5.少女の冒険 その3
僕は知らないところにいた。
目の前にはたくさんの花のある草原があった。
そこで1人の人がいた。
その人は綺麗な白髪の女の人だ。
その人が綺麗な人だってことはわかる、でも何故か顔だけがモヤがかかったようになっていて認識することが出来ない。
その人は僕に向かって話し始めた。
「可愛い───よ。お前は───────ない。今すぐ───れ。───の本当の力を───だ。」
なんだ?何を言っているのか全然聞こえない。
喋っている単語はわかる。
ただ脳が言葉を認識しない。
一部を勝手に削ぎ落としてしまっている。
しかし本当の力とはなんだ?
僕に別の力でもあるのか?
もしあったとしてだ。
それをもう死にゆく僕にどう使いこなせって言うんだ。
「お前の───は────だ。お前はまだ───だ。」
ダメだほとんど聞こえないな。
本当に何言ってるのか、分からない。
僕からしたらお前はお前はってずっと言ってる変な人にしか見えない。
こんなのが最後の夢なんて最悪だな。
僕は前世にどんな悪いことをしたらこんな夢を見ながら死ぬんだろうな。
とそんなことを考えているとその白髪の女が唯一はっきりとわかる言葉で僕にこう告げてきた。
「お前の能力はお前の体が知っている。」
どういうことだ?
僕の能力を僕の体が知っている?
そもそも何故それを?僕はホブゴブリンとの戦いで負けたんだ。
人生ってのは2度目はない。
だからこれで終わりのはず…だけど。
この白髪の女の言っていることは僕は死んでないとでも言いたげだ。
するといつの間にか僕の体が眩い光を放ち始めた。
はぁ?僕は何も言ってないし何も理解できてない。
これでもう終わりなの?
僕はまだ能力ってなんなのかもわかっていない。
能力?異能のことを言っているのかもしれないがまた別のことかもしれない。
何も分からないがどんどん僕を包む眩い光は大きくなり、遂に僕のからだを飲み込んだ。
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目が覚めるとそこはついさっき僕が気絶した場所!?
ホブゴブリンも先程僕を殴った位置にたっている。
しかも体の痛みはなくなっている。
どういうことだ。
僕は確かに殴られたはず、なのに何故僕の体を動くんだ。
いや動くというか動きすぎじゃない!?
こんなに僕素早くないし力もないはずなんだけど。
これが能力ってやつ?
まぁとりあえず目の前のホブゴブリンを倒さないと始まらないか。
なんだか先程までは勝てないと感じていたホブゴブリンに今はあまり勝てないと思っていないように思う。
まるでホブゴブリンを倒せると僕の体が言っているかのようだった。
刹那ホブゴブリンが声を上げながら僕の目の前に来る。
僕はホブゴブリンの攻撃を後方に飛び回避し、そのまま踏み込みホブゴブリンの腹に横凪ぎをした。
すると何故か今まで全く歯が立たなかった攻撃が嘘のように綺麗に入った。
ホブゴブリンの腹からは大量に血が流れている。
ホブゴブリンも何があったのか分からないような困惑顔をしている。
まぁ僕も何が起こっているのかわかっていないんだけど。
とりあえず目の前にいるホブゴブリンを倒せそうだということだけは理解できる。
だから僕はさらに距離を詰めた。
ホブゴブリンを僕を振り払うように両手を振り回す。
しかし僕はそれを見ながら避けてホブゴブリンの右腕をそのまま切り刻んだ。
大量の血を流し声にならない声を上げている。
ホブゴブリンが痛みに悶絶している間に僕はホブゴブリンの左足も切った。
ホブゴブリンは死にたくないのかまた暴れだした。
もう攻撃と呼べるようなものではなくただただ僕を追い払うかのようなそんな攻撃だった。
そんなホブゴブリンの腕を振り回すスピードが少しづつ遅くなってきた。
目も虚ろだ。
血を失いすぎたのだろう。
この世界はどんな生き物であれ、血を失いすぎると死ぬ。
別に君に恨みがある訳では無いけど僕の糧になってくれ。
そう頭の中で願っているとプツリと糸が切れたようにホブゴブリンが倒れた。
一応警戒しながら近づくがピクリとも動かない。
本当に死んでいる?
……………やった…やったぁ!!!勝った!勝ったんだ!
あぁ嬉しいな。
この勝利にしばらく酔いしれていたい。
でもここはゴブリンの巣他にもゴブリンがいるかもしれない。
だから僕は足早にホブゴブリンの核を手に入れてそのまま樽を見つけに行こうとすると罰が悪そうな顔でリックが出てきた。
あぁ僕を見棄てたのかと思ってたよ。
まぁ見捨ててたんだろうけど。
確かにホブゴブリンはしょうがないんだけどね。
彼がもし出てきても死ぬだけだっただろうし。
でもね、でもね、少しくらい戦う気が言ってやつがあっても良かったんじゃないのか?
とそう考えているとリックが喋った。
「ごめん!俺怖くてホブゴブリン見た瞬間に体がすくんでノアが死にそうになっているのに、それ見棄てても逃げたいと思っちまった。本当にごめん。」
『貴方、冒険者向いてないですよ。』
僕はそれだけ言ってタルのいる場所に向かい始めた。
別に僕は嫌がらせとかで冒険者向いてないなんて言ってるんじゃない。
彼が隠れたことにも別に言ってるわけじゃない。
彼が足がすくんで動けなかったとそういったことに対して言っているんだ。
冒険者を僕はあまり知っている訳じゃないけど、それでも危ない場面で体がすくむようなやつには向いてない仕事だってことくらいわかる。
たしかに彼にとって少し悲しいことかもしれない。
でも彼がこれから少しでも長く生きていたいなら冒険者早めるべきだと思った。
まぁこれは僕の意見みたいなものだ。
彼がそれでも冒険者を続けたいなら止める権利は無い。
とそんなことを考えているとタルのいるはずの場所の目の前まで足を運んだ。
そして僕とかなり落ち込んでいるリックはその場所に入っていくのだった。
次回は一旦リック視点の話にします