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初戦

神聖王国の小さな村で一夜を過ごしたレンたちは、夜明けを待たずに偵察活動を開始した。


村の外れにある小高い丘から、エレノアが望遠鏡を使って敵の布陣を詳しく調べている。朝もやの中に、銀色の鎧を身にまとった聖堂騎士団の姿がぼんやりと見えていた。


「敵の配置が見えてきました」


エレノアが冷静に分析結果を報告する。彼女の情報収集能力は、こういう時に本当に頼りになった。


「北、東、南の三方向から進軍してきます。ただし、各部隊の連携は取れていないようです」


レンはFPSゲームで培った戦術眼を活かし、敵の動きを予測し始めた。


「なるほど、典型的な包囲作戦だな。でも連携が甘いってことは、個別に撃破するチャンスがあるってことだ」


レンは村人たちの前に立ち、落ち着いた声で説明した。


「みんな、聞いてくれ。聖堂騎士団がこの村に向かってきている。兵力はそれほど多くないが、戦闘に巻き込まれる危険がある」


村人たちの表情に不安の色が浮かんだ。しかしレンは安心させるような笑顔で続けた。


「大丈夫だ。俺たちがお前たちを守る。だから、俺たちの指示に従って、安全な場所に避難してくれ」


レンの頼もしい言葉に、村人たちは少し安心した様子を見せた。そこでリシアが前に出て、村人たちに向かって明るく語りかける。


「大丈夫です! お兄様は絶対に私たちを、そして皆さんを守ってくれます! だから安心して避難してくださいね!」


リシアの純真で力強い言葉と、彼女の温かい笑顔に、村人たちは勇気づけられた。特に子供たちは、リシアの優しさに安心して、素直に避難を始めた。


「ありがとう、リシア。本当に助かる」


レンは妹の成長を感じながら、戦闘準備に取りかかった。

エレノアは詳細な敵情分析をレンに報告する。


「敵は三方向から同時攻撃を仕掛けてくる予定です。それぞれ十名程度の小部隊ですが、指揮系統がバラバラなのが弱点ですね」


「完璧な分析だ。これなら各個撃破できる」


レンは仲間たちに具体的な指示を出し始めた。


「セレスティア、村の入り口に防衛用の罠と障害物を設置してくれ。敵の進路を限定したい」


「了解した。村にある材料で十分なものが作れる」


セレスティアは職人らしい手際の良さで、すぐに作業に取りかかった。


「カティア、君は記憶魔法で敵を攪乱する準備を頼む」


「承知しました。混乱と錯覚を起こす術式を準備します」


こうしてレンたちは、平和な村を一時的な戦場へと変えていった。


夜が深まり、ついに聖堂騎士団の偵察隊が村の外縁部に侵入してきた。月明かりに照らされた銀色の鎧が、不気味に光っている。

レンたちは夜陰を利用して、先制攻撃を仕掛けることにした。


「よし、作戦開始だ」


レンは手信号で仲間たちに合図を送った。


「エレノア、右の通路を確保してくれ! セレスティア、罠を起動!」


エレノアが素早く指示を出すと、レンはFPSで培った「敵の死角に潜む」技術を使って、音もなく敵兵に接近していく。現代的な戦術と、この世界の魔法技術を組み合わせた独特な戦闘スタイルだった。


セレスティアが設置した巧妙な罠が次々と起動し、敵兵の足を効果的に止めていく。


「うわあああ! 足が動かない!」


「罠だ! 気をつけろ!」


敵兵たちが混乱する中、レンは冷静に次の手を打った。


「カティア、今だ!」


レンの合図に、カティアは禁呪魔法を発動した。強烈な光と音の幻覚が夜の村を包み込む。


暗闇に慣れた敵兵たちは完全に方向感覚を失い、仲間同士で攻撃し合う混乱状態に陥った。


「ぐああああ! 目が…目が見えない!」


「どこだ!? 敵はどこにいる!?」


「待て、それは味方だ!」


敵兵が大混乱に陥る中、レンはエレノア、セレスティア、カティアと完璧な連携を取りながら、次々と敵兵を無力化していった。


まるでFPSゲームでチームプレイを楽しんでいるかのような、見事な連携プレイだった。


リシアは戦闘には参加せず、村人たちの避難誘導を続けていた。彼女の優しい声と笑顔が、パニックになりそうな村人たちを落ち着かせている。


「こちらです。安全な場所まで、もう少しです」


「お嬢様、ありがとうございます」


村人たちは、リシアの献身的な行動に深く感謝していた。

初戦は、レンたちの完全勝利に終わった。


聖堂騎士団の偵察小隊は、レンたちの前になす術もなく敗れ去った。まさに圧倒的な戦術差だった。


「すげぇ…レナード様たちって、こんなに強かったのか」


村人の一人が感嘆の声を上げる。


「くそ…報告…本隊に報告しなければ…」


生き残った敵兵が、通信用の魔法具で本隊に報告しようとする。しかしエレノアがその通信を巧妙に傍受し、偽の情報を流した。


「敵は予想以上に多数。我々は大損害を受け、撤退する…」


「何だと!? まさか、あの異端者がこれほどの戦術を持っているとは…!」


偽の報告を受けた聖堂騎士団の指揮官は、偵察隊の壊滅に驚愕した。レンたちの実力を完全に見誤っていたのだ。

補給戦


夜明けとともに、聖堂騎士団の補給部隊と情報収集部隊が村に接近してきた。レンはFPSゲームでよく行う「リプレイ解析」のような思考で、敵の作戦パターンを瞬時に把握した。


