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新たな任務

異端審問に勝利したレンたちだったが、神聖王国の首都に漂う空気は相変わらず重苦しかった。


石畳の道を歩く市民たちの表情には不安が色濃く映っている。枢機卿マルケシウスは失脚したものの、教会の権力構造そのものは何も変わっていない。


むしろ、レンたちへの敵意はより深く潜行し、陰湿な形で表面化し始めていた。


街角では、神聖王国の兵士たちが不穏な視線をレンたちに向けている。商店の店主たちも、以前のような親しみやすい笑顔ではなく、どこか警戒した表情でレンたちを見送った。


勝利したはずなのに、この街全体がレンたちを歓迎していないことは明らかだった。


「今回勝てたのは、ほんの小さな戦いにすぎないな」


レンは神聖王国の首都から離れる馬車の中で、窓の外に広がる荒涼とした風景を眺めながらつぶやいた。


馬車の揺れが心地よく響く中、彼の心は次なる困難への警戒で満ちている。遠くに見える山々も、どこか暗い影を落としているように感じられた。


「FPSゲームなら一人でも敵の本拠地に乗り込んで何とかできるけど、この世界じゃ仲間がいないと絶対に無理だ。それに相手は個人じゃなくて国全体だからな。システム自体を変えないといけない」


レンの現実的な分析に、隣に座っていたリシアが心配そうな顔でのぞき込む。


「お兄様…でも、きっと大丈夫ですよね?」


「平気だよ、リシア。もう一人じゃないからね。皆んながいる限り、どんな困難でも乗り越えられる」


レンはそう言ってリシアの小さな手を優しく握った。


「お兄様…」


その温かさと兄の安心させるような微笑みに、リシアはほっと表情を緩める。彼女の頬に薄っすらと赤みが差すのを、レンは愛おしく思った。


馬車の向かい側では、エレノアが持参した書類に目を通している。彼女の青い瞳は真剣そのもので、今回の事件が与える政治的影響を冷静に分析していた。


「レナード様、今回の件で神聖王国と王国の関係は完全に悪化しました。向こうは必ず報復を考えているはずです」


エレノアの鋭い分析に、レンは頷く。彼女の情報収集能力と政治的洞察力は、いつも的確で頼りになった。


「そうだろうね。でも俺たちは正しいことをしただけだ。後悔はしていない」


セレスティアは馬車の隅で、新しい武器の設計図を黙々と描いている。彼女の職人気質は、困難な状況でもより良い装備を作ろうとする意欲に変わっていた。


「次の戦いでは、もっと強力な武器が必要になる。準備をしとかないとな」


セレスティアの無愛想な口調だが、その言葉にはレンたちを守ろうとする強い意志が込められている。


神聖王国の首都を完全に離れ、一行は王国への帰路を急いだ。その日の夕方、野営地で焚き火を囲みながら、レンは新たに仲間となったカティアに話しかけた。

焚き火の温かい光が、彼女の美しい顔を柔らかく照らしている。


「カティア、これからどうするつもり?」


カティアは焚き火の揺らめく炎を見つめながら、静かに答えた。


「私は神聖王国中から指名手配されています。故郷にも帰れません。もう安全な場所なんてどこにもないのです」


その寂しげな言葉と、諦めにも似た表情を見て、レンは温かい笑顔を向けた。


「そっか。それなら俺たちと一緒に来ないか?」


カティアは驚いた表情でレンを見上げる。その瞳には希望と不安が入り混じっていた。


「え…でも私は危険な記憶魔法を使います。皆さんにご迷惑をおかけするかもしれません。それに、私といると皆さんも狙われることになってしまいます」


「俺たちはいつでもカティアを歓迎するよ。カティアの記憶魔法は本当に貴重な力だし、なによりカティア自身が大切な仲間だ。もちろん嫌じゃなければの話だけど…」


