第11話〝こんなにも眠いのか…〟
…………。
フッと目が覚める。
たぶん小一時間寝ていたのだろう。
まだ全然疲れが取れていない重い上半身を起こす。そこにはまだテレビを見ている雛の姿があった。
俺が寝ていたこと気を使ったのかテレビの音量を小さくしている。そこらへんはしっかりしているようだ。
「…まだ起きてたのか」
雛の背に向けて質問する。
時計を見ると0時を少し過ぎたところだった。俺が寝たのはだいたい10時位だったので、約2時間ほど寝ていたことになる。
ということは、雛はこの約2時間の間ずっとテレビを見ていたことになる。
(これだから現代っ子は…。人のこと言えないが)
「うん。まだ起きてた」
先ほどの俺の質問に返答がきた。
「目、悪くなるぞ」
尻を掻きむしりながら注意する俺。
「大丈夫、大丈夫」
わき腹を掻きむしりながら応える雛。
大丈夫と言われてしまえばどうすることもできない。
「眠たくないのか?」
だから率直な疑問をもちかける。
すこし、ほんのすこしだけ大人びて見える雛も本来は9才の女の子。この時間で眠くはならないのだろうか。俺が9才のころなんてのは遅くても10時には寝ていたものだ。
「うん。眠たい」
意外な返答がきた。
眠たくないもんだからテレビで暇を潰していたかと思いきや、眠たかったとな。
「じゃあ寝ろよ。何で眠たいのに寝てなかったんだ?」
「……。どこで寝たらいいかわからなかったから…」
雛はテレビに顔を向けたまま応える。
聞こえた声は、今までとはうって変わって低いような気がした。
「どこで寝たっていいだろ」
「うん。そうなんだけどさ…」
そうなんだけどなんだ? もしかしてベッドじゃないと寝られないお嬢様体質だとか?
そうであれば俺の使っていたベッドを貸してあげようではないか。俺は別に敷布団でも寝られるしな。
「ベッドがいいならそっちの部屋にあるのを使っていいぞ」
玄関から見て右側の部屋を指差す。
ちなみに右の部屋が俺の部屋で、左の部屋が突然のお客用(実際はあまり使っていない)。
「べ、別にいいよ…、悪いし」
「なんだなんだ? ここにきて遠慮か? そんなタマじゃないだろ」
ニヤニヤしながら言ってやると、やっとテレビから顔をこっちに向ける雛。
「ちょっ、なんか失礼~~!」
さっきまでの声のトーンとはちがう、明るめの声が聞けた。
「んじゃあ、ベランダで寝るか?」
「いくらなんでもヒドイ! 今日の夜は少し寒いのに!」
今は6月。まだ少し夜は冷える日もある。
「んじゃあ、一緒に寝るか?」
「えっ//」
驚いたような声を上げる雛。
「冗談だよ。そこまで幼くないか!」
あまりからかうと本当に掴みかかってきそうなのでこれ以上はやめておこう。
「えっ! ああ、冗談だよね…」
あれ? 本当に寂しそうに見えるのは俺の気のせい?
「とにかく、小さい子は早く寝な。そっちのベッドをつかいなさいよ」
「いいの?」
「いいからいいから。俺も早く寝たいからお願いだからそうしてくれ」
正直もうきつい。眠い。だるいの三拍子が俺に襲い掛かっている。早く寝たい。
「うん。じゃあ借りるね?」
「おう」
やっと寝られる。
「あっ!歯磨き」
部屋に向かっていた雛は再びこちらを向き言ってくる。
「歯ブラシないから。明日買ってくるから。うがいだけでもしとけ」
「うん。洗面所は?」
「そこ出て左の扉」
「ありがと」
しばらくするとうがいをする声?が聞こえてきた。
再び雛が戻ってきて部屋の中に入っていく。目はすでに座っていた。
「おやすみ~」
部屋を閉める襖越しに聞こえてくる声。
「おやすみ」
しっかりと返事をしてやる。
ベッドに入る音が聞こえた。
「やっと寝たか」
俺もお客用の部屋に入り布団を敷く。
それにしても、「どこで寝たらいいかわからない」って言ってからの雛の声には、少しばかり違和感をおぼえた。
今までの雛からは考えられないくらいどこか寂しそうな、そんな声だったと思う。
どうしてなのかはわからない。まだ出会ったばかりの俺にはわからない…。
睡魔にやられる。
また、明日…………。