聖女の決心と教皇庁の最終兵器
教皇庁の精鋭部隊を見事に退けた後、イリヤはレンのそばで自分の信じる道について深く考え込んでいた。
夕日が峡谷を赤く染める中、彼女の美しい横顔には複雑な感情が浮かんでいる。
これまで絶対的に信じてきた「神の御心」が、実は教皇庁の権力者たちの私利私欲によって歪められていたことに、ようやく気づいたのだ。
そして、レンが身をもって示す「人間性」こそが、真の信仰の姿であると確信するようになった。
「レン様…私は決心しました」
イリヤは振り返ると、迷いのない清らかな瞳でレンを見つめた。
「神の真の御心は、人々を愛し、支え合うこと。そして、その愛を証明するために、私はあなたと共に戦わせていただきます」
イリヤの言葉には、これまでの迷いを完全に振り切った強い決意が込められていた。
レンは静かに頷き、イリヤの覚悟を受け入れた。
「ありがとう、イリヤ。俺たちと一緒に、本当の平和を築いていこう」
「はい! イリヤ様、一緒に頑張りましょう!」
リシアが嬉しそうに手を差し伸べると、イリヤも初めて心からの笑顔を見せた。
「よろしくお願いします、リシア様」
「様なんていりませんよ。みんな仲間ですから」
リシアの屈託のない明るさに、イリヤの心も軽やかになっていく。
しかし、この一連の敗北は教皇庁に致命的な衝撃を与えていた。白い大理石の会議室では、紅潮した顔の枢機卿たちが激怒していた。
「イリヤめ、聖女でありながら神を裏切るとは!」
「あの異端者の甘い言葉に惑わされた愚か者が!」
「このままでは教皇庁の権威が地に落ちてしまう!」
枢機卿たちは、レンとイリヤの連携を目の当たりにして、彼らが神聖王国の根本的な価値観を覆す最大の脅威であると認識した。そして、ついに禁断の決断を下す。
「もはや人の手では奴らを止められん。『神罰の剣』を解き放て」
この指令を聞いた瞬間、イリヤの顔は青ざめた。
「『神罰の剣』…まさか、あの忌まわしい技術を使うつもりなのですか!」
イリヤの震え声に、仲間たちは緊張した。
「イリヤ、それって一体何なんだ?」
レンが尋ねると、イリヤは恐怖に満ちた表情で説明し始めた。
「それは教皇庁が極秘に開発した、人間に神聖な力を強制的に付与する禁忌の技術です」
「強制的に? それってヤバくない?」
「はい…この技術を受けた人間は確かに一時的に絶大な力を得ます。しかし、その代償として自我を完全に失い、ただの破壊兵器と化してしまうのです」
イリヤは涙を流しながら、レンに必死に訴えた。
「あれは私の知っている『神の御心』ではありません! あれは人を道具として利用するための、悪魔の所業です!」
レンはイリヤの説明を聞きながら、現代的な視点で分析した。
「なるほどな。FPSで例えるなら、『プレイヤーキャラクター』を強制的に『AI操作のNPC』に変えるようなものか」
「何を言っているかあまり分かりませんが、た、多分…そうかもしれません」
「つまり、俺たちは最強の『チートAI』と戦うってわけだ」
レンは苦笑いを浮かべながら続けた。
「でも俺は、チートを使うプレイヤーには絶対に負けない。正攻法で必ず勝ってやる」
セレスティアが心配そうに口を挟む。
「でも、相手は人間じゃないんだろう? 私の武器が通用するとは思えないが」
「大丈夫だ。どんな相手にも必ず弱点がある」
レンは自信に満ちた表情で仲間たちに指示を出し始めた。
「エレノア、奴らの詳しい行動パターンと弱点を分析してくれ。セレスティア、今度は特殊な対魔法装備を作ってくれ。カティア、お前はイリヤと連携して、奴らの強制操作を解除する方法を考えてくれ」
「承知しました」
「任せろ」
「頑張ります」
仲間たちの頼もしい返事に、レンは心強さを感じた。
数日後、ついに『神罰の剣』を受けた聖堂騎士団の特殊部隊が、レンたちの前に姿を現した。
彼らはもはや人間とは呼べない存在になっていた。瞳には意志の光がなく、ただ破壊だけを目的とする機械のような動きを見せている。
彼らの放つ神聖な光は、これまでのどんな攻撃よりも強力で、レンたちの得意とする戦術を次々と無効化していく。
「くっ…! 奴らの攻撃パターンが全然読めない…!」
エレノアが珍しく焦りの色を見せながら叫んだ。
「罠も全部破壊されてしまうよ!!」
セレスティアの設置した精巧な罠が、まるで紙のように簡単に破壊されていく。
「イリヤ様…! このままじゃ、みんなが…!」
カティアも涙を流しながら、絶望的な状況を訴えた。
レンも、その圧倒的な力に苦戦を強いられていた。
彼の戦術は人間を相手にするには効果的だが、自我を失った「AI兵器」には全く通用しなかった。
「やばい…このままじゃ本当にまずい…!」
レンは額に汗を浮かべながら、必死に打開策を考えていた。
「お兄様…!」
リシアが心配そうにレンの名前を呼ぶ。
その時、エレノアが重要なことに気づいた。
「レナード様! 奴らの動きは確かに予測不能ですが、必ず一つの場所に向かおうとしています!」
「どこだ?」
「この村で最も神聖な場所…あの小さな教会です!」
エレノアの指摘に、レンは敵の行動原理を理解した。
「なるほど。奴らの目的は俺たちの殲滅じゃない。奴らのいう異端者が巣食う場所、つまり俺らが汚した『神聖な場所の破壊』なんだな」
レンはついに逆転のアイデアを思いついた。ゲーマーらしい発想の転換だった。
「そうか…奴らは『破壊』がプログラムされてるだけで、『守る』ことはできないんだ」
レンは仲間たちに向かって、自信に満ちた笑顔を見せた。
「みんな、逆転の時間だ。イリヤ、カティア、力を貸してくれ。俺は奴らの『神罰』を、本当の『神の祝福』に変えてやる」
「でも、どうやって?」
イリヤが困惑しながら尋ねる。
「簡単さ。奴らが破壊しようとしている教会を、俺たちが守ればいい。そうすれば、奴らのプログラムと現実の間に矛盾が生じる」
レンの論理的な作戦に、カティアとイリヤは顔を見合わせた。
「なるほど…理論的には可能かもしれません」
「でも、とても危険です」
「だからこそ、みんなの力が必要なんだ」
レンは仲間たちの手を一つずつ握りながら言った。
「俺一人じゃ絶対に無理だ。でも、みんながいれば必ず成功する。俺はそれを信じてる」
イリヤとカティアは、レンの言葉に深く頷いた。
「分かりました。レン様を信じます」
「私たちの力を合わせましょう」
こうして、レンがこの世界にやって来てから、最も困難な戦いが始まろうとしていた。
人間性を失った最強の敵を相手に、レンたちは信仰と絆の力で立ち向かう。
この戦いの結果が、神聖王国だけでなく、大陸全体の未来を決めることになるのだった。




