異種族変装大作戦
「それで、具体的にはどうやって変装するんだ?」
レンがセレスティアの工房で尋ねた。工房には見慣れない装置がいくつも並んでいる。
「簡単に言えば、幻術魔法と魔導工学の融合だよ」
セレスティアが得意げに説明した。
「エレノアの幻術で外見を変えて、俺の装置で物理的な特徴も再現する」
「ただし、完璧な変装には限界があります。せいぜい数時間が限度でしょう」
エレノアが補足する。
「数時間あれば十分だろう」
レンが頷いた。
「お兄様」
リシアが心配そうに言った。
「痛くないんでしょうか?」
「大丈夫だ。ちょっとむずむずするくらいだろう」
セレスティアが保証した。
カティアが興味深そうに装置を覗き込んだ。
「これって、どんな種族にでも変身できるんですか?」
「基本的にはな。ただし、あまり極端な変化は難しい」
イリヤが真剣に考えていた。
「でも、どの種族に変装するかが重要ですね。魔族領域で浮かない種族を選ばないと」
「それなんですが…」
エレノアが資料を広げた。
「調べた限り、ヘテロジェニア連合には主に五つの種族がいるようです」
「どんな種族だ?」
「まず魔族。角や翼を持つ典型的な魔族ですね。次に獣人族。狼、猫、兎、熊など様々な種類がいます」
「他には?」
「鳥人族、竜人族、そして精霊族です」
セレスティアが腕を組んだ。
「結構バリエーション豊富だな」
「はい。だからこそ、どの種族になるかは慎重に決める必要があります」
リシアが恥ずかしそうに手を挙げた。
「あの、私は兎の獣人族がいいです」
「兎か」
「はい。可愛くて、お兄様に守ってもらえそうですから」
リシアが兎の獣人になった姿を思い浮かべてレンは微笑んだ。
「リシアらしいな」
(可愛いに決まってる…思わずぎゅーとしてしまいそうだ)
「お兄様は何になりますか?」
「俺は...どうしようかな」
エレノアが提案した。
「レナード様は狼の獣人族がよろしいかと。リーダー的な雰囲気が出ますし」
「いいね!」
カティアが手を叩いた。
「私は何がいいかしら?」
「カティアさんは猫の獣人族なんてどうでしょう?」
イリヤが提案した。
「魔法使いらしい神秘性がありますし」
「猫...悪くないわね」
セレスティアが考え込んでいた。
「俺はどうしよう。技術者らしい種族って何だろう?」
「竜人族はどうですか?」
エレノアが提案した。
「魔導工学に長けているイメージがあります」
「竜人族か。かっこいいじゃないか」
「では私は?」
イリヤが首をかしげた。
「イリヤさんは精霊族が似合いそうです」
リシアが言った。
「神聖な雰囲気がぴったりです」
「精霊族...確かに神聖魔法使いには合ってるかも」
エレノアが最後に言った。
「私は魔族になります。情報収集には魔族が一番適しているでしょう」
「決まりだな」
レンが頷いた。
「それじゃあ、実際に試してみよう」
「待てよ」セレスティアが慌てた。
「いきなり全員は無理だ。装置の調整が必要だから、一人ずつ試そう」
「じゃあ、私から」
リシアが勇敢に手を挙げた。
「本当に大丈夫か?」
レンが心配した。
「はい。お兄様のためですから」
リシアが装置の前に立つ。
セレスティアとエレノアが協力して魔法と装置を起動させる。
「うわあ」
リシアが驚いた声を上げた。
光に包まれたリシアの姿が変化していく。
髪の色が薄茶色になり、頭上に兎の耳がぴょこんと現れた。
(うぉ!可愛い、さすが我が妹、アニメから飛び出してきたみたいだ!)
「お兄様、どうですか?」
「すごい!本物の兎獣人みたいだ」
(本物、一度も見たことないけど、想像していた通りだ!
兄さんは嬉しいよ…)
「耳が動くのが面白い」
カティアが感心した。
「尻尾も生えてる」
イリヤが後ろから覗き込んだ。
リシアが恥ずかしそうに尻尾を押さえた。
「動かし方が分からなくて...」
「慣れだろう」
セレスティアが笑った。
(やば、あれ、つかんだらどうなるんだろ…)
レンの興味…いや世の中の大抵の男の興味は尽きない。
「次は誰だ?」
「私がやります」
カティアが前に出た。
今度は黒い猫の獣人に変身した。
しなやかな尻尾と尖った耳が印象的だ。
「にゃー」
カティアが試しに鳴いてみた。
「やめろ」
セレスティアが苦笑いした。
「変に目立つぞ」
「分かってるわよ」
(多分、本物の猫族は単独でにゃーって言わないと思うぞ…)
レンは心の中でつっこむ。
続いてイリヤが精霊族に変身した。
透明感のある美しい姿に、みんなが見とれてしまった。
「美しすぎませんか?」
エレノアが心配した。
「目立ちすぎるかも」
「でも、精霊族ってこんな感じなんでしょう?」
「確かにそうですが...」
(まさに、聖女…これは…いくらでもみていたくなるな…)
見とれているレンを周りからの冷たい視線が襲う。
セレスティアが竜人族に変身すると、小さな角と鱗が現れた。がっしりした体格がより強調される。
「おお、これは迫力があるな」
「技術者らしい貫禄が出てますね」
リシアが感心した。
(なんというか、ありがとう。いったん冷静になれた…)
エレノアが魔族に変身すると、小さな角と黒い翼が現れた。知的な雰囲気はそのままに、より神秘的になった。
「これで潜入準備は完了ですね」
最後にレンが狼獣人に変身した。野性的な魅力が加わり、リーダーとしての存在感が増した。
「お兄様、とても素敵です」
リシアが頬を赤らめた。
「これなら魔族領域でも怪しまれないだろう」
「ただし」
エレノアが注意した。
「変装だけでは完璧ではありません。それぞれの種族の特徴や文化も学ばないと」
「そうだな。勉強会をしよう」
「でも、その前に一つ問題が」
セレスティアが困った顔をした。
「何だ?」
「この装置、まだ完全じゃないんだ。変身が解けるタイミングが読めない」
「え?」
みんなが驚いた。
「だから、向こうで急に変身が解けるかもしれない」
「それは困る」
エレノアが眉をひそめた。
「でも、他に方法はないだろう」
レンが決断した。
「リスクを覚悟で行くしかない」
「そうですね」
イリヤが頷いた。
「神様もきっと見守ってくださいます」
「じゃあ決定だ。明日から魔族領域の文化について勉強しよう」
「はい!」
みんなが元気よく返事をした。
こうして、異種族変装潜入作戦が本格的に始まった。
果たして無事に潜入できるのだろうか?




