聖女の降臨
聖堂騎士団の本隊を退けたレンたちは、村の復旧作業を手伝っていた。
民衆は、レンたちを心から称賛し、英雄としてではなく、家族のように迎え入れてくれた。
レンは、初めて、この世界に自分の居場所を見つけたような気がしていた。
「兄様、見てください! みんな、笑顔です!」
リシアは、村人たちと楽しそうに談笑しながら、レンにそう告げた。レンは、その光景を静かに見つめ、胸の奥から温かいものがこみ上げてくるのを感じた。
だが、安息は長くは続かなかった。
「レン様…」
エレノアが、真剣な顔でレンの元へやってきた。
「新たな情報が入りました。神聖王国から、新たな刺客が派遣されたようです」
「ほう。今度は、どんな手を使ってくる?」
「今回の刺客は、武力だけではありません。…『神の使徒』と呼ばれる、聖女です」
エレノアの言葉に、レンは眉をひそめた。
『神の使徒』と呼ばれる聖女は、イリヤ・デ・アルカンジェロという名の美しい女性だった。
彼女は、神聖な力を使い、民衆の傷を癒し、彼らの心を掌握していた。その力は、レンたちの戦術とは全く異なる、精神的なものだった。
「今回の聖女様は帝国の時と違って本物みたいだな」
レンは思考をめぐらせる。
「彼女は、まるでゲームの『ヒーラー』だな。しかも、味方の士気を上げる『バフ』効果も持っている」
レンは、イリヤの力をFPS的思考で分析した。
「俺たちの戦術は、敵の物理的な力を無力化することに特化している。だが、彼女は、民衆の心という、目に見えないものを操作する。これは…厄介な敵だ」
イリヤは、村々を回りながら、レンたちを「偽りの英雄」「異端者」と非難。民衆の心に、レンたちへの不信感を植え付けていった。
「神は、愛と慈悲を説く。しかし、あの異端者は、暴力を使い、人々を惑わしている。どうか、神の光を信じてください」
イリヤの言葉に、民衆は心を奪われ、レンたちから距離を置き始めた。
「あの方…、嫌いです」
リシアは、イリヤの行動に怒りを露わにした。レンは、冷静にリシアをなだめた。
「リシア、感情的になるな。これは、情報戦だ。彼女は、俺たちに、言葉の戦いを挑んでいる」
イリヤの出現は、カティアにも大きな影響を与えた。彼女は、イリヤが使う神聖な力と、自分が使う禁呪魔法の間の、根源的な違いに苦悩していた。
「イリヤ様は、真に神の御心にかなった方…私は、彼女とは違う…」
カティアは、自らの存在に疑問を抱き始めていた。レンは、そんなカティアに優しく声をかけた。
「カティア、お前の魔法は、人を救うために使われている。それだけで十分じゃないか」
「ですが…私の魔法は、人々の恐怖を煽るだけ…」
「違う。俺は、お前の魔法を、人を守るために使っている。俺は、お前の魔法を、信じている」
レンの言葉に、カティアは、涙を流した。
「レン様…」
レンは、カティアの手を握り、力強く言った。
「俺たちの戦いは、神聖な力と禁呪の戦いじゃない。人を守るための戦いだ。だから、お前は、お前の信じる道を、突き進め」
イリヤの行動は、レンたちを追いつめていく。民衆の信頼を失い、孤立していくレンたち。だが、レンは、この状況を、FPSで言う「対戦モード」だと捉え、イリヤとの直接対決を決意する。
「エレノア、イリヤの居場所を特定してくれ。俺は、彼女と話す」
「兄様、危険です!」
リシアが止めるが、レンは聞かなかった。
「俺たちの戦いは、言葉と力、そして、信仰の戦いへと進化した。だからこそ、俺は、この戦いを、真正面から受け止める」
レンは、イリヤが滞在している教会へと向かう。教会の中では、イリヤが、民衆に「神の教え」を説いていた。
「異端者は、神の教えを理解できない哀れな存在…」
イリヤの言葉に、レンは、静かに言った。
「違う。俺は、神の教えを、お前よりも理解している」
レンとイリヤの視線が交差する。
信仰と人間性の戦いは、新たな局面を迎えるのだった。