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とある生命の話

作者: 雲雀 あお

 ここではないどこかの世界。何もない空間に一つの生命いのちが生まれました。

 そこにはそれ以外何もなく、生命はひとりぼっちでした。でも生命は『独り』が当たり前で、『独りぼっち』という言葉さえ知りませんでした。

 何もない真っ白な、あるいは真っ黒な空間を独りただよう生命。そんなある時、生命は他の生き物と出会いました。その生き物は生命に気付かないまま去って行きました。

 生命は初めて見た生き物に驚き、そして不思議に思いました。それは見た目の違いでした。

 生物は2本の棒状に伸びた部分を使って前へ進んでいました。しかし生命にそんな部分はありません。そこで生命は思いつきました。わからないなら同じ形になればいい、と。早速さっそく生命は自身の形を先ほどの生き物と同じに変化させました。

 そのままの姿でさらに何もない空間を漂っていると、今度は4本の棒状になった部分をもつ生物を見かけました。生命はまねして形を変えました。その空間をどんどん彷徨さまよっているうちにたくさんの生き物を見るようになりました。生命はそのたびに姿を変え、進んでいきます。

 そして生命は気付きました。何もなかった空間にたくさんの生き物が溢れ返っていることに。

 青く息吹いぶく空に力強く脈打つ大地。ざわざわとさざめく森に涼やかな音を奏でる河。寄せては返す海に輝く太陽。

 そして今まで見てきた生き物たち。

 そこには生命の知らない世界が、広がっていました。

 生命はその世界を飛び回りました。生き物の営む生活を間近で見るために。

 最初は見るだけで満足していた生命でしたが、段々混ざりたくなってきました。しかし生き物に近付いても誰も生命に目を向けてくれません。目の前を通り過ぎても知らん顔。同じ生き物同士で話すだけです。そこで生命はその生き物たちと同じ姿になれば仲間になれると考えつきました。

 今まで見てきたたくさんの生き物の中で、生命は一番最初に見た生き物の姿を選びました。その姿が一番生き物たちに近かったからです。

 生命はその生き物たちが自らのことを『人間』と言っていることを知っていました。

 『人間』の姿なら大丈夫。そう思って生命は生き物たちの中へ入って行きました。思った通り、『人間』の姿なら生き物たちは生命を見てくれるし声もかけてくれました。嬉しくなった生命は生き物たちの暮らす場所を歩きまわりました。そこを生き物たちは『街』と呼んでいます。

 街の中、目につく物全てが新しくて、生命はそれらを見るたびに姿を変えていきました。それは生命にとってはいつものことでしたが、生き物たちにとっては違いました。突然叫び、逃げ出した生き物たち。驚いた生命は足を止めました。少し距離を置いて生き物たちが見ています。

「化け物!」

 そんな声が聞こえてきました。それは次第に大きくなって、生命はそこにいられなくなりました。『街』から追い出されて生命は不思議に思いました。

 『化け物』とは何か。生命はまだ見ぬものを見たくてもう一度生き物たちのところへ行くことにしました。しかし中には入れませんし、入ったらまた追い出されてしまいます。

 生命は一生懸命考えました。するとそこへ一人の生き物が通りかかりました。手に『草』が一杯入ったかごを持った『人間』でした。

「こんなところで何をしているんですか?」

 その生き物は言いました。

「『化け物』を探しているんだ」

 生命はそう答えます。

「・・『化け物』・・・?」

 首をかしげる生き物に大きく頷き返します。『人間』そっくりな生命が『化け物』本人とは知らない生き物は首をかしげたまま考え込んでいます。

「そういえば・・あの山の奥にくまより大きな『化け物』がいるっていう噂を聞いたことがあるわ」

 やがて生き物はそう言いました。

「ありがとう」

 生命は早速そこへ向かいました。『山』や『熊』も生き物の暮らしの中で知ったことだったので迷わずに行くことができました。しかし『化け物』は見つかりませんでした。そこで見つけたのは『熊』より大きな『人間』のような形をした『木』だけでした。

 生命はしょんぼりして『街』のそばまで戻ってきました。すると、またあの生き物と出会いました。生き物は空のかごを持って『街』からでてきたところでした。

「あら、こんにちは。また会いましたね」

 生き物は言いました。

「こんにちは。『化け物』はいなかったよ」

 生命はしょんぼりとそう言いました。

「ああ・・。私も父に聞いて知ったんですけど、あれはただの見間違いだったそうなんです」

 生き物はそう言って「ごめんなさい」と頭を下げました。

「『見間違い』・・・?よくわからないけど、とにかく『化け物』はいなかったんだ」

 生命は本当にがっかりしていました。

「気を落とさないでください。・・・そうだ!海には『化け物』が出るってよく聞きますよ」

 生き物はそう生命に言いました。

「海はこの道をまっすぐ進めば着きます。行ってみてはどうですか?」

 そう言って一本の道を指しました。

「ありがとう。行ってみるよ」

 元気を取り戻した生命はその道を歩いて行きました。

 海にはすぐにたどり着きました。しかし肝心の『化け物』は見当たりません。しばらく海を眺めていたら大きな波が押し寄せ、生命はすっかりれてしまいました。

「兄ちゃん大丈夫かい?今日は海が荒れているからね。近寄らないほうがいいよ」

 そう言ったのはみすぼらしい四足よつあしの生き物でした。その生き物はその後に「ま、どうせおいらの言葉なんてわからないだろうけどな」と続けて、去って行こうとしました。

