リシア達の覚醒
「『癒しの光』!」
リシア、イリヤ、カティアの声が重なり、一つのハーモニーとなって空に響き渡った。
その声と同時に、三人の力が融合して生まれた巨大な光の球が、眩い閃光を放ちながら炸裂した。
温かい光の粒が、雨のように街全体、そして城全体に降り注ぐ。それは、まるで春の陽光が、凍てついた大地を優しく包み込むようだった。
その光に触れた瞬間、戦っていた兵士たちの表情が、一瞬で変わった。憎悪に満ちていた瞳から、次第に理性の光が戻ってくる。
「俺は…なぜ戦っていたんだ?」
「こんなことをして、何になるんだ?」
彼らの心から、アークヴァルドに煽られた憎悪と怒りが、まるで汚れを洗い流すかのように浄化されていく。本来の理性と良心が、静かに、しかし確実に蘇ってきた。
純血派の兵士たちは、次々と武器を地面に置いた。その音は、まるで争いの終わりを告げる鐘の音のようだった。
「武器を捨てるんだ」
「もう戦いたくない」
城でも、全く同じことが起きていた。魔王軍と対峙していた純血派の兵士たちは、混乱しながらも攻撃を中止した。
「攻撃を中止しろ!」
「俺たちは、一体何をしていたんだ…」
『癒しの光』の効果は絶大だった。戦意そのものが失われ、人々はただ、呆然と立ち尽くしていた。
「馬鹿な…!」
アークヴァルドだけは、その光に抵抗していた。彼の心は、純血主義への強烈な執着で満ちており、癒しの魔法が完全には届かない。彼の目には、未だ狂信的な光が宿っていた。
「こんな魔法で、俺の信念は揺るがない! これは、真の魔族の未来をかけた戦いだ!」
彼は、自分の行動が正しいと信じて疑わなかった。この戦いは、理想の世界を創るための、唯一の道だと。しかし、彼の叫びは、虚しく空に響くだけだった。
彼の周りを見れば、もはや戦っている者は誰もいなかった。彼の配下は、全員が武器を捨て、呆然と空を見上げていた。
「ダークフェル様、もうやめましょう」
副官の一人が、震える声で彼に訴えかけた。
「これ以上戦っても意味がありません」
「我々は何のために戦っていたのでしょうか?」
兵士たちの言葉は、アークヴァルドの心に届かない。
いや、届かなかったのではなく、彼が聞こうとしなかったのだ。彼は、自分自身の信念以外、何も見えていなかった。
アークヴァルドは、完全に孤立した。彼は、仲間が自分から離れていく様を見て、激昂した。
「裏切り者どもめ! 貴様らも偽りの光に惑わされたのか!」
彼は、自分を理解できない周りの人間を罵った。しかし、彼はまだ諦めていなかった。彼の信念は、光ごときで消えるほど、生半可なものではなかったのだ。
「ならば…」
アークヴァルドが不気味に微笑んだ。その笑みは、絶望ではなく、狂気じみた決意に満ちていた。
「俺一人でも、偽りの王を討つ!」
彼は、全魔力を放出し、魔王ルシファードに向かって突進した。彼の体からは、黒いオーラが立ち上っていた。それは、彼の心の闇そのものだった。
「危険だ!」
レンは、瞬時にアークヴァルドの意図を察知し、『軌跡の刃』を構えて立ちふさがった。彼の表情は、真剣そのものだった。
魔王ルシファードは、レンの背後から、毅然とした態度で立ち上がった。
「アークヴァルド。君の野望は、ここで終わりだ」
「野望?」
アークヴァルドが嘲笑った。
「これは浄化だ。不純な血を排除し、真の魔族の時代を築くのだ」
レンは、アークヴァルドの言葉に、静かに反論した。
「その考えが間違ってる」
彼は、一歩前に出た。
「種族の違いなんて関係ない。大切なのは、心だ」
「黙れ、雑種が」
アークヴァルドの憎悪が、レンに向けられた。彼は、レンの存在そのものが、自分の理想を汚すものだと感じていた。
「お前たちのような存在が、この世界を汚しているのだ」
アークヴァルドは、レンを退かせようと、強力な魔法を放った。しかし、レンは動じない。
「退け!これは魔族同士の問題だ!」
「そうはいかない」
レンの言葉に、アークヴァルドはさらに激昂した。武力クーデターは鎮圧された。しかし、アークヴァルド個人の、最後の戦いはまだ続いていた。
この二人の戦いが、この物語の真の決着となるだろう。




