神罰の剣、そして真の祝福
『神罰の剣』を受けた聖堂騎士団の精鋭部隊は、もはや人間とは呼べない存在になっていた。
自我を失い、ただ破壊だけを目的とする機械のような動きで、村で最も神聖な場所である小さな教会に向かって一歩また一歩と進んでくる。
レンは彼らの異常な行動パターンを冷静に観察し、ついにその本質を理解した。
「奴らの行動原理は単純な『破壊』だ。でも、その破壊は神聖な力を基盤としている」
レンは「軌跡の刃」を抜き、魔力を流し込んだ。すると刀身に淡い光が宿り、敵の動きの予測線が光の軌跡として浮かび上がった。
「なるほど、動きが見えた。つまり、俺たちは奴らの破壊の力を、逆に祝福の力に変換すればいいんだ」
レンの分析に、イリヤは驚きの表情を浮かべた。
「しかし…そのようなことが本当に可能なのでしょうか?」
「可能だ」
レンはニヤリと笑いながら仲間たちを見回した。
「俺にはFPSで培った最強のチームがいるからな。不可能なんて言葉は俺たちの辞書にはない」
「お兄様、かっこいいです!」
リシアが目を輝かせて言うと、レンは照れたように頭をかいた。
「まあ、ゲーマーっぽく言ってみただけだけどな」
レンはまずエレノアに具体的な指示を出した。
「エレノア、奴らの『神罰の力』の魔法構造を詳しく解析してくれ。俺たちの魔法に転用できるコードを探すんだ」
「承知しました」
エレノアは持前の分析力を活かして、高度な解析魔法を展開した。複雑な魔法陣が空中に浮かび上がり、敵の力の根源を探っていく。
「解析完了です。この力の本質は、聖なるエネルギーの制御不能な過剰流入にあります」
エレノアの冷静な報告に、レンは満足そうに頷いた。
「よし、それなら対処法がある。カティア、イリヤ、お前たちの魔法でそのエネルギーを吸収し、癒しの光に変換してくれ」
「でも、そんな危険な魔法を…」
イリヤが不安そうに言うと、カティアが静かに手を差し伸べた。
「大丈夫です。一緒にやりましょう。レナード様を信じて」
カティアとイリヤは互いの手を取り合い、深く祈りを捧げ始めた。禁呪魔法と神聖魔法が徐々に融合し、これまで誰も見たことのない美しい光が生まれていく。
その光は破壊の力ではなく、人の心を癒し、魂を浄化する真の祝福の光だった。
一方、セレスティアは「天の火」を展開していた。
「この自動迎撃システムで、敵の突進を止める」
巨大な弩のような魔導兵器が、まるで意志を持っているかのように敵を自動で狙い撃ちしていく。
「うおお! 何だあの武器は!」
「勝手に動いてるぞ!」
敵兵たちは見たこともない兵器に困惑していた。
『神罰の剣』の力を受けた精鋭部隊は、カティアとイリヤの融合魔法の光に触れると、その異常な力が次第に無力化されていった。そして驚くべきことに、彼らは徐々に自我を取り戻し始めたのだ。
「あれ…? 俺は一体何をしていたんだ…?」
「ここは…どこだ? なぜ武器を持っている?」
自我を取り戻した騎士たちは、自分たちが犯していた行為に愕然とし、その場に膝をついて涙を流した。
「私たちは…何ということを…」
その時、レンが彼らの前に歩み寄った。「軌跡の刃」の力で、レンは瞬時に彼らの前に現れる。
「なぜ…なぜ私たちを傷つけないのですか?」
一人の騎士が震え声でレンに問いかけた。レンは穏やかな表情で答える。
「俺はお前たちを異端者だとは思っていない。お前たちはただ、正しい信仰の道を見失っていただけだ」
レンの温かい言葉に、騎士たちの心は深く打たれた。
「そして…俺たちは、お前たちを救いたいんだ。それが俺たちの信仰だからな」
レンの真摯な言葉を受けて、カティアとイリヤはさらに力を込めて癒しの魔法を強化した。その美しい光は、聖堂騎士団の精鋭部隊を完全に浄化し、彼らを救い出すことに成功した。
「ありがとうございます…ありがとうございます…」
騎士たちはレンとイリヤに向かって、心からの感謝を捧げた。
「私たちの信仰は、人を縛り、苦しめるためのものではありませんでした。あなたたちと出会って、ようやく真の信仰を理解できました」
騎士の一人が涙ながらに語ると、レンは優しく微笑んだ。
「みんな、お疲れ様。これで本当に終わりだ」
『神罰の剣』作戦の完全な失敗は、教皇庁に決定的な打撃を与えた。もはや彼らに残された手段はほとんどない。
絶望的な状況に追い込まれた教皇庁の枢機卿たちは、最後の手段として、教皇自らがレンたちの前に姿を現すことを決定した。
「教皇様が直接…?」
イリヤが青ざめた表情で呟く。
「ああ、いよいよ最終決戦だな」
レンは「軌跡の刃」を鞘に収めながら、冷静に状況を受け入れた。
数日後、白い法衣に身を包んだ教皇が、護衛を従えてレンたちの前に現れた。彼の瞳は憎悪に燃え、神聖王国の全権力を背負った威圧感を放っている。
「レナード・アルバート…貴様は神に逆らった大罪人だ。神の裁きを受けるがよい」
教皇の重々しい宣告に、レンは全く動じることなく、むしろ自信に満ちた表情で答えた。
「俺は神の裁きなんて受けない。それより、俺がこの世界の歪んだ物語を、正しい方向に書き換えてやる」
レンは仲間たちの顔を一人ずつ見つめた。
エレノアの知的な微笑み、セレスティアの職人らしい頼もしさ、リシアの兄への変わらぬ愛情、カティアの静かな決意、そしてイリヤの新たな信仰への覚悟。
彼らの瞳には、レンへの揺るぎない信頼と愛情が宿っていた。
「お兄様、私たちがついています」
「当然だ。最後まで付き合ってやる」
「理論的に考えても、私たちの勝利は確実です」
「私の魔法も、きっとお役に立てます」
「そして私も、真の信仰のために戦います」
仲間たちの心強い言葉に、レンは深い安心感を覚えた。
ついに最終決戦へと突入していく。
教皇という絶対的権力者を相手に、レンと仲間たちは人間性を守るための最後の戦いに挑む。
神の名を騙る権力と、真の愛に基づく信仰。
どちらが勝利するのか、大陸全体がその結果を固唾を飲んで見守っていた。