「待って、『海が荒れる』って何?『化け物』のこと?」

 生命は慌てて生き物を呼び止めて問いかけました。『街』を追い出されて以来生命と話してくれたのはあの生き物とこの四足の生き物だけだったのです。

「・・・お前、おいらの言葉がわかるのか?」

 少しだけ驚いたような声で生き物が訊きます。それに生命は頷きました。

「人間のくせに犬の言葉がわかるなんてヘンな奴だな。それに海は『化け物』じゃねぇよ。・・・お前『化け物』を探してんのか?」

 『犬』は面倒くさそうに口を開きました。

「うん、そうだよ」

「なら鏡見てみな。『化け物』が映ってるから」

 そう言って今度こそ『犬』は去って行ってしまいました。でも生命はもう『犬』のことなんか気にしていませんでした。『鏡』に『化け物』が映る。そのことだけを考えて、『鏡』を探しに行きました。幸い、『鏡』はすぐに見つかりました。

 道に落ちていた『鏡』。生命は嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。ドキドキしながらひびの入った『鏡』をのぞき込みます。そこには少し歪んだ『人間』の姿をした生命と背後の『森』が映っていました。

 生命はよく『鏡』を見て、振り返って何もいないことを確かめ、また『鏡』を見てみました。しかし何度覗いてみても生命の望む『化け物』はどこにも映っていません。

 生命はしょんぼりと肩を落として来た道を戻りました。


 その後も生命は生き物が持ってきてくれる話を頼りに『化け物』を探し続けました。でもやっぱり見つかりません。

「元気出してください。きっと見つかりますよ」

 生き物は『化け物』を探しに行っては落ち込んで帰ってくる生命を励まし続けました。やがて生命は『化け物』の話を聞くためだけでなく、その励ましの言葉を聞くために生き物に会いに行くようになりました。それは日が経つにつれ頻度を増し、とうとう毎日通うようになりました。そして生き物もそんな生命に会うために毎日来てくれるようになりました。

 生命は思いました。

 ―― この生き物とずっと一緒に居たい ――

 『化け物』を見ることと生き物と一緒にいることが生命の望みになりました。けれど生命がどんなに一緒に居たいと思っても、日が落ちれば生き物は『街』へと帰ってしまいます。

 ―― どうすればずっと一緒に居られるのかな ――

 生命は必死に考えて、ひらめきました。

 ―― そうだ、生き物と同じ姿になればいいんだ ――

 早速生命は生き物とそっくり同じ姿になりました。そして、ずっと前に見つけた壊れた『鏡』を覗いてみました。そこには生命がずっと一緒に居たいと思っていた『生き物』が映っています。

 ―― これでずっと一緒だ ――

 生き物と同じ顔でにっこり笑って、生き物に会いに行きました。

 生命は、後は『化け物』を見つけるだけだと張り切っていました。

 『生き物』の姿をした生命がいつもの場所へ行った時には、すでに生き物が来ていました。生き物を見つけた生命は嬉しくて走り出しました。最初に言うことはもう決めてありました。

「これでずっと一緒だよ」

 ところが生命に気付いた生き物は悲鳴をあげて逃げ出しました。

「えっ!?ま、待ってよ!」

 訳がわからないまま生命はその後を追いかけます。

「来ないで!化け物!!」

「えっ、『化け物』?!どこ!?」

 生き物の言葉にきょろきょろと周りを見渡しました。しかし生命には『化け物』を見つけることができません。

「ねぇ、待ってよ!『化け物』はどこ!?」

 呼びかける声を無視して生き物は森を走り、山を登り、さらに先へと逃げて行きます。

「待って、待ってよ!!」

「いやぁ!来ないでっ!」

 生き物は時折振り返っては追いかけてくる『化け物』が恐ろしくて何も考えられなくなっていました。

「あっ・・!」

 気付いた時には既に遅く、生き物は崖から落ちてしまいました。崖の下は流れの速い河が流れていました。生き物の小さな体は濁流だくりゅうにのまれてあっという間に流されていきます。

「待ってよ!『化け物』、どこに居たの?!」

 探し求めた『化け物』をとうとう見られると信じる生命は、生き物の後を追って崖を飛びおりました。

 暴れ狂う水の流れの中、生命は必死で生き物を探します。ようやくつかんだ生き物は冷たく動かなくなっていたけれど、生命はほっと一安心しました。

 ―― これで『化け物』を見られる ――

 嬉しさと安堵あんどから生命はゆっくりと目を閉じました。


・・・・・・・・・・・・・・・


 翌日、海の近くの河原で死体が発見されました。それは双子のように瓜二つな2人の少女でした。しかしその少女の両親は、「娘は双子ではない。姉妹もいない」と言いました。けれどその話を信じる人は誰もいませんでした。

 読んで頂きありがとうございます。ご意見・ご感想ありましたらお願いします。


 次回は連載小説に挑戦したいと思います。内容は、何番煎じかわからない勇者とか魔王とか出てくるファンタジーになる予定です。

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