第15話〝こんなにも屋上というのは良いことばかりのイベントというものを俺には起こしてくれないのか!〟
朝のホームルーム前、校舎の屋上には崩れ落ちている男とそれを慰めようとしている女の影があった。
「もうお婿にいけない……」
男は、というか俺は先程後輩の女子にズボンを下げられパンツをあらわにされた。
今はその恥ずかしさと悲しみにくれている最中である。
「ちょっ、先輩泣かないでくださいよ!」
え? 俺涙でてる? あっ、本当だ。汗かと思ったらこれ涙だ。何年ぶりだろうか、目からこんなものを流すのは。
「もういいんだ。俺にズボンなんて履く資格ないんだよ…」
「そ、そんなことないですよ!? とても可愛らしかったですよ。青と白のストライプ柄の…」
「やめてくれぇえぇぇーーーーー!! たまたまなんだ! 今日はたまたま地味なパンツの日だったんだよ! 信じてくれ!」
そうたまたまなんだ。決して俺のお気に入りのパンツなどではない。
「じゃあいつもはどんなパンツ履いているんですか?」
「いつものパンツ? そうだなー…、ってなに答えさせようとしてんだよ!」
「え~、教えてくださいよー、先輩のいつものパンツの柄」
「女の子が『パンツ』を連呼してはいけません。はしたない!」
ほんと近頃の女の子はそんなはしたないことも平気で言っている。けしからんな。
「じゃあ、先輩の家に遊びに行ってもいいですか?」
「なんの脈絡もない!? いや、まあいいけど…」
そこで気が付いた。今俺の家にはあの変なの(雛)がいる!
このことを知っているのは今のところ弥生さんだけだ。
一緒に住んでいることを知らない奴が俺の家に来たときには…
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「せんぱーい、遊びに来ましたー!」
「ん? お姉さん誰? 家間違えてるんじゃないの?」
「えっ…、ここは先輩の家じゃ」
「先輩? あー、優のことね」
「えっ、先輩のこと知ってるの?」
「知ってるも何も、同棲中だから」
「どどど同棲!!?」
という後輩と雛のやり取り。
「やあ、いらっしゃい。よく来たね」
と俺。
「……この変態ど腐れロリコンせんぱーーいっ!!!!!」
「ヒデブッ!!」
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なんてことになりかねない!
ここはどんなことがあっても家に来るのを阻止して見せる! じっちゃんの名にかけて! パンツのときの二の舞にはさせない!
「すまん鈴村。やっぱり家に遊びに来るのは――――――…。」
俺の丁重なお断りの言葉はホームルーム開始5分前のチャイムによって掻き消された。
「それじゃ先輩! 今日明日にでも遊びに行きますのであしからず。アデューー!」
そう言うと『涼村 実月』は屋上から走り去ってしまった。
昔から学校のチャイムでいい思い出なんてのはなかったが、これ程までに怒りと絶望を感じたのは今回が初めてかもしれない。
しかし、過ぎ去った事はどうにもならない。
あのとき〝ああしていれば良かったのに〟何て思い返して後悔してしまうことなど、俺にとっては日常茶飯事だからな。
「はぁぁ~…」
大きな溜め息をつくと、俺は朝のホームルームのため自分の教室へ向け屋上を後にした。