第19話〝こんなにもあわあわするものなのか!?〟
「おっじゃましま「ここで待機! ちょっと先に部屋片付けてくる!」…せん! 了解です!」
後輩、涼村をドアの前で待機させ俺は一人先に家に入る。
「おかえりー!!」
厄介さんがわざわざ玄関まで元気よく迎えに来てくれた。
よほど暇だったのか寂しかったのか、俺の帰宅を満面の笑みで出迎えてくれている。
「ねえねえ学校どうだった? あっ、そういえばね! さっきテレビでムグっ!?」
「ちょっと落ち着け、とりあえず居間に移動しようか」
玄関で大きな声でしゃべられたらドアの向こうにいる後輩に雛の声が聞こえてしまうかもしれない。
そう思った俺は瞬時に雛の口を手で覆い、というか顔面を鷲掴み、そのまま居間まで連行する。
居間に入ると雛を解放する。
「ぶはっっ!! ちょっとなにすんの!? 急に人の顔を鷲掴みするなんて常人のすることじゃないよ! あんた狂人よ! 末恐ろしいわ~」
やっぱり我が家の居間は落ち着くなあ。
「ねえ聞いてんの? 聞いてないとかこの子末恐ろしいわ~」
「お前、末恐ろしいって言葉今日覚えただろ」
「は、は? そそそそんなことないしぃ。最初から知ってたしぃ。胎児のころに末恐ろしいって言葉がへその緒から伝わって聞こえてきてそのとき覚えたんだしぃ。今日のテレビで知ったわけじゃないしぃ。…あわあわ」
目がぎょろぎょろと気味が悪いくらい泳ぎまくっていて、あわあわと自分で口で言っているにもかかわらず、しょうもない嘘を貫き通すその姿。まさに滑稽!!
「まあ、今はそんなことどうだっていいんだ」
「そ、そうよね!」
ちゃぶ台を挟んでお互い正座をして対面する。
俺の顔が真剣になっているからか、雛もまじめな顔をして俺の様子をうかがっている。
「では本題に入る」
「はい」
「今、ドアの向こうに厄介なやつが来ている」
「なるほど、弥生ね」
「違う。…お前意外と失礼な奴だな」
「違うの? じゃあ誰?」
弥生さん以外にも厄介な人がいるの? と言わんばかりの表情をしている雛。
「俺の後輩だ」
「へ~。あたしの知らない人か。よし、厄介さんと名付けよう!」
厄介さんはすでに俺がお前に付けたあだ名なんだが。
そんなことを知らない雛は、厄介さん♪厄介さん♪ とへらへら笑っている。
「まあいい。その厄介さんが今からうちに来るんだよ」
「うん。ドアの前にいるんならそうなんでしょうね?」
「そういうわけで雛、押入れに入っていてくれ」
「どういうわけで!? 別にいいじゃん、優の後輩ならあいさつくらいしたいし! できたら仲良くも…」
「雛のこと説明するのめんどくさい」
「なんでよっ!? …わかった。百歩譲って部屋にいるから」
不服そうな顔で譲歩する雛。
「だめだ。あいつは絶対に部屋も見る。だから部屋の押入れで頼む」
「いやだ! 押し入れ狭いし汚いしジメジメしてるもん!」
「お願いします」
「土下座ぁーーー!?」
俺はプライドを捨て、雛に押入れに入ってもらうよう土下座をしていた。
「お願いします! 五体投地でもなんでもするんでどうか押入れに――」
ピーンポーン…
インターホンが鳴り響く。
受話器をとって相手を確認する。
『せんぱーい! 片付けまだですかー?』
…やはり涼村だった。
「ごめん! トイレしてた!」
『まだかかりそうですか?』
「待って! まだ下半身すっぽんぽんだから」
これで少し時間稼ぎができる!
『先輩すっぽんぽんなんですか!?』
「そうそう。だからもう少し―」
『では入りまーーす!!』
「なんでだ!!?」
玄関でガチャっとドアが開く音が聞こえたと同時に「あれ? 鍵あいてるー」という涼村の声が聞こえた。
鍵…かけわすれてた。
「雛! 押入れにGOだ!」
「えぇ~~」
「いいからはやく!!」
半ば強引に雛を部屋の押入れに連れて行く。
ちょっとちょっと! などと嫌がる声が聞こえるが、俺は雛を押入れに押し込むと、罪悪感から五体投地しながら襖を閉めていく。
「ちょっとの間だけだからね!!」
「それはわからん!」
「ちょっ」
パスン。と小気味のいい音をたてて襖が閉まる。
急いで居間に戻ると、涼村がちょうど廊下から居間に入ってくるところだった。
「あれ? 先輩すっぽんぽんじゃない…」
「今さっき着替えてきたところだから!」
「なーんだ。残念」
「ははは…」
とりあえず大きな難は去った。あとは如何にして涼村をおとなしくさせるかだな。
「とりあえずお茶でも飲むか。もってくるよ」
「ありがとうございます! じゃあ私はその間に部屋、主にいかがわしい物が隠してありそうな押入れを重点的に物色でもしてましょうかね!」
一難去ってまた一難。