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実は転生した王太子が、魔女と呼ばれた私をずっと守っていた件  作者: 九葉


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第5話

会場が凍りついた。


文字通り、凍りついた。


私の足元から、薄い氷の膜が広がっていく。

シャンデリアの光を反射して、床が鏡のようになる。


「きゃあっ!?」

「な、何だこれは……!」


悲鳴と椅子が倒れる音。


私は震えていた。

魔力が、抑えきれなくなっている。


(ダメ……また、暴走する……!)


腕輪が熱い。

セイルがくれた新しい腕輪も、もう限界だ。


レオハルトが、青ざめた顔で叫ぶ。


「やっぱり魔女だ! みんな下がれ! こいつは危険だ!」


彼は懐から小さな水晶を取り出した。

赤く光る、呪術的なもの。


「これで、お前の魔力を暴走させてやる!

王太子殿下の前で、怪物だと証明してやるよ!」


水晶が割れる音。


瞬間、私の体を灼熱の痛みが走った。


「う……あぁっ!」


視界が歪む。

魔力が、津波のように溢れ出す。


氷の結晶が天井まで舞い上がり、会場を白く染めていく。


(みんなが……死んじゃう……!)


恐怖で頭が真っ白になる。


そのとき。


温かい手が、私の背中を抱きしめた。


「エリシア、目を閉じて」


セイル──王太子セイラフィールの声。


「僕に任せて」


彼の指が、私の腕輪に触れる。


カチリ。


新しい腕輪が外れた。


「!? セイル、何してるの!?」


「君の魔力を、もう抑える必要はない」


彼は私の耳元で囁いた。


「だって、君は怪物なんかじゃない。

君の魔力は、世界で一番美しい氷の花なんだ」


その言葉と同時に、私の魔力が爆発した。


でも、誰も傷つかなかった。


氷は人を襲わず、ただ美しく舞い降りる。

壁に、床に、天井に──

巨大な氷の薔薇が、次々と咲き始めた。


会場が、息を呑む。


「な……何だ、これは……」

「美しい……」

「まるで、夢みたい……」


レオハルトが、膝から崩れ落ちる。


「う、嘘だ……こんな魔力、ありえない……」


セイルは私を抱きしめたまま、静かに宣言した。


「レオハルト殿下」


声は穏やかだけど、絶対零度の冷たさだった。


「貴方が今使った水晶──隣国で禁止されている『魔力増幅器』ですね」


会場がどよめく。


「そ、それは……!」


「証拠はここに」


セイルが手を挙げると、氷の薔薇の中から水晶の欠片が浮かび上がる。

赤い光が、まだ残っている。


「貴方はエリシアを陥れるために、隣国から密輸させた。

しかも、私の帰国祝賀会を利用して」


レオハルトの顔が、真っ白になる。


「ち、違う! これは罠だ! 魔女が仕組んだんだ!」


「いいえ」


私は、初めて自分の声で言った。


「私じゃない。あなたが、私を怪物に仕立てようとした」


魔力が収まる。

氷の薔薇は静かに輝き、会場を幻想的な庭園に変えていた。


セイルが私の手を握り、みんなの前で膝をつく。


「エリシア・フォン・ローズベルク嬢」


王太子が、私に跪く。


会場が、完全に静まり返る。


「五年間、君を一人にさせてごめん。

ずっと、そばにいたかった。

黒マントでしか守れなくて、ごめん」


涙が、ぽろぽろと落ちる。


「私は王太子としてじゃなく、ただのセイルとして、君に伝えたい」


彼は立ち上がり、私の頬に手を添えた。


「君の魔力は、僕の心を凍らせたことがある。

五年前、君に一目惚れして──もう、他の誰にも目がいかなくなった」


会場が、どっと沸いた。


「好きだ、エリシア。

ずっと、君だけだった」


私は、もう何も言えなかった。


ただ、抱きしめるしかなかった。


氷の薔薇が、私たちの周りで優しく舞う。


まるで、祝福するように。

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