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こんなにも狭い地球の片隅で!  作者: 枝野葉二 (LAND59)
第3章:ありったけの日常!?
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第17話〝こんなにも すごく大変 私の身〟

 俺は我を失いかけていた。

 


 今は3限目の古典の授業真っ只中。

 

 いつもと変わらない篠Tの授業。


 いつもと変わらない授業風景。


 そのなかに一つ、いつもと違ったところがあった。






 それは俺の鞄の中にいつもの弁当が入っていないというところだ。




 そう、俺は弁当を忘れてしまったのだ。


 ただそれだけか。今そう思った奴も少なくないだろう。

 

 弁当を忘れたら購買部に行けばいい。もしくは学食に行けばいい。そう考えている人も少なくないだろう。


 その考えは甘いんだよ。



 うちの学校はマンモス校だから購買部にしろ学食にしろ集まる生徒の数がハンパじゃないんだよ!!



 しかも、どちらも俺のクラスからかなり離れたところにある。だから俺がそこにたどり着く頃には、購買部は何もかも売り切れ。学食は満席ぎゅうぎゅう詰め状態。立ち食いしたらおばちゃんに怒られる始末。


 だから俺のクラスの奴らのほとんどが弁当を持参している。


「まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい…」


 まずいことになった。俺は昼飯を食べなかったら大変なことになる。どう大変なことになるかといえば、お腹と背中がくっつくぞ。なんて可愛らしい表現なんてできなくなるくらい大変なことになる。具体的に言えば枯れる。なにが枯れるかっていったら、もういろいろ枯れる。肘とか超枯れるから。


「肘が枯れる肘が枯れる肘が枯れる肘が枯れる肘が枯れる肘が…」


「ひっ! せ、先生! 八坂君が肘が枯れると言っています!」

「おー、水でもやっとけー」


 気がつけば、となりの席の白川さんが挙手をして篠Tにそう言っていた。

 篠Tもたいして気にも留めずにただそう応えていた。


「え、えっと…。八坂君ごめんね、麦茶でもいいのかな?…」

「ごめん俺の肘は生理食塩水しか受けつけないから」


 ゴソゴソと鞄をまさぐっていると思ったら、白川さんは自分の水筒を取り出して俺にそう尋ねてきた。


「あっ、そうなんだ…ごめんね?」

「ううん、気にしないで。俺の肘がちょっとばかしデリケートなだけだから」

「そうなんだ…」



 あぶなかった。もう少しで俺の制服がお茶(麦茶)くさくなるところだった。白川さんは少し天然なのかもしれない。成績優秀な子ってイメージしかなかったから何か新鮮。というかギャップ萌え。



 …まあ、そんなことはどうだっていい。俺は別になんとも思わない。おっとよだれが。


 とにかく今は俺の昼飯問題について考えなくてはならない。




 作戦1、授業をどうにかして途中で抜け出す。そして購買部へ。


 作戦2、どうにかして途中で授業を抜け出す。そして購買部へ。


 作戦3、どうにかして授業を途中で抜け出す。そして購買部へ。


 作戦4、ガンガンいこうぜ!



 う~~ん、…最後のはないな。

 よしっ!



 →作戦3、どうにかして授業を途中で抜け出す。そして購買部へ。



「先生、トイレに行ってきてもいいですか」

「授業中はダメだといつも言ってるだろー」

「漏れそうなんです」

「確かお前、さっきもそう言って行かなかったか?」

「ですよねー…」


 そう、俺は先ほど弁当のことに気付く前に本当に漏れそうになってトイレにいったのだった。

 立ち上がっていた俺は静かに座る。


 まずい。本当にこのままでは昼飯が食べられなくなってしまう。そんなことを考えれば考えるほど腹が減ってくる…………………。。


「---というのが、この短歌のひとつの意味です。それでは、もうひとつのこの短歌に込められた思いはなんでしょーか! …誰もわからないのかー? …なら今は41秒だから出席番号41番の人!」

