本当の気持ち
私が静かに教室に入ると、
私を除くクラス全員がいた。
休み時間だから、それぞれ
はしゃいだり
喋ったりしていた。
「花音ー5時間目体育とかマジ疲れなかったぁ?」
「うんうん!食べたもの出るー」
…のんは相変わらず、前野さんと仲良く話している。
ただ、さっきまでとは違うのが、
のんを囲んでいるメンバー。
前野さん・藤井さんのほかに
結李がいた。
「ねえ!のんってすごい走り速かったよね☆尊敬するー」
「そ…そう?ありがとう」
私はすぐに自分の席に着き、
さっきのメモを書いた人物を探し始めた。
けど…
いくら考えてものん以外に書きそうな人がいない。
いや、あれはただの嫌がらせかもしれない。
私の反応を楽しむだけかもしれない。
けど、けど…
「友達じゃないの?意外だねー・・・。野村さんと喋ってる時花音ちゃんはいつもよりすごく楽しそうだったけど」
安藤さんの言葉が頭から離れない。
「いつもよりすごく楽しそう」
そうなのかな
そうだとは思えないんだけど?
のん、すごい楽しそうじゃない。
あ、ほら、今笑ったし
「はあ…」
私はため息をつくと、机に顔を伏せた。
―放課後―
あっという間に時は過ぎ
教室には私だけがいた。
ただぼーっと机に伏せているだけ。
パーッ…
吹奏楽部の基礎練の音が響く
1,2,3,4…
様々な運動部の掛け声
カーーーーンッ
野球部のボールを打つ音
キャハハハッ
帰宅部の人たちの楽しそうな声
放課後らしいその音が教室に響き渡る。
「行こう…」
帰宅部の私が行くところなんて普通ない。
けど、今日だけは違うのだ。
キィ.....
静かに屋上のドアを開ける。
サァ.........
静かに風だけが流れる。
「あ…秋穂!?」
後ろのほうから声がした。
見ると、屋上に行くための階段の下に
ある人物が一人、驚きながら私を見ていた。
「…の…のん?」
嘘でしょ
私はほっぺたをつねってみた
痛い
「秋穂…秋穂…」
大きな瞳で私を見つめているのは
間違えなく、
西山花音…
のんだった。
「メモ…見てくれたんだね…」
泣き出しそうなのんは、駆け足で階段を上ってきた。
「…書いたの、のんだったんだ」
私は降りようとしたけどのんにつかまりそうだからやめた。
「うん。ごめんね…屋上、入ろう」
キィ
再び開くドア。
「秋穂…ここ、座ろう」
校庭が見渡せるそこに、私とのんは座った。
逃げようと思えば逃げれるけど
逃げる気もなかった。
のんと話したい、ずっと話したかった。
「秋穂、今から何も言わずに黙って聞いてて。私の本心」
私はコクンと頷く。
それに合わせてのんはゆっくり話し始めた
「私ね…小学校の時にいじめられてたんだ。けどそれは暴力的だったりとかじゃなくて、存在自体を無視される状態だったの。それで、どうしても中学で変わりたくて、塾で一緒だった菜々と優実に助けてもらって、明るく変わろうとしたんだ…。
中学に入って秋穂と出会って、初めてみたときからなんか運命感じてさっそれで話しかけた。そしたらその日、優実に小学校の頃の秋穂の話を聞いた。私と同じだったって聞いた。そしたら私、怖くて。
秋穂といたら、せっかく変われたのにまた無視されると思って、怖かったの…」
のんは何回も謝り続けた。
「いきなり話しかけて、いきなり無視して、今更こんなこと言って本当にごめんなさい」
そういうとまた話し始めた。
「しばらく秋穂を無視して、勇気が出たらまた話しかけよう!なんて自己中な事考えてたの、私。だけどね?渡辺結李ちゃん…いるじゃん?秋穂と過去に仲が良かったんでしょ?私、その子に言われたの。
『秋穂の事これからも無視してくれたらうち等のグループに前野さんとかとセットで入れてあげるよ。毎日学校帰りとかに一緒に遊びに行こうよ』って…。それを菜々に言ったら大喜びでさ。私、菜々も好きだから秋穂と天秤にかけられなくて。結局無理やり結李ちゃんといたんだ」
そんなことがあったんだ―。
「ごめん、許してもらえるなんて思わないけど、だけど、だけど…」
「お願いだからもう一度私と仲良くしてください」
立ち上がったのんは、お辞儀をした。
「…」
言葉が出ない
どうすればいいのかな
「自己中でごめんね。だけどどうしても話したかったの。もし許してくれるならメールして?」
のんはさっきと同じメモにメールアドレスを書いて
屋上から出ようとした。
「待って!」
それがとっさに出た言葉。
驚いたのんが振り返る。
「待って…メールとかで片付けたくない」
私はのんの方に向かった。
「許すよ…?許すに決まってるじゃん。のんは悪くないんだし…。ただ、私と一緒にいたらのんまで無視されることになると思うよ?」
のんは驚いたまま。
「だからもういいよ…。1人なんて慣れてる。今更誰かといようなんて思わないよ…。のんは結李といたほうがいいよ」
だって…ね?
中学校で会ったばかりの人じゃない。
一度は「友達じゃない」って思ったじゃない。
今更一緒にいようなんて、おかしいよ
「秋穂…私…秋穂ともいたいし、菜々ともいたい」
それがのんの本心のようだ。
だけど私は前野さんに嫌われてるし。
「のん。私はもういいって。前野さんと居てよ」
「やだっ」
私だって嫌だよ…
本当は
誰かと居たい。
家に帰っても殴られ続けるだけなんだよ?
1人は嫌だ…
だけど、のんみたいに素直になれないよ
欲張りに何かなったら駄目なんだよ
もう…どうすればいいわけ。