王都からの使者と新たな脅威
山賊討伐の報は、瞬く間に領地中に広まった。
レンの指揮の下、アルバート家が壊滅的な被害を免れたことは、領民たちの間に希望の光を灯した。かつて「役立たず」と蔑まれていた三男坊は、今や「アルバート家の救世主」として、その名を轟かせ始めていた。
「坊っちゃん、領民たちが坊っちゃんのことを、まるで英雄のように語っていますぜ!」
ガロウが、満面の笑みで報告する。屋敷の周りには、レンを一目見ようと集まる領民たちの姿があった。
彼らの目は、かつての冷たい視線とは違い、尊敬と期待に満ちている。レンは、その視線に、どこか気恥ずかしさを感じながらも、満たされた気持ちになっていた。
そんなある日、王都から一人の使者がアルバート家を訪れた。使者は、王都の貴族院に属する高官で、レンの戦術に強い興味を示しているようだった。
「アルバート卿のご子息、レナード殿。貴殿の山賊討伐における戦術は、まことに見事であったと、王都でも評判になっております。つきましては、その詳細を伺いたく……」
使者の言葉は丁寧だったが、その目はレンの能力を測るように鋭く光っていた。レンは、使者に山賊討伐の経緯と、そこで用いた戦術の概要を説明した。使者は、レンの説明に熱心に耳を傾け、時折、驚きに目を見開いていた。
説明を終えると、使者は深刻な面持ちで口を開いた。
「実は、貴殿にお伝えしなければならない、緊急の事態がございます。隣国、ヴァルクス帝国との国境紛争が、激化の一途を辿っております」
使者の言葉に、レンの表情が引き締まる。ヴァルクス帝国。それは、このアークライト王国とは長年、国境を巡って争いを続けている、強大な軍事国家だ。使者は続けた。
「特に、帝国の『炎の姫騎士』セリナ・ヴァルクスが率いる部隊が、我が王国軍を圧倒しております。彼女の高速戦闘と、火魔法を組み合わせた戦術は、我が騎士団の常識を遥かに超えるものです」
使者の言葉は、レンの脳裏に、新たな「ボスキャラ」のイメージを呼び起こした。セリナ・ヴァルクス。
その名が、レンのゲーマー魂を刺激する。
使者は、アルバート家にも兵の供出を求めた。
父アルバート男爵としては、今まで散々役立たずと罵ってきた出来損ないの三男坊がみせた戦術に一縷の望みを託すしかない。
自分の力のなさに苦々しい思いをもちながらも、渋々その要請を承諾するしかなかった。
「レナード、お前も、この戦に参加せよ。アルバート家の名誉は、お前の双肩にかかっている」
父の言葉に、レンは静かに頷いた。新たな戦場が、彼を待っている。