地下牢からの脱出作戦
異端審問が終わって、レンたちは大聖堂の地下にある小さな部屋に閉じ込められた。
最終審理まであと三日間。そう言われたけれど、レンには本当の狙いが分かっていた。
「エレノア、この部屋を見張っている兵士たちの動きを調べてくれ。交代の時間も含めて」
レンの頼みを聞いて、エレノアはすぐに魔法で調べ始めた。
「分かりました。兵士たちの動きを見ると、これは護衛というより処刑の準備ですね。三日後まで生きていられる可能性は、ほとんどありません」
エレノアの冷たい報告を聞いても、レンは楽しそうに笑った。
「やっぱりな。つまり連中は三日も待たずに、俺たちをやっつけに来るってことだ。でも俺は、そういうