夜語りと朝の出発(後編)
温泉から上がった後、みんなで宿の談話室に集まった。
浴衣姿でくつろいでいると、自然と会話が弾む。髪を下ろした女性陣は、普段とは違う魅力を醸し出していた。
「それにしても」
カティアが浴衣の袖を直しながら言った。
「神聖王国の人たちの最後の笑顔、良かったですよね」
カティアの浴衣は薄い桜色で、彼女の明るい性格によく似合っていた。髪を緩く結い上げて、普段のアクティブな印象とは違う上品な美しさを見せている。
「ああ。あの時は本当にホッとした」
レンが頷いた。
レンも紺色の浴衣を着ていて、いつもの冒険者装備とは違う落ち着いた雰囲気だった。髪も少し湿っていて、普段より年相応に見える。
「レナード様が最後に言った言葉、とても印象的でした」
イリヤが思い出すように言った。薄紫の浴衣に身を包んだ彼女は、まるで貴族の令嬢のような上品さを醸し出している。
「『みんなで協力すれば、きっと良い国が作れる』って」
「当たり前のことを言っただけだ…」
レンが照れくさそうに答えた。
「でもその当たり前が難しいんです」
エレノアが真剣な顔になった。深緑の浴衣を着た彼女は、普段の知的な美しさがより際立って見えた。髪を下ろしているせいか、いつもより柔らかな印象だ。
「特に最近は、各国の関係がギスギスしてますから」
「そういえば」
セレスティアが思い出したように言った。彼女は黄色い浴衣を着ているが、少し着崩れているのが職人らしい。でもそれがかえって自然体で魅力的だった。
「魔族領域からも不穏な噂が聞こえてくるよな」
「魔族領域?」
リシアが首をかしげた。
リシアの水色の浴衣は清楚で可愛らしく、金髪とよく合っていた。普段の活発さとは違う、おしとやかな魅力を見せている。
「昔から人間とは距離を置いてる連中だ。でも最近、妙に動きが活発になってるって話だ」
「気になるな…」
レンが呟いた。
「でも今日は考えるのはやめましょう」
カティアが明るく言った。
「せっかくの温泉なんですから、リラックスしましょうよ」
「そうですね」
エレノアが微笑んだ。
「今日は久しぶりにゆっくりできそうです」
「それにしても」
リシアが嬉しそうに言った。
「みんなで浴衣を着るなんて、なんだか新鮮ですね」
「確かに」
イリヤが微笑んだ。
「普段は冒険者装備ばかりですから」
「カティアちゃん、その浴衣よく似合ってるよ」
セレスティアが褒めた。
「ありがとうございます!セレスティアさんも素敵です。黄色がよく似合ってます」
女性同士の褒め合いに、レンは苦笑いしながら見守っていた。こういう平和な時間も、たまには悪くないと思う。
「あ、そうだ」
セレスティアが手を叩いた。
「宿の人から聞いたんだけど、明日の朝に朝風呂に入ると、さらに効果が高いらしいぞ」
「朝風呂!いいですね」
リシアが目を輝かせた。
「じゃあ明日も早起きしましょう」
イリヤが賛成した。
みんなで他愛のない話をしながら過ごす時間は、とても貴重だった。戦いや陰謀から離れて、ただの仲間として過ごせる瞬間。
「そういえば」
エレノアが思い出したように言った。
「みなさんは将来、どんなことをしたいんですか?」
「将来?」
カティアが首をかしげた。
「冒険を続けるのもいいですが、いつかは落ち着く時も来るでしょうし」
「私は、」
セレスティアが即答した。
「もっと技術を磨いて、すごい武器や道具を作りたい」
「セレスティアさんらしいですね」
イリヤが微笑んだ。
「私は...故郷に戻って、みんなに旅の話を聞かせてあげたいです」
「素敵ですね」
リシアが言った。
「私は...お兄様と一緒にいられれば、それでいいです」
「リシア...」
レンが少し困ったような顔をした。
「カティアちゃんはどう?」
エレノアが尋ねた。
「んー」
カティアが考え込んだ。
「みんなでお店でもやったら楽しそうですよね。冒険者向けの宿屋とか」
「それいいね!」
セレスティアが乗り気になった。
「俺が武器の修理もできるし」
「エレノアさんが情報収集と会計」
イリヤが続けた。
「リシアちゃんが看板娘で」
カティアが楽しそうに言った。
「レナードさんが店長!」
みんなの視線がレンに集まった。
「え、俺?」
「当然でしょう」
エレノアが微笑んだ。
「みんなのリーダーなんですから」
「なんか」
レンがぽつりと言った。
「こういう時間って大切だよな」
「そうですね」
エレノアが頷いた。
「私たちも普通の人間ですから、たまには息抜きが必要です」
「でも」
カティアがいたずらっぽく笑った。
「レナードさんは普通じゃないですけどね」
「え?」
「だって、こんなに頼りになる人、滅多にいませんよ」
「そうですそうです」
リシアが嬉しそうに言った。
「お兄様は最高です」
「褒めすぎ!、なんも出ねーぞ」
レンがちょっと照れた後、苦笑いした。
(こんなの、前の自分だったらあり得ねえな…)
夜が更けるにつれて、みんなの会話もゆっくりとしたペースになっていく。温泉の疲れと安らぎで、自然と眠気も誘われてきた。
「そろそろ休みましょうか」
エレノアが提案した。
「明日は朝風呂もありますし」
「そうですね」イリヤが頷いた。
「今日は本当に良い一日でした」
翌朝、約束通りみんなで朝風呂に入った。朝の清々しい空気の中で入る温泉は、また格別だった。
「気持ちいい!」
セレスティアが大きく伸びをした。
「体が軽くなった気がします」
イリヤが嬉しそうに言った。
朝食を済ませ、いよいよ出発の時間が来た。宿の主人が見送ってくれる。
「また機会がありましたら、ぜひお越しください」
「ありがとうございました。とても良い思い出になりました」
レンが礼を言った。
街道を歩きながら、みんなの足取りは軽やかだった。温泉のおかげで疲れも取れ、気持ちも新たになっている。
「やっぱり温泉っていいですね」
リシアが振り返った。
「また機会があったら入りたいです」
「そうですね。今度は別の温泉地も探してみましょう」
エレノアが提案した。
「おー、温泉巡りか。面白そうだな」
セレスティアが乗り気になった。
レンは仲間たちの明るい表情を見て、心の中で微笑んだ。こういう平和な時間が、きっと一番大切なものなのだろう。これから待ち受けている冒険も、この仲間たちとなら乗り越えられる気がした。
「さあ、王都まであと少しだ。頑張って歩こう」
「はい!」
温泉での束の間の休息を終え、一行は再び旅路についた。彼らを待つ次の冒険への準備は、もう整っていた。
第七章までの、一休み的なほのぼのエピソードになりました。
少しベタですが、お約束的なこの展開は
是非ともやってみたかったので満足です笑
お付き合いいただきありがとうございます。
【 応援よろしくお願いします!】
読んでいただきありがとうございます!
もし、少しでも興味を持っていただけましたら
よろしければ、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




