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第3話〝こんなにも出会いはイタイのか!〟

   ◇



 ………夢をみていた。


 薄暗く何もない風景。となりには可愛らしい、しかしどこか悲しそうな顔でうつむいている少女が俺と手を握って歩いている。俺はそんな少女の手をやさしく握って。少女もまた、俺の手を強くギュッと握っている。

 そんな俺はただひたすら前を向いて歩いていた。その結ばれた手と手を絶対に離さないようにして…。


 この少女だけは絶対に自分が守ってあげよう…。


 そう思えたから…。



   ◇


「 ――気をつけー、礼っ」

 

「「さよ~なら~~」」

 

 ふと目が覚めると帰りのホームルームは終わり、あいさつも済ませてしまった皆は帰ろうとしている最中だった。

 俺は大きな欠伸をし、机を見てみる。やはりよだれがあった。


「…誰か起こせよ」

 

 見渡せばクラスの約半分のやつらはもう教室を出ていったようだ。

 …、美耶もいない。いつもなら何も言わずとも一緒に帰っているというのに、今日のあいつは一人で先に帰ったようだ。俺を殴ったことで気まずさでもおぼえたのだろうか。


「…帰ろ」


 俺は筆箱だけを鞄に入れると、そのまま教室をあとにする。教科書類は後ろの個人ロッカーに入れておく。




 俺、八坂 優が住んでいる県は結構な都会だが、住んでいる町は都会の中心からやや離れているためそんなに都会ってほどのところでもない。

 そして俺の通っている高校は自分の家から徒歩で行ける距離にある。まあ長く見積もっても歩いて二十分程度だろう。

 公立高校で名前は清凛せいりん高校、全校生徒の数は約千二百人くらいだったか。学力面では上の下くらい。(俺が受かったのは奇跡とも言える。ましてや美耶なんて超常現象だな。)

 部活動には結構力を入れているらしく、文化部、運動部ともに多くの数がある。その中でも特に熱心な部活動は、剣道部と百人一首部だ。剣道部は部員数も多く、毎年全国大会に出場するほどの強さを誇っている。百人一首部は部員数こそ極わずかだが、二年生で部長をしている人が何かもの凄いとか(見たことないが)。他にもいろんな部活があるのだが特に有名なのがこの二つだな。

 ちなみに俺は何にも属していない。俗に言う帰宅部ということだ。

 まあ、学校は比較的に楽しい。だから部活が全てじゃない!



 

 いつもは誰かと一緒に帰っている道を今日は一人で帰る。どことなく不思議な感覚だ。

 

「あー、疲れたなー」

 

 こういう日には独り言が多くなってくるのは皆も同じだろう。何となくでどうでもいいことでも口にしてしまうものだ。


「何か歌いたくなってきたなー。ラララ~♪」


 今、即興で作った『ラララの唄』を歌っているのは変な人などではなく俺だ。まごうことなき〝俺〟だ。


 自分でも思う。本当にくだらないことをしていると(というか歌っていると)。でもやめられない俺がいる。

 歌いながら歩いていると、前方の交差点の青信号がチカチカと点滅し始めていた。


 

 いつもの俺なら走って渡りきっていただろう。しかし今日の俺はいつもの俺じゃない。ぼっち優君だ!走る気力も惜しいくらいなんだ!これからの独り言(というか歌)のためにもな!


 

 だから…諦めた…。


 

 思い直して猛ダッシュしていればよかったものの、このときの俺はあっさりと諦めてしまった。



 信号は…赤になる…。


 

 そして俺は再び『ラララの唄』を歌い始める。


 しかし歌い始めてすぐに、俺が待っている信号の向こう側で 、ビルで死角となっているところから一人の少女がひょっこりと出てきた(たぶん見た目てきには十才くらいだと思う)。そしてこちらの方に全力で走ってきているのが見えた。少女の目が俺をとらえているような気がするのだが気のせいだろう。だって知らない子だし。


 そしてその少女はまだ赤信号であるにもかかわらずに、器用に車が通っていないうちにこちらのほうへ走り渡って来る。


(おいおいっ、危ねーぞ!)


 そう思いながらも俺には別に何の関係もない子だったりするので、恥ずかしいくらいの説教をしてやりたいところだがしないでおく。たぶん。だって後から一緒に来ているであろう親にこっぴどく叱られるだろうからな。俺の出る幕ではないだろう。


 不本意ながら俺はばっちりと少女と目が合ってしまった。少女もそれに気が付いたのか顔を完全に俺のほうへ向けている。気のせいか俺のほうへ一直線に走ってきているような気もする。


 うん…気のせいであって欲しい。



 ドンッ!!


「一人でしゃべっているイタイあなた、助けてください!」

「おうふっ、イヤだ!」

「即答!?」

 

 俺はまさか少女の頭が腹に突っ込んでくるとは思いもしなかったため、気を抜いていた鳩尾をやられた。しかし、よろめきながらもちゃんとイヤだと答える俺強い。


 そして俺は少女の言葉の中の三つのワードで頭がいっぱいになっていた。


 まず一つ目のワード『しゃべっている』。ということはあの変な歌は聞かれていなかったということなのだろうか。


それはよかった。


 二つ目のワード『イタイ』。イタイとはどういう意味だろうか。ぶつかったから痛いということなのだろうか。それとも人間的にイタイということなのだろうか。後者ならば聞き捨てならないことだ!


 文字的には…………、ウソだろ。


「お願い!たすけてよ~。」

 

 よく見ると可愛らしい少女が、俺の服の裾を掴んで涙目でうったえている。

 

「オレハ、イタイヒト、デハアリマセン」

「何で片言!?」

「イタクナイ、イタクナイ、イタクナイ、イタクナイ、イタクナイ」

「分かった、分かったから! 怖いよ!」

「そうか、分かってくれたならそれでいい!」

「よかった~」

「それじゃあ」

「うん、またね!」


 少女は踵を返して歩いていく。

 

 その様子を見ていると、少し行ったところでやはり振り返って急いでこちらへ戻ってくる。


「なんでそうなるの~~!!」



 これが俺と、この少女の始めての出会いとやり取りだった。


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