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イリヤの選択

イリヤはレンの差し出した手を見つめながら、深い葛藤の渦中にいた。


これまで彼女が絶対的に信じてきた「神の教え」と、レンが身をもって示す「人間性」という新たな価値観。

どちらが本当に正しいのか、もはや分からなくなっていた。


グラナート都市の中央広場には、多くの人々が集まって二人の対話を見守っている。緊張感が漂う中、イリヤは震え声で尋ねた。


「あなたは…なぜそこまで私を信じてくれるのですか?」


レンは迷いのない、まっすぐな瞳でイリヤを見つめて答えた。


「信じるのに特別な理由はいらない。俺たちは信じ合うから強くなれるんだ。それがチームワークってもんだろ?」


レンの飾らない言葉と、その背後に感じられる深い優しさに、イリヤの心は大きく揺れた。涙が頬を伝い落ちる。


「私は…本当に今まで一体何をしてきたのでしょう…」


イリヤは静かに涙を拭い、ついにレンの温かい手を握った。


「ありがとうございます。私も、あなたと共に戦わせてください」


こうしてイリヤは正式にレンの仲間に加わった。しかし、彼女の心の奥底には、まだ長年信じてきた神の教えへの迷いが残っていた。


「でも…私は本当にこれで良いのでしょうか?」


「大丈夫だ」


リシアが明るく励ました。


「お兄様はいつも正しい道を教えてくれます。一緒にいれば、きっと答えが見つかりますよ」


リシアの純真な笑顔に、イリヤは少し救われた気持ちになった。

教皇庁の怒り

イリヤがレンの仲間に加わったという衝撃的な知らせは、またたく間に教皇庁へと届いた。白い大理石で造られた教皇庁の会議室では、枢機卿たちが激怒していた。


「イリヤ・デ・アルカンジェロめ、神を裏切るとは!」


「彼女は異端者の甘い言葉に惑わされた哀れな存在だ!」


「神聖王国の威信にかけて、あの裏切り者を処罰しなければならん!」


枢機卿たちの怒りは凄まじく、会議室の空気は殺気立っていた。


「イリヤを『堕落した聖女』として断罪し、火刑に処する。そして異端者レナード・アルバートも、同時に抹殺する」


教皇庁は復讐に燃え、神聖王国最強の精鋭部隊「天使の剣」を派遣することを決定した。彼らはイリヤを捕縛し、レンたちを完全に排除するため、執念深くその後を追い始めた。


「お兄様…! 敵は今度こそ、私たちとイリヤ様を本気で殺そうとしています!」


リシアは涙を流しながら、レンに必死に訴えた。情報収集で得た敵の計画があまりにも過激だったからだ。


レンは妹の不安を受け止めながら、静かに頷いた。


(これはFPSで言うなら『最終ボス戦』だな。しかも、このボスは倒すんじゃなくて、考えを変えさせる必要がある)


レンは現代ゲーマーらしい発想で状況を整理すると、仲間たちに具体的な指示を出し始めた。


「エレノア、敵の詳しい動きを予測してくれ。セレスティア、今度は本格的な戦闘用の罠を準備してくれ。カティア、お前はイリヤと連携して、新しい魔法戦術を試してみてくれ」


「了解しました」


「任せろ」


「承知いたします」


それぞれが即座に行動を開始した。


レンたちは「天使の剣」を迎え撃つため、戦略的に有利な峡谷地帯へと向かった。この地形なら、レンがFPSゲームで培った経験を最大限に活かせる。


敵を分断し、各個撃破するには絶好の戦場だった。


「この地形なら、敵の数的優位を無効化できる」


レンは地図を指差しながら説明した。


「岩場を利用して死角を作り、敵の連携を断つ。基本的なセオリーだけど、確実に効果がある」


峡谷に到着すると、セレスティアが早速防衛準備に取りかかった。


「この地形なら、いくらでも罠を仕掛けられるな」


彼女は職人らしい手際の良さで、岩場の各所に巧妙な罠を設置していく。


「よし、作戦開始だ!」


レンの合図と共に、ついに「天使の剣」との決戦が始まった。


エレノアは敵の通信を巧妙に傍受し、混乱を招く偽情報を流し続ける。


「敵の左翼が壊滅しました! 総攻撃を開始してください!」


「何だと!? 報告と状況が全然違うぞ!」


「どうなってるんだ!?」


偽情報に翻弄された敵部隊は、現場の混乱に拍車をかけていた。

セレスティアの設置した物理トラップが次々と発動し、敵の進軍速度を大幅に低下させる。


「うわああ! また罠だ!」


「前に進めないぞ!」


そして、この戦いの目玉となったのがカティアとイリヤの連携魔法だった。


「イリヤ様、準備はよろしいですか?」


「はい。でも、本当にうまくいくのでしょうか?」


「大丈夫です。レン様を信じましょう」


カティアは穏やかに微笑みながら、イリヤと手を取り合った。二人が同時に魔法を発動すると、信じられない現象が起こった。


カティアの禁呪魔法とイリヤの神聖魔法が融合し、これまで誰も見たことのない美しい光が峡谷を包み込んだのだ。


その光は敵兵たちの戦意を完全に削ぎ、武器を置いて戦いをやめさせる効果を持っていた。


「これは…一体何という魔法だ…」


「戦う気が…全く起こらない…」


敵兵たちは次々と武器を地面に置き、戦いをやめてしまった。


「すげぇ…こんな魔法があるのか」


レンも目を見張った。


「禁呪と神聖魔法の融合なんて、理論的には不可能なはずなのに」


エレノアも驚嘆の声を上げる。


「やるじゃないか、二人とも」


セレスティアも珍しく感心していた。


レンたちは「天使の剣」を完全に無力化することに成功した。しかし、これは単なる軍事的勝利ではなかった。


敵兵たちも、カティアとイリヤの融合魔法を見て、自分たちが何のために戦っているのかを考え直し始めたのだ。


「我々は…一体何をしていたのだろう…」


「民衆を守るためではなく、ただ権力者の命令に従っていただけなのか…」


敵兵たちの間に、深い反省の気持ちが広がっていく。

イリヤはこの光景を見て、改めてレンの戦いの意味を理解した。


「レナード様…あなたの戦いは、敵を倒すためのものではないのですね」


「その通りだ」


レンは優しく答えた。


「俺の戦いは、敵を味方に変えるための戦いなんだ。憎しみからは何も生まれない。理解し合ってこそ、本当の平和が生まれる」


「私は…長い間、間違った道を歩んでいました」


イリヤは深い後悔を込めて言った。


「でも、今なら分かります。神が本当に望んでいるのは、人々が互いを愛し、支え合うことなのだと」


レンは仲間たちの顔を一人ずつ見つめながら、感慨深げに言った。


「神がどう思うかは俺には分からない。でも俺は、俺の信じる道を進む。そして、その道は…俺の大切な仲間たちが教えてくれたものなんだ」


彼らの瞳には、レンへの揺るぎない信頼と愛情が宿っていた。エレノアの知的な微笑み、セレスティアの職人らしい満足感、リシアの兄への純粋な愛、カティアの静かな感謝、そしてイリヤの新たな希望。


こうして物語は、さらなる新展開へと突入していく。神聖王国の根深い腐敗と教皇庁の巨大な陰謀、そしてレンと仲間たちがこの世界に築こうとする新たな秩序。


真の平和への道は、まだ長く険しいものになりそうだった。しかし、強い絆で結ばれた仲間たちがいる限り、どんな困難も乗り越えられる。


そんな確信を胸に、レンたちは次なる挑戦へと向かっていく。

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