表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなにも狭い地球の片隅で!  作者: 枝野葉二 (LAND59)
第2章:同居!?
11/20

第10話〝こんなにもビックリな頂上決戦!?〟



 役割分担を始めて結構な時間が経った。

 そして俺たちはというと…

 

「だから~、絶っっっ対にバランスのエメマンだって!」

「いいや!スッキリの微糖だ!」

「わかってないね~。あの渋みがいいんじゃない!」

「なら苦すぎないブラックでもいいじゃん!」

「それとこれとはまた違くて~」

 

 かの有名なコーヒーの頂上決戦を行っていた。

 始まりは、俺がボケとツッコミのやり過ぎで疲れたのでコーヒーを買ってくると言ったら、あやつがバランスのエメマンを注文してきたのだ。ただそれだけだ。されどそれだけ。俺が邪道だと抗議したことから今にいたる。


「それにね~、芸人が違うのよ芸人が!」

「ほう、例えば?」

「た、例えば? 例えば~……。」

「知らずに言ったのか」

 

 俺がジト目で見やると、雛は焦ったような顔つきになる。


「とっ、とにかくあたしはエメマン派。これだけはゆずれないから!」

「俺だってスッキリ微糖派。ゆずれないね!」

「うん! 私もブラック派はゆずれない~」

「まあ、ブラックもブラックでいいところがあるけど…、え? ブラック? …って弥生さん!?」


 となりを見ると弥生さんがブラック派で決戦に参戦していた。


「なんでここにいるんですか!? 鍵かかってましたよね!?」

「うん。ほら、私にかかれば鍵なんてちょちょいのちょい、だよ?」

 

 すんごい屈託の無い笑顔ですんごい爆弾発言したよこの先輩!


「こらっ!」


 おお!雛が弥生さんを叱ろうとしている!うんうん、こういうところはしっかりしてるんだな。


「まずはインターホンを鳴らしなさい!それから開けなさい」


 違うよ。インターホンを鳴らす鳴らさないじゃないんだよ。開けるか開けないかの問題なんだよ。


「ごめんなさい…。これからはインターホンを鳴らした上で開錠させていただきます」

「何?俺ん家の鍵ってインターホン鳴らしたあと、家主が出てくる前に開けられるほどしょぼいの?それとも弥生さんのピッキング技術が最高峰級なの!?」


 もし家の鍵がしょぼいのであれば今すぐにでも変えなくてはならない。


「どっちもじゃないかな?」

「まさかのどっちもだった~~~!」


 鍵は変えられるとしても弥生さんは危険だ!特技がまさかのピッキングとは!


 そして疑問が一つ浮かんできた。


「えっと…、そういえば今日の夕飯を作りに来てくれた時も…。あの時はテンパッて気づきませんでしたけど…」

「はい!ちょちょいのちょいで!」

「ちょちょいのちょい~~~~~!!」


 今回ほど笑顔での〝ちょちょいのちょい〟という言葉が怖かったことなどなかっただろう。

 たぶん俺が生きている間での最恐の〝ちょちょいのちょい〟になるだろう。


「こんなことするのは優ちゃん家だけなんだよ//」


 だからなに~~!! 顔を赤らめてるけど…、だからなに~~!!

 俺ん家だけ? なに? 俺ん家の鍵のどこに弥生さんの開錠心をくわだてる要素があるんですか~~!?


「あのですね…、俺ん家だろうと何だろうと勝手に他人の家の鍵を開けるというのは犯罪ですよ?」


 〝犯罪〟という言葉でビビらない人はいないだろう。だからこれでわかってくれるはず!


「…優ちゃん家だけだよ?」

「同じだよ~~!!とにかくダメですわかりましたか?」

「優ちゃんがダメって言うなら…はい!もうしません。」

 

 よかった!初めからダメって言っておけばよかったのか。


「ふふっ、もう亭主関白だなんて//」

「あれ? なんか思ってたより話が深くに?」


 まあいいか。やめてさえくれればこの際どうでもいい。


「これで一件落着じゃの~~!」

「とりあえずちゃぶ台にのせてる足をどけなさい」


 雛はどこから出したのか分からない扇子せんすを明後日の方向にかかげて、余っているほうの手を腰にあてて、足をちゃぶ台の上にのせていた。

 いったい誰のマネをしてるんだか。とりあえず叱っておいた。


 雛は「ぶー」と言って頬を膨らましおとなしく座った。ツッコミがなかったのが悔しかったのか寂しかったのか。


「とりあえず、弥生さんはまた何でうちに?」

「エメマンの頂上決戦の声が聞こえてきて…、ブラック派がいなかったからこれは行かなければと」

「聞こえたの!? 向かいのアパートといっても道路を挟んで向かいだよ!?いくらなんでも聞こえないでしょ!」


 もし本当に聞こえたのであれば、鍵と一緒にもっと分厚いドアを買わなくてはならなくなる。


「ふふっ、冗談だよ! 優ちゃんの反応が可愛いからつい//」

「からかわれてた~!」


 でもよかった!ドアを買わなくて済んだ。はっきり言ってドアってどこに売ってるんだろうと、そして値段はいくら位するんだろうかと悩んでいるところだった。


「じゃあ何で弥生はここに来たの?」

「うん。おやすみって言いそびれてたから」

「そうなの? じゃあ弥生おやすみ~♪」

「雛ちゃんおやすみ~! 優ちゃんもおやすみ♪」

「あ、うん。おやすみなさい」


 そう言うと弥生さんは帰っていった。

 いつの間にかエメマンの頂上決戦も終わっていた。たぶんブラック派の勝ちだろう。弥生さんには勝てる気がしない!

 雛ももう飽きたのかテレビを見はじめている。

 

 やっと少し落ち着いてきたな…。この調子で頑張っていければいいけど。

 あっ、まだ全然役割分担決まってない!…、まあ当分の間はできるだけ俺がしていこう。徐々に雛に色々と教えていけばいいだろう。

 静かだった毎日が今日をさかいに急に騒がしくなった。

 今までの毎日の一週間分はある疲れがどっと溜まった今日。


 忘れられそうにないくらい刺激的な体験をした今日。新しい小さな家族?ができた今日。


 思い返しながら寝転がると、優しい闇が俺を包み込む。もうすぐ俺は意識を手放す。そのまえに。




 





 ………。弥生さん〝おやすみ〟って言うのためだけにピッキングして家に入ってきたのかよ!?





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