1枚のメモ
「ごめんね」
遠くから何度もその声が聞こえた。
悲しそうに、震えた声。
誰の声かわからない。
顔もぼやけて見えない。
だけど
何故か安心できる、誰かの声…。
パチッ
目を開けるとまぶしい光。
「ん…どこ、ここ」
意識がボーッとしてて
よく周りが見えないけど
天井とかなくて青空が見えて
壁とかなくて風がスゥーっと通り抜けてる。
「あ…屋上か」
私…あれからずっと寝てたのかな?
今何時だろう
空を見る限り、まだ夕方ではなさそうだ。
校庭には体育をしている1年女子が見える。
…と、いうことは今は
5時間目?なのかな
「授業…サボるしかなさそうだ」
何をしようか迷って
結局、もう一度寝転んだ。
なんで倒れたんだろう…
よくわかんない。
カサッ
傍で何かの音。
…私の寝転んでいたであろう場所の横に
1枚のメモがあった。
今流行りのキャラクターのダブルピースしてる
可愛いメモ。
そこに、そのメモに似合う文字で書いてあった。
【本当にごめんなさい。今まで本当に…ごめんなさい。許してもらえるわけないけど、ずっとずっと秋穂と話したかった…。だけど、皆が怖かったの。私、弱虫だから。言い訳ばっかりでウザイよね。私なんかを許してもらえるわけないよね。ごめんね、ごめんね、ごめんね…。
だけど、そんな私を許してくれるならもう一度だけ、もう一度だけでいいから秋穂と話したいな。
お願いだから、今日の放課後にまた屋上に来てください。待ってるから】
差出人の名前がないそのメモ。
文章から見て私と過去に友達だった子…。
のん―…?
少し期待してみた。
まあ、そんなわけないか。
「皆が怖かった」なんて言うわけないもんね。
じゃあ、誰だろう。
とりあえず、今日の放課後わかるかもしれないし
私はゆっくり立ち上がって
皆が体育してるのをボーッと見ていた。
100mのタイムを計っている。
「頑張れー花音ーっ!」
「やっば!花音めっちゃ早いじゃんっ」
「頑張れーーーー」
やっぱり私とは全く違う人間なんだな、のん。
すごい走り速いし。
人気者だし。
のんが嫌われてたなんて嘘だよ、やっぱり。
あ…
のんを囲んでる人だかりの中に
私がよく知ってる ある人 がいた。
「じゃあさじゃあさ!夏休み明けたら秋穂の事無視しようよ」
あの夏祭りの日
皆に「無視しようよ」と指示した
渡辺結李だ…。
のんの肩をポンポンたたき、何か話しかけている。
―そしてのんと肩を組んで
前野さんと藤井さんと一緒に歩いている。
あ―
友達になったのかな。
やっぱり私よりも結李といるほうが楽しいんだろう。
―結局、メモの差出人がわからないまま、
5時間目の終わりのチャイムが
学校中に鳴り響いた。
「…教室に戻ろうかな」
ガチャッ
屋上を出て、誰も歩いていない静かな廊下を歩く。