レンは自然な仕草で手を差し出した。その手は大きく温かく、カティアにとって希望の象徴のように見えた。カティアはその手を見つめながら、静かに涙を流し始める。


「ありがとうございます。喜んでお仲間にしていただきます」


カティアは感謝の気持ちを込めて、レンの温かい手をそっと握った。こうして彼女は正式にレンの仲間となった。


しかし同時に、「危険な禁断魔法を操る者」として他国からも警戒されることになってしまった。


一週間後、王国の王都に戻ったレンたちを、エドワード国王は王座の間で厳しい表情で迎えた。王座の間はいつもより多くの重臣たちで満たされており、緊迫した雰囲気が漂っている。


大きな窓から差し込む夕日が、王座を神々しく照らしていた。


「レナード・アルバートよ。お前は問題を解決するどころか、さらに大きな戦争の火種を作ってしまったな」


国王の重々しい声に、レンは率直にうなずいた。


「はい、陛下。神聖王国の腐敗は想像以上に深刻でした。今回の騒動は、その腐敗した権力構造を明らかにしただけにすぎません。根本的な解決には、まだ時間がかかるでしょう」


「その通りだ。神聖王国は今回の屈辱を絶対に忘れない。お前個人だけでなく、王国全体への『聖戦』を仕掛けてくる可能性が高い」


国王は立ち上がり、王座の間の壁一面に掛けられた大陸の巨大な地図を指し示した。


そこには神聖王国、帝国、砂漠連邦、魔族領、そして多数の小国が複雑に絡み合いながらにらみ合っている様子が詳細に描かれている。


赤い印で敵対関係、青い印で同盟関係が示されており、大陸全体の緊張状態が一目で分かる。


「お前のやったことは、もはや個人の異端審問という枠を完全に越えてしまった。これからは大陸全体を巻き込む大規模な戦いになっていく。政治、宗教、思想、経済、すべてが絡み合った複雑な戦争だ。それでも最後まで戦い続ける覚悟はあるか?」


レンは国王をまっすぐ見つめ返し、迷いのない力強い声で答えた。


「はい、陛下。私は絶対に最後まで戦い続けます」


レンは胸を張って宣言する。


「これは私が始めた戦いです。だからこの戦いの最終的な決着を見届けるまで、決してあきらめるつもりはありません。仲間たちと共に、必ずや大陸に真の平和をもたらしてみせます」


国王は満足そうにうなずき、王座から立ち上がった。


「よし。それならお前に新たな重要な任務を与えよう」


レンは緊張しながら国王の次の言葉を待った。エレノア、セレスティア、リシア、そしてカティアも、息を詰めて見守っている。


「神聖王国が本格的に『聖戦』の準備を開始したという確実な情報が入った。王国を守るため、そして大陸全体の平和を維持するため、この戦いに必ず勝利せよ。

お前が軍事顧問として、まったく新しい戦略を立案し、実行に移せ」


レンは自信に満ちた笑みを浮かべた。

現代の軍事知識と、この世界で得た経験を組み合わせれば、きっと新しい戦術を生み出せるはずだ。


「承知いたしました、陛下。この世界の運命を、私たちの力で必ず良い方向に導いてお見せします」


こうして物語は「王国 vs 神聖王国」の全面戦争へと発展していく。

FPSゲームで培った戦略的思考と現代軍事知識、そして仲間たちとの強い絆は、大陸規模の大戦争でも通用するのだろうか?


レンの冒険は個人的な異端審問という枠を完全に越えて、「大陸全体を巻き込む壮大な思想戦争」という新たな段階へと突入していく。


エレノアは貴族として持つ広大な情報網を活用し、セレスティアは戦争に備えた新型武器の開発に取り組み、リシアは兄を支える強い意志を固めた。そしてカティアの記憶魔法は、これからの複雑な戦いで重要な役割を果たすことになるだろう。


夜が更けた王都の空には無数の星が輝き、まるで新たな壮大な物語の始まりを祝福しているかのようだった。

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