増幅する不和
山賊討伐の勝利後、アルバート家の屋敷は、かつての閉塞感から一転し、活気を取り戻していた。だが、その中心で称賛を浴びるレンとは対照的に、父と兄たちの心には、新たな嵐が吹き荒れていた。
「お父上、レナードの奴、図に乗っておりますぞ! たかが山賊を追い払っただけで、まるで自分がアルバート家の当主になったかのような顔を!」
長男のルーファスが、顔を赤くして父に詰め寄る。次男のセシルも、忌々しげに言葉を重ねた。
「そうだ! あんな役立たず、ろくに剣も振れず、魔法も使えないくせに! 偶然、うまくやっただけのくせに、領民どもまであいつを英雄扱いしおって!」
父であるアルバート男爵は、苛立ちと焦燥感で表情を歪ませた。これまで、レナードを「家の恥」と罵り、軽蔑してきたのは自分自身だ。
だが、その「恥」が、自分たちが成し得なかった山賊討伐を成功させ、領民たちの信頼を勝ち取った。そして評判は王都にも届き、この出来損ないの三男宛に使者を送ってきた。
この現状が、彼自身のプライドを深く傷つけていた。
「黙れ! 貴様らとて、何もできなんだではないか!」
男爵の怒鳴り声が、食堂に響き渡る。兄弟は言葉を失った。この数日、屋敷はレンへの称賛と、父と兄たちの不満が渦巻く、奇妙な喧騒に包まれていた。
かつての家族の不和は、嫉妬という新たな火種を得て、さらに深く、暗く燃え盛っていた。
レンは、そんな家族の様子を、まるで他人事のように見ていた。
元々、彼らに愛情や期待を抱いていなかったため、その嫉妬も自分に向けられた関心の一つだとしか思っていなかった。
だが、その無関心さが父と兄たちの感情をさらに逆撫ですることを、レンはまだ知らなかった。