「………おーい、41番の人ー。いないのかー? 今日欠席者いないはずだから、そんなことはないはずなんだけどなー?」


 ツンツンッ。


「や、八坂君八坂君っ。出席番号41番って八坂君なんじゃ「はい。 古池や 蛙とびこむ 水の音」…八坂君それ短歌じゃなくて俳句…」

「八坂ー、短歌って分かるか? 五七五七七でつくられたもののことだぞー」

「はい。 わたくしの お腹を満たして 水の音」

「おい、大丈夫か八坂? さすがに水の音だけじゃ腹は満たされないぞ?」

「はい。 ごめんなさい 俺がいるから 地球の二酸化炭素濃度を上げてしまっている」

「おい? 大丈夫か? 白目向いてるぞ!? ちなみに五七五でもなくなってるぞ!?」

「はい。 白くないよ 黒目だって 白いんだよ」

「八坂もういい! もういいから座ってくれ! 先生エクソシストとか見れない性質たちだから勘弁してくれ!」



 目に涙を溜めながら篠Tは俺に訴えかけてくる。


 ふふふ、これも俺の作戦のうちなんだよ。頭がおかしくなった風を装って保健室に行くフリをするという作戦だ。




 でもおかしいな? 白目を向いてる自覚はないんだけどな…。そういえば目の前が真っ暗だな。誰だ? 俺に『だーーれだ♪』ゲームをしているのは。目を押さえられてる感覚はないけど………。



「八坂君? 大丈夫?今にも倒れそうだけど! って八坂くーーーーん!!!」

 








 目が覚めると俺は保健室のベッドで横になっていた。


 そして、なぜか俺の口にはロールケーキが丸々一本突っ込まれていた。


「殺す気か!」


 俺は突っ込まれていたロールケーキを引き抜き、変わりに俺のツッコミをいれる。なかなかうまいな今の。

 

 時計を確認する。今はもう4限目が始まっている時刻となっていた。


「おー、やっと目が覚めたか。もう永眠するのかと思ったぞ。さすがは私のロールケーキだな」


 そういいながら仕切となっていたカーテンを開け、篠Tは俺が座っているベッドに隣に座ってくる。


「まさか倒れてしまうほど腹が減っていたとはね」

「お恥ずかしい限りで」

「ロールケーキの味はどうかな? 私が作ったんだけど…」


 そう言いながら篠Tは俺の顔を覗き込んでくる。

 篠Tの顔は整っているだけあって、覗き込まれるとなんだか気恥ずかしい。


「ほんとですか?」

「いや、うそだ」



 なんだこいつ。



「まあ、とりあえずこのロールケーキのおかげ?で助かりました。ありがとうございました。ていうかどれくらいの時間僕の口にロールケーキが突っ込まれていたんですか?」

「1時間くらいかな?」

「まじですか!?」

「うそだ」

「うそかよ!」

「だいたい1時間半くらいだな」

「悪化したほうかよ! …まあ次からは気をつけます」

「もう次というものはないようにしてもらいたいがね。そうだ、次はキスでもして起こしてやろうじゃないか」

「うわ、さいこー」

「棒読みだなー。…よしっ、もう平気そうだったら早く教室に戻りな。 皆心配してたから。あっ、皆っていうのはうそ。ごく一部の人の間違いだった♪」

「ひでー」



 普段通りなやり取りをして、俺は立ち上がり先生にお礼を言ってロールケーキを食べてしまうと、保健室を出て自分の教室へと向かった。すでに4限の授業が始まって15分くらい経っていた。

 振り向くと、篠Tが急いで本来自分が授業を行なっているはずの教室へと走って行くのが見えた。



 


 なんだかんだ言って篠Tは、自分の授業をほっぽりだしてまで教え子の面倒を見るような最高に良い先生なのだ。




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