「パターンが見えてきたぞ。敵は物量作戦から情報戦に切り替えてきた」


レンは戦況を分析しながら、新たな作戦を立案する。


「エレノア、敵の情報部隊に潜入して、書類や指令書を奪ってきてくれ。敵の全体戦略を知りたい」


「了解しました。貴族の身分を活かして、自然に接近してみます」


エレノアは上品な貴族らしい振る舞いで敵の情報部隊に近づき、巧みに重要書類を入手した。彼女の社交術と演技力は、こういう場面で真価を発揮する。


レンは奪った書類を読み、にやりと笑った。


「なるほど、面白い。奴らは俺たちを包囲殲滅するつもりらしい。でも…俺たちの戦術はそんなに甘くない」


書類には聖堂騎士団の詳細な作戦計画が記されていた。しかし、その作戦は旧来の戦術に基づいており、レンの現代的な戦略に対応できていない。


「カティア、補給部隊に攪乱魔法をかけてくれ。セレスティア、敵の補給線を断つための罠を仕掛けよう」


「分かりました。記憶錯乱の術で、補給物資の在り処を忘れさせます」


カティアは禁呪魔法で敵の補給部隊を攻撃した。補給担当の兵士たちは、重要な物資の場所を思い出せなくなり、大混乱に陥る。


「あれ? 食料はどこに置いたっけ?」


「武器の補給はどこだ?」


「おかしい…さっきまで覚えていたのに…」


一方、セレスティアは村の周辺に巧妙な物理トラップを設置し、敵の補給ルートを完全に破壊した。


「補給線を断てば、どんな大軍でも自然に弱体化する。基本中の基本だ」


セレスティアの職人らしい几帳面な仕事ぶりに、レンは感心する。


補給不足に陥った聖堂騎士団の動きは、予想通り次第に鈍くなっていった。兵士たちの士気も大幅に低下している。


「くそ…! なぜ我々の作戦が全て読まれているんだ…!?」


聖堂騎士団の指揮官は、レンたちの予想を上回る戦術に完全に翻弄され、焦りと怒りを募らせていく。


初戦を見事に制したレンたちだったが、勝利の余韻に浸る時間はなかった。エレノアが傍受した通信により、マルケシウス直属の精鋭部隊が次の攻撃を準備していることが判明したのだ。


「次の敵は、今までとは格が違う。本格的な戦闘のプロフェッショナルたちだ」


レンは仲間たちに向かって、真剣な表情で説明した。


「でも…俺たちには現代的な戦術と、何より強い絆がある。必ず勝てる」


エレノアは冷静に状況を分析する。


「確かに厳しい戦いになりそうですが、私たちには情報面での優位性があります」


セレスティアも武器の手入れをしながら答えた。


「装備も完璧に整えた。後は実戦で力を発揮するだけだ」


カティアは静かに決意を表明する。


「私の記憶魔法も、さらに強力な術式を準備しました」


リシアは兄の手を握りながら言った。


「お兄様、私も皆さんのお役に立ちたいです。避難誘導だけじゃなく、もっと直接的に戦いを支援したいんです」


レンは妹の成長した姿に感動しながら答えた。


「ありがとう、リシア。お前の存在が、俺たちにとって一番の支えなんだ」


「さあ、次のステージだ。俺たちの戦いは、まだまだ終わらない」


レンはそう言って、村の丘に立ち、遠くに見える聖堂騎士団の本隊を静かに見つめていた。夜明けの光が彼の横顔を照らし、決意に満ちた表情を浮き彫りにしている。


仲間たちも同じように丘に立ち、それぞれが次なる戦いへの覚悟を固めていた。


エレノアは情報戦での勝利を、セレスティアは技術面での優位を、カティアは魔法での支援を、そしてリシアは兄への変わらぬ信頼を胸に抱いていた。


民衆を守り、正義を貫くための戦いは、これからが本番だった。聖堂騎士団の精鋭部隊との決戦を前に、レンたちの結束はかつてないほど強固になっていた。


朝日が昇り始め、新たな一日が始まろうとしている。この日が、神聖王国の運命を大きく変える日になることを、まだ誰も知らなかった。

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