純血派の暗躍
翌日、レンたちは街で情報収集を続けた。
魔王から聞いたアークヴァルドという人物について、自分達でも詳しく調べてみたかったからだ。
「お兄様、あの貴族屋敷の周りが騒がしいですね」
リシアが兎の耳をぴくぴく動かしながら指差した。
街の高級住宅街にある立派な屋敷の前に、多くの魔族が集まっている。獣人族の姿はほとんど見えない。
「あそこに近づいてみましょう」
レンたちが屋敷に近づくと、門番の魔族が冷たい視線を向けた。
「獣人風情が何の用だ?」
「すみません、何の集まりか教えていただけませんか?」
エレノアが魔族の姿で丁寧に尋ねた。
「ああ、魔族の方でしたか」
門番の態度が急に変わった。
「これはダークフェル様の私的な集まりです。純血の魔族の方々がお集まりになっています」
「純血?」
「そうです。最近、この国の魔族の血が薄れていることを憂慮する方々です」
門番が獣人族の姿のレンたちを露骨に見下した。
「獣人族には関係のない話ですがね」
その時、屋敷の門が開き、威厳のある魔族の男性が現れた。立派な角を持ち、深紅のマントを纏った貴族だった。
「あれがアークヴァルド・ダークフェル様です」
門番が敬意を込めて言った。
アークヴァルドの視線がレンたちに向けられた瞬間、明らかな嫌悪の表情を浮かべた。
「なぜ獣人族がここにいる?」
「申し訳ございません。すぐに立ち去らせます」
門番が慌てて言った。
「待て」
アークヴァルドがレンたちを見つめた。
「お前たち、最近街で騒ぎを起こした連中だな」
レンは先日の調停事件のことを言われていると理解した。
「はい」
「獣人風情が調停など、身の程知らずが」
アークヴァルドの声には明らかな軽蔑が込められている。
「魔族の問題に、下等種族が口を挟むなど言語道断だ」
周囲の魔族たちも同調するように頷いている。
「我々は平和を望んでいるだけです」
レンが冷静に答えた。
「平和?」
アークヴァルドが冷笑した。
「お前たち獣人族は、魔族の庇護があってこそ生きていけるのだ。身の程を弁えろ」
「しかし、この国は共生国家では...」
「共生などという戯言を信じているのか?」
アークヴァルドが一歩前に出た。
「魔族と獣人族は本来、支配者と被支配者の関係だ。それが自然の摂理というものだ」
レンは内心で怒りを感じたが、変装がバレないよう感情を抑えた。
(どこにでもこういう奴はいるけど、だからといって慣れることはないな…)
「お前たちのような勘違いした獣人族が、この国の秩序を乱している」
「秩序?」
「そうだ。来週の収穫祭で、真の秩序というものを教えてやろう」
アークヴァルドが意味深な笑みを浮かべた。
(こいつのことは好きにはなれないだろうな…)
レンのアークヴァルドに対する第一印象は最悪だった。
「その時、お前たちは自分の立場を思い知ることになる」
魔族たちが不気味に笑った。
「さあ、ここから立ち去れ。獣人族の居場所ではない」
レンたちは仕方なくその場を離れた。しかし、エレノアだけは魔族の姿のまま少し遅れて歩いた。
「すみません」
エレノアがアークヴァルドに近づいた。
「さきほどの収穫祭の件、詳しく教えていただけませんか?」
「ほう、興味があるのか?」
「はい。純血魔族として、正しい秩序を知りたいのです」
アークヴァルドが満足そうに頷いた。
「よろしい。収穫祭の夜、魔王の真の正体が明らかになる」
「真の正体?」
「あの者は純血の魔族ではない。人間の血が混じった忌まわしい存在だ」
エレノアは驚いたふりをして、さらに話を促す。
「!、事実なら、大変なことですね」
「そうだ。だからこそ、我々純血魔族が立ち上がらねばならない」
「それが本当なら許せないことです、私も是非一緒に協力させてください!、でも…、いったいどうなさるんですか?」
エレノアが計画を聞き出そうと、協力を申し出る。
「収穫祭で真実を民衆に知らせ、新たな指導者を立てる」
アークヴァルドの目が野心に燃えていた。
「興味があるなら、今夜の会合に参加するがいい」
エレノアは重要な情報を得るチャンスだと判断した。
「ぜひ参加させてください」
こうして、エレノアは純血主義者の内部に潜入することになった。
その夜、レンたちは宿で待機していた。
「エレノアは大丈夫でしょうか?」
リシアが心配そうに言った。
「彼女なら問題ない。でも、アークヴァルドの態度を見る限り、状況は深刻だ」
レンが分析した。
「あからさまな差別主義者ですね」
イリヤが憤慨した。
「獣人族を『下等種族』呼ばわりするなんて」
「しかも、収穫祭で何かを仕掛けるつもりだ」
カティアが不安そうに言った。
「魔王の正体を暴露するって言ってたね」
セレスティアが腕を組んだ。
「つまり、公開処刑みたいなものか」
その時、エレノアが戻ってきた。
「お疲れさまでした。どうでしたか?」
「想像以上に組織的です」
エレノアが報告を始めた。
「アークヴァルドは十数名の魔族貴族と結託しています。彼らは収穫祭で魔王の血統を問題視し、クーデターを起こすつもりです」
「やはりか」
「しかも、我々も標的にされています。『秩序を乱す獣人族』として、収穫祭後に『処理』される予定です」
一同が緊張した。
「なら、なおさら阻止しなければ」
レンが決意を固めた。
「でも、どうやって?彼らは魔族の民族感情に訴えかけている。獣人族の我々が反対しても、逆効果かもしれません」
「それでも、やらなければならない」
レンが仲間たちを見回した。
「この純血主義が拡大すれば、この国の共生社会は崩壊する」
明日、魔王に報告し、対策を練る必要がある。しかし、時間は限られていた。




