つうか、今どこに居るんだよっ? 女の所なのかっ? いいかっ! ボクも暇じゃないんだぞっ! シィナも寂しがってる! 早く戻って来い! 仕事放棄で、報酬を減額するぞっ!≫

【シィナ】という言葉に、思わずエバの頬がぴくりと痙攣した。 どうやら少しトラウマになりつつあるようだった。

「まあまあ、そんなに怒るなって。 じゃあ帰るから!」

と手短に答えて通信を切ると、ため息を落とした。 その様子に、ウィルは不思議そうに首を傾げた。 エバはやっとあきらめたように重い腰を上げると

「じゃ、帰るわ……」

と玄関に向かった。

 ウィルは玄関先まで見送りに出て、エバの背中が見えなくなるまでじっと見つめていた。

 

 

 

 その夜は、さすがのエバもシィナと一緒のベッドでは眠れないからと、同じ部屋に布団をもう一式敷き、エバのベッドで眠るシィナの下で、布団に丸まった。

『いつまで続くんだろうな、こんな生活……』

 エバはそんな不安を抱えながら、その夜はなんとか眠りにつくことが出来た。

 

 ――

 

 陽が昇る頃……。

「うわぁっ!」

 不意に目が覚めた途端、エバは慌てて跳ね起きた。

 自分の目の前に、シィナの寝顔があったのだ。

「おっっお前、何でここで寝てんだよっ?」

 エバの大きな声に、シィナがゆっくりと目を開けた。

「ん……おはよう、エバ!」

 にっこりと微笑むその顔は、天使のように輝いている。 エバは一瞬とろけそうになりながら、激しく頭を振った。

「お前、ベッドで寝ていたはずだろ?」

 エバは、布団がめくれている自分のベッドを指差した。 エバの指先を辿って寝ぼけ眼でベッドを見上げたシィナは

「落ちちゃったみたい」

と、まったく悪気の無い笑顔で舌を出した。

『うわお! めっちゃ可愛いやん!』

と心をかきむしられながら、エバは呆れて苦笑いを返すしかなかった。

 

 一時間後、シィナが用意してくれた朝食を食べながら、エバは

「な、早く帰りたいだろ? 家に」

と尋ねた。 するとシィナは驚いたように目を見張った。

「エバは、あたしと一緒に居るのがイヤなの?」

『昨日の行動みてりゃ、分かるだろ! 本当に親のもとに帰るのがイヤなのか? それとも俺の事を?』

と心の中で妄想しながら、

「いや、だって、寂しいだろう? 親の顔を見ないまま過ごすのなんてさ」

「親なんて居ないわよ!」

 シィナは頬を膨らませた。 彼女は、親の話になると途端に機嫌が悪くなる。 少し俯いて、ため息の様な吐息と共に話しはじめた。

「ママはあたしが小さい時に死んじゃったし、パパはあんな感じでマスターシェージばっかり……あたしは小さい頃からずっと一人ぼっちだった。 だから、別に寂しくもなんともないわ」

 そう言いながら、カゴの中から取ったロールパンにかじりついた。 パンに、くっきりと小さな歯のあとがついた。 エバは小さくため息を付くと、目玉焼きにフォークを刺した。

 その時だった。

 

「ん……?」

 

「どうしたの、エバ?」

 不意に動きが止まり気配に耳を澄ますエバの顔を、シィナが覗き込んだ。 エバの瞳が、いつになく緊張に包まれていた。

「ん……何か変な気配がする……」

 エバはその肌に、空気が震える感触を感じていた。

 どこかから何かが近づいてくる気配。

 エバは神経を研ぎ澄ませて、それが何なのかを探ろうとした。そして――

「シィナ! 伏せるんだ!」

「えっ?」

 いきなり立ち上がると、食事中のシィナを庇って床に伏せた。 部屋の中に珈琲のしぶきが飛び散るのと同時に、部屋の窓ガラスが一斉に割れ始めた。

 銃で攻撃されたのだ。

 いきなり幾つもの銃声と弾丸が、部屋の中を乱舞しはじめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