異形と一緒。
こういうのやりたい!とゴールデンウィークに考えて放置してあったもの。
放置しっぱなしにしたらネタに日付抜かれそうだったのでUPです。
ちょっとまとめ直してみたけれど、gdgd通常運転。
2012年、
マヤの暦が終わるだとか、地球滅亡だとか、フォトン・ベルトがどうした、アセッションどうだ、ニュートリノがどうだこうだ。
散々暇なメディアが騒ぎ立てたが、ノストラダムスの予言時同様、特に何も起こらなかった。
おかげで私が、流れに乗っかって制作された人類滅亡系映画を見ながらぼんやりと死ぬなら苦しいのはやだからバーンと脳漿ぶちまけて死にたいのに日本銃入手困難すぎてまじふ○っくなどと考えていた事も、無駄に終わった。
だから本当に、何も起こらなかったかのように見えた。
しかし、世界は緩やかな変化、もしくは崩壊。
または、進化を遂げていた。
世界がこの事実に気付き、日常が崩壊し始めた頃。
「地球の、いやこの世界の異変はずっと前から始まっていたのかもしれない。」と、知らない学者先生が偉そうにニースで言っていた。
「どの情報を信じるか」
こう言っては情報に対する自己防衛がなってないね、などと言われかねないが、明日自分の身に起こる事もろくすっぽわからない一般市民が、世界の終了期限が来るだのなんだのと騒ぎたてているメディアの情報の中から、一滴の真実を見通せと言われても不可能に近い。
昔話や民話、存在しないものとして語られて来た、実在した<異形>たちがどこからともなく少しずつ現れはじめ、悲惨な事件を起こし始めたのだ。
例えこの真実を見つけ出したとしても、信じる方が困難だったと思う。
しかし、そんな情報が溢れ返った情報社会が〈異形〉によって壊することがなかったのは救いだったと言える。
徐々に異変を見せ始めた世界は、異形の者達が起こす事件で満たされ、混乱が混乱を呼び社会統制は一旦、破綻した。
その回復に役立ったもっともたるものが情報通信機器だったりする。
「人が信じたがらといって簡単に信じるな、自分で考えろ」
コトが起き混乱後はそんな風潮だったが、やはり情報は必要だったわけだ。
あれから一年近くが経ち、今は2014年。
現代的な文明社会が打撃を受けなくて、本当に良かったと思う。
今の便利な生活が無くなると思うとゾッとする。
人類は70億以上いた人類は60億を切るまでに減少したが、国際社会的には以前より良い関係が築けている、表面上は。
人間が減った理由、即ち異形が起こした事件は多岐に渡った。
事件の原因は、怪奇現象・心霊現象・珍獣によるもの、大きく分ければこの3つだ。
怪奇現象はまだ、原因が解明されていないものが多い。
心霊現象は、文字通り霊によって起こされる。
珍獣とは、UMA…また、人間ではない異形の者たちを蔑んでそう呼び、それらの者たちがおこすもののことだ。
増え続けていた人類が短期間で10億人も減少したことで、詳細を語らずともこれがどれ程の事なのか、子供でも知っている。
異形の者たちのことを、フォトン・ベルトの作用によって産まれた、人間としての肉体を必要としない、超人類だと言うものもいたが、異形がいったい何なのか明らかにはなっていない。
今、世界は安定している。
それは何故か。
異形の者たちの中の変わり者が、人類に味方し始めたからだ。
安定、と言っても人を捕食する異形は多くいるので、人類の急速な減少が止まった、という意味だが。
初めは各国が国を挙げて異形を全て駆除する!と頑張っていたが人が異形に勝つことは難しく、妥協した、と言えなくもない。
一番表立って人類側についているのは、元人間である被害者たちだ。
吸血鬼の類は捕食だけではなく、戯れで人を同種へと変えることがある。
その中で、異形を強く恨む者たちだけが人の側につき、国に養われ異形を倒しているのだ。
他には同種を糧としている者、対立しあう種族間で争い一時的に人の側につく者、そして変わり者の中の変わり者。
もちろん平和で友好的な異形たちもいるが、そういった種族はあまり戦闘が得意ではない。
そして昨日の夜、私が体験した出来事。
仕事帰り、鬼のような異形に襲われた。
最近近隣では事件が減って来ていたから少し油断はあった。
しかし、油断が無くとも交通事故のように突然で避けようがない。
これまでも異形に襲われたことが無いわけではない。
武器になりそうなものはカバンに入っている塩と気休めに貰った御札、それと痴漢撃退スプレー。
迷うことなく痴漢撃退スプレーをチョイス、カバンから取り出し、腕を高くあげ鬼の頭部目掛けて噴射。
鬼の目には当たらなかったが激辛成分が効いたのか、長い爪の生えた手で顔面を押さえ唸っている。
「しゃぁ!」
今のうちに逃げよう、とした時には民家の塀に叩きつけられていた。
スプレーを握りしめ伸ばした腕ごと薙ぎ払われたのだ。
衝撃で息が出来なかった。
鬼が長い舌で顔を舐めながら近付いてくる。
どうやら驚いただけで激辛成分に効き目は無かったようだ。
ゆっくりと、命の終わりが近付いてくる。
もう逃げようがない。
叫んでも、誰も助けてくれるはずがない。だって勝てないのだから。
「…だれ、か…たすけて…」
振り上げられた腕が視界に入り、ぎゅっと目を瞑る。
いつまで経っても来ない痛みと何とも言えない生臭い匂いに、恐る恐る目を開けてみた。
「ひッ!」
視界に飛び込んだのは目だった。
驚いて座り込んだまま後ずされば、それが子供の顔だとわかった。
どれだけ近付けば目しか見えない状態になるのか。
「は?…え、…鬼、は?」
「オニ?」
子供は首を傾げた。
綺麗な顔をした、小学校低学年位の男の子だった。
着ているものは水干によく似ている。
「ぁ…は、早く逃げないと!」
男の子の手を掴み走りだそうとしたが、腰が立たない。
もがく私の姿をひとしきり笑うとその子は口を開いた。
「雑魚は片付けた。本来ならば死ぬ運命のところを助けてやったんじゃ、お前さんの命は…我のモノじゃろ?」
可愛らしく微笑みながらとんでもないことを言う。
だかしかし、私が生きているということは、この子が言うことが真実だということで。
「あなたも、…異形、なの?」
「…そうなのかもしれんなぁ。」
そう応えた男の子の顔は、少し寂しげに見えた。
それから数分しても私の腰は抜けたままで。
異形、の男の子に笑われながらおぶられ帰宅した。家に着いた頃には、私もなんとか歩けるようになっていた。
小学校低学年サイズの男の子なおぶられるなんて、大変申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、さも当然といったように勝手に家に上がり込んで茶を要求してきたのでお礼の言葉は引っ込んでしまった。
冷蔵庫に冷やしてあったお茶をコップに2つ継ぎ、テーブルに置き、自分も席に着く。
「で、あなたはいったい…なんなんですか?」
「だから、異形…じゃろ?」
少し冷めたように言われ萎縮する。
「そうではなくて、ですね…」
「当ててみろ。それまで我の住処はここじゃ。」
「えっ?」
「ん?命の恩人に何か文句でもあるか?」
「や、えーっと…」
変わり者の中の変わり者。
神から異形へと堕ちた変種。
もたらすのは不幸か、幸福か。
(異形と、同居する事になりました…。)