教皇降臨
『神罰の剣』作戦の完全な失敗という屈辱を味わった教皇庁は、ついに最終手段に打って出た。
神聖王国の全ての聖堂騎士団、そして教皇直属の親衛隊を総動員し、レンたちが滞在する村へと大軍を進めてきたのだ。
村の外れの丘から見える光景は圧巻だった。数万の兵士が銀色の鎧に身を包み、整然と隊列を組んで進軍してくる。
その先頭には、金色の法衣をまとった教皇本人が堂々と立っていた。
「うわあ…あれ、全部敵なんですか?」
リシアが青ざめた顔で呟く。その数はあまりにも圧倒的で、今までの戦いとは規模が全く違っていた。
「お兄様…さすがにこれは無謀じゃないでしょうか」
リシアの不安そうな声に、レンは苦笑いを浮かべた。
「確かに、ちょっと多すぎるな。FPSでもここまで敵が多いステージは滅多にない」
やがて教皇一行が村の中央広場に到着すると、教皇は威厳に満ちた声でレンに宣告した。
「異端者レナード・アルバートよ。貴様の存在は神の秩序を根底から乱している。もはや貴様の命運は完全に尽きた」
教皇の言葉は、まるで神からの直接的な予言のように、絶対的な重みを持っていた。その背後に控える数万の聖堂騎士団の威圧感は、村人たちを恐怖で震え上がらせている。
「お兄様…!」
リシアはレンの腕にしがみつき、恐怖を隠せずにいた。レンは優しく妹の頭を撫でながら、まっすぐ教皇を見つめ返した。
「教皇様、一つお聞きしたいことがあります」
レンは落ち着いた声で切り出した。
「あなたも結局は、神の教えを人々を支配するための道具として使っているだけじゃないですか? それが本当に神の御心にかなっているんでしょうか?」
レンの率直な問いかけに、教皇は静かに目を閉じた。その表情には、一瞬だけ迷いのような影がよぎったように見えた。
教皇は長い沈黙の後、静かに祈りを捧げ始めた。
その荘厳な祈りに応えるように、教皇の体から眩い光が放たれ、その神聖な光は周囲の聖堂騎士団の兵士たちに次々と降り注いでいく。
光を浴びた兵士たちの体が徐々に変化していく。筋肉が膨張し、武器に魔力が宿り、まるで別人のような圧倒的な戦闘力を身につけていった。
「うわ…なんだ、あの力は…!」
「これが本物の神の加護というものか…!」
村人たちが恐怖に震える中、エレノアは冷静に状況を分析していた。
「レン様! 敵の戦力が、測定不能なレベルまで跳ね上がっています!」
「やっぱりな。でも、予想の範囲内だ」
レンは「軌跡の刃」を抜き、魔力を流し込んだ。刀身に光が宿ると、加護を受けた敵兵たちの動きの予測線が複雑な軌跡として浮かび上がった。
「エレノア、敵の加護システムの弱点を詳しく解析してくれ。セレスティア、『天の火』を展開して、敵の突撃を食い止めてくれ」
「了解です」
「任せろ」
レンはFPSの経験から、どんなに強化された敵でも必ず弱点が存在することを知っていた。
彼は冷静に仲間たちの能力を最大限に活用し、教皇の神聖な加護を打ち破るための戦術を練り始めた。
「俺たちは神の力に、人間の知恵と勇気で対抗する。それが俺たちの勝ち筋だ」
セレスティアが「天の火」を起動させると、巨大な弩型の魔導兵器が自動で敵を狙い始めた。
「なんだ、あの武器は!」
「勝手に動いてるぞ!」
聖堂騎士団の兵士たちは、見たこともない自動兵器に困惑していた。
(まあ、あれ見たら最初は誰でも驚くよな…)
レンは苦笑いしながらそう思った。
教皇の加護を受けた聖堂騎士団が、圧倒的な力でレンたちに襲い掛かってきた。彼らの攻撃力は以前とは比較にならないほど強化されており、レンたちを徐々に追い詰めていく。
しかし、レンたちは決して諦めなかった。
「カティア、イリヤ、俺と一緒に神の加護を人間の希望の光に変えてくれ」
「分かりました」
「はい、レナード様」
カティアとイリヤは手を取り合い、禁呪魔法と神聖魔法を融合させた新たな魔法を発動した。
それは破壊ではなく、人の心に希望を与える温かい光だった。
その光に触れた聖堂騎士団の兵士たちは、攻撃の手を止めて困惑し始める。
「なぜ…我々を攻撃しないのですか…?」
一人の騎士が震え声で尋ねると、レンは穏やかに答えた。
「俺たちは敵を倒すために戦ってるんじゃない。みんなを救うために戦ってるんだ」
「私たちの信仰は、人を傷つけるためのものではありません。あなたたちも含めて、すべての人を救いたいのです」
イリヤの真摯な言葉に、騎士たちの心は大きく揺れた。
「我々は…一体何のために戦っているのだ……」
兵士たちの間に、深い疑問と混乱が広がっていく。彼らの心に生じた亀裂は、もはや元には戻らないほど深いものだった。
「すげぇな、レナード様達。敵を倒すんじゃなくて、味方に変えちゃうなんて」
村人の一人が感嘆の声を上げた。
教皇はこの異常な状況を目の当たりにして、明らかに動揺していた。自分の最強の切り札である神の加護すら、レンたちの前では無力化されてしまったのだ。
「貴様は…神の御心を理解できるはずがない。神の力は絶対なのだ。貴様はその力の前では、ただの無力な人間にすぎん」
教皇は怒りに震えながら、自らの手でレンを葬り去ろうとした。巨大な光の剣を作り出し、その剣には神の怒りが込められているかのような圧倒的な破壊力が宿っている。
「レナード様…!」
「お兄様!」
仲間たちが心配の声を上げる中、レンは静かに目を閉じた。彼の脳裏には、これまでFPSで培ってきた全ての戦術と経験、そして大切な仲間たちの顔が鮮明に浮かんでいた。
「俺は神の力になんて屈しない」
レンは「軌跡の刃」を構えながら、決意を込めて宣言した。
「俺は人間の知恵と勇気、そして仲間たちとの絆で、この戦いに必ず勝ってみせる」
教皇の光の剣とレンの「軌跡の刃」が激突しようとした、
その瞬間――
レンの瞳には、この世界の未来と、愛する仲間たちを守り抜くという強い決意の光が宿っていた。
神の絶対的な力と、人間の可能性。どちらが真に正しいのかを決める、最終決戦がついに始まろうとしていた。




