第8話〝こんなにも騒ぐこと?うんっ騒ぐこと!〟
弥生さんが夕食を作り始めてすぐのこと、俺は大事なことを思い出した。
「そういや雛。もういい時間だし帰らなくていいのか?両親も心配してるだろ」
「あっ、そうだったそうだった!」
やっと思い出したのか手のひらをこぶしでポムッとたたいた。
でもよかった。もしもっと遅れて家から出すことになって、帰り着いた雛に両親が帰りが遅い理由を聞いて、男の家に居たって答えて、雛の両親が俺の家に殴りこみにくる、話し合いをしようとする、キレている雛の両親は聞く耳をもたない、警察を呼ばれる、俺警察に連れて行かれる、BAD END。なんてことになったらマジでやばいだろう。
「あたし行く当てがないから、ここに住まわせて?」
「ん?いま何と?」
「だから~、ここに住ませて!」
俺の耳がおかしくなったわけではないようだ。ここに住ませて?ここは俺の家だ。ということは俺の家に住むってこと?
「いやいや、それは」
「それはダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
俺が言い終えるまえに、さっきまでキッチンで夕食を作っている最中であったはずの弥生さんが、俺と雛が対立している間に勢いよくすべり込んで、というか跳んできてちゃぶ台に着地する。
さすがの俺もおったまげー。
「ダメダメダメダメ、それはダメーーーーー!」
「むう、なんで?」
弥生さんは首が一回転しそうないきそうで横に振っている。
対して雛は頬を少し膨らませたような顔をしてダメな理由を聞いている。
「なんでって…、優ちゃんは…ひっ、一人暮らしなの!」
「なんだそれ?」
うん、雛の言ったとおり。なんだそれ?俺の味方になってくれているのはうれしいけど言っていることが意味不明だ。一人暮らしなの!ってダメな理由になってないし。
「そ、それに行く当てがないってどういうこと?」
そうそう、それを先に聞いてほしかったよ。
「うん…。それは、今日の朝起きたら家が火事になってて命からがら脱出したのはいいけれど家も金もないあたしたち家族はバラバラに暮らすことになってでもあたしは親戚の家になんていきたくないだって家族一緒がいいもんと思っていましたが父や母に連絡してもつながらず完全に一人ぼっちになってしまっていてどうしようもないのが今の現状です」
(う、うそくせーーー!)
だいたいここら辺で火事があったなんてうわさを聞いてもないし、ニュースにもなっていない。
「うう…、そんなことがあったの…。つらいこと思い出させちゃってごめんね…」
うそ?弥生さん泣いちゃってるよ!気づいてっ、うそだよ!
「う、うん…別にいいよ」
ほらっ、雛の顔見て!自分でもすぐにバレるうそだって気づいてたけど何か騙されてる人いるから若干ヒいちゃってる顔してるから!
「でもでも、やっぱり優ちゃんの家に住むのはダメっ!」
「むむむ、な~ん~で~」
手をバタバタさせてただをこねている。
「だって…女と男が一つ屋根の下なんて…ダメだよ!優ちゃんのことだから間違いを起こしちゃうもん!だからいっそ私を…//」
いっそ私を…、何?
「それなら問題ない。あたしは確かに可愛いけど、優にそんな度胸はないでしょ?」
「おいおい、えらいこと言ってくれはりますな?」
「それはそうかもだけど…」
「弥生さんまで…。度胸はあるほうだったと思ってたのに」
一人落ち込む俺を差し置いて話を進める二人。
「それに優ちゃんの気持ちが大切だと思うの!」
「それもそうか、優いいの?」
崩れ落ちていた俺はいきなり話を振られてビクッとなって起き上がる。
「え?なんの話?」
「だから~」
「雛ちゃんと同居するんですか?それとも私と同棲するんですか?」
「弥生は違うでしょ?」
雛が俺の変わりにツッコンでくれた。
「まあとにかくだ。本当に家が無くて困ってるんなら俺は助けてやらんこともない」
「ほっほんと?」
「ええーーー!!」
俺はうなだれる弥生さんの肩に手を置く。
「でもまずは…、この焦げ臭さをどうにかしてください!」
「そうだった~~!!」
急いでキッチンに向かう弥生さんの後ろ姿は、なんだか俺の気持ちをホッコリさせてくれた。
「できましたよー」
弥生さんはできたての夕食をお盆にのせてテーブルまで持ってきてくれる。しっかりと雛の分も作ってくれているようだ。
その間俺はお茶を用意する。いつもは二人分、でも今日は三人分。
「では、」
「「「いただきま~す」」」
俺の合図で手を合わせて、皆でいただきますをする。なんか微笑ましい。
今日のおかずは俺の好きな鶏のから揚げだった。子供みたいとか思うなよ?
「うまいっ!」
「よかった~//」
「おいしいっ!」
「ありがとっ」
弥生さんの作る料理はどれもおいしい。俺は幸せものだな~~。
「それで優ちゃん、どうするの?」
「そうそうどうするの?」
「せっかくから揚げで良い気分に浸ってたのに、現実に引き戻さないでくれよー」
「優ちゃん!?現実逃避はダメだよ!?」
「優はから揚げひとつで旅立ってしまうのか」
「だってから揚げうまいだろ?最高だろ?デリシャスだろ?」
「一緒に住まわせてくれるなら一個あげようか?」
なっ、なに?から揚げをくれるだと…。
「ちょっと雛ちゃん!?優ちゃんはから揚げ一つでつられるような男じゃないよ!?」
おお、危なかった危なかった。あやうくつられるところだった!
「ん~じゃあ二個!」
「OKいいだろう」
「やった!」
あっ。つられちやった。
「優ちゃ~~~~~~~~~ん!?」