魔族領域への招待状
「お兄様、これって本当に大丈夫なんでしょうか?」
リシアが不安そうに手紙を見つめている。その手紙には、見慣れない紋章と共に丁寧な文字で招待状が書かれていた。
「魔族領域からの正式な招待か」
レンは興味深そうに呟いた。
「向こうから接触してくるなんて珍しいな」
「レナード様、これは明らかに罠の可能性が高いです」
エレノアが冷静に分析する。
「魔族領域は長年人間との接触を避けてきました。今になって急に招待状を送ってくるなんて、裏があるに決まっています」
「でも面白そうじゃないか」
セレスティアが槌を磨きながら言った。
「魔族の技術ってどんなもんなんだろうな。見てみたい気もする」
カティアが苦笑いを浮かべる。
「セレスティアさんは技術のことになると目の色が変わりますね」
「当然だろ。職人なんだから」
イリヤが招待状をもう一度読み直した。
「でも、この文面を見る限り、敵意は感じられませんね。むしろ丁寧すぎるくらいです」
「そこが逆に怪しいんです」
エレノアが眉をひそめた。
「魔族が人間にこんなに丁寧な手紙を書くでしょうか?まるで人間の貴族が書いたような文体です」
レンはその言葉に反応した。
「人間の貴族が書いたような?」
「はい。言い回しや敬語の使い方が、典型的な王都の貴族のそれです。魔族が人間の文化をここまで理解しているとは思えません」
「つまり、魔族領域には人間がいるってことか?」
「可能性は高いです。それも、かなり地位の高い人間が」
リシアが心配そうに兄を見上げた。
「お兄様、やっぱり危険なんじゃ...」
「でも行かないわけにはいかないだろう」
レンは決意を込めて言った。
「もし魔族領域に人間がいるなら、それは俺たちが知らない何かが起きてるってことだ。調べる必要がある」
「そうですね、レナード様」イリヤが頷いた。
「神聖王国での件もありましたし、大陸全体で何かが動いているのかもしれません」
カティアが手を挙げた。
「じゃあ決定ね。みんなで魔族領域に行きましょう」
「ちょっと待てよ」
セレスティアが困った顔をした。
「魔族領域に人間が入れるのか?向こうだって警戒してるだろ」
「こんな良くわからない招待状もってノコノコ行ったら、どうなるかわかったもんじゃないよ」
エレノアがにやりと笑った。
「その辺りは私にお任せください。実は、以前から魔族領域について調べていたんです」
「え?いつの間に?」
「神聖王国での一件の後、各国の動向を調査していました。そこで面白い情報を掴んだんです」
みんなが興味深そうにエレノアを見つめる。
「魔族領域は、実は魔族だけの国ではありません。獣人族も一緒に住んでいるんです」
「獣人族?」
リシアが首をかしげた。
「はい。昔から人間社会で迫害されてきた種族たちが集まって作った共生国家。正式名称は『ヘテロジェニア連合』と言います」
「へぇ」
レンが感心した。
「それは知らなかった」
「人間の記録にはほとんど残っていませんからね。でも、向こうの社会は思っているより複雑かもしれません」
セレスティアが興味深そうに言った。
「色んな種族がいるってことは、色んな技術もあるってことか」
「そういうことです。だからこそ、潜入するなら変装が必要になります」
「変装?」
カティアが驚いた。
「魔族や獣人族に化けるんです」
エレノアが得意げに説明した。
「私の幻術魔法と、セレスティアさんの技術を組み合わせれば可能だと思います」
「おお、面白そうじゃないか」
セレスティアの目が輝いた。
リシアが不安そうに呟いた。
「でも、バレたらどうなるんでしょう?」
「その時は全力で逃げる」
レンがあっさり言った。
「お兄様!」
「冗談だよ。でも、これは絶好のチャンスだ。魔族領域の真実を知れるかもしれない」
イリヤが真剣な表情で言った。
「私たちが行くことで、人間と魔族の関係も変わるかもしれませんね、レナード様」
「そうだな。それに...」
レンは招待状をもう一度見つめた。
「なんとなく、向こうも俺たちに会いたがってる気がする」
エレノアが分析する。
「確かに、この招待状には単なる外交以上の意図を感じます。まるで、レナード様個人に興味があるような...」
「俺に?なんで?」
「分かりません。でも、調べる価値はありそうです」
セレスティアが立ち上がった。
「じゃあ決まりだな。変装装置の準備に取りかかろう」
「待って」カティアが手を挙げた。
「変装って言っても、どんな種族になるか決めないと」
「それもそうだな」
レンが考え込んだ。
「お兄様」
リシアが恥ずかしそうに言った。
「もし変装するなら、可愛い動物がいいです」
「可愛い動物って?」
「えーっと...兎とか?」
みんなが微笑んだ。
「リシアらしいな」
レンが頭を撫でた。
エレノアが冷静に言った。
「変装は慎重に選ばないといけません。目立ちすぎても、地味すぎてもダメです」
「そうだな、レナード」
セレスティアが腕を組んだ。
「俺としては、技術に詳しそうな種族がいいんだが」
「…結構乗り気だね」
レンがつぶやく。
「じゃあ、準備期間も含めて計画を立てよう」
「はい!」みんなが元気よく返事をした。
こうして、魔族領域への大冒険が始まろうとしていた。まだ誰も知らない秘密と出会いが、彼らを待っているのだった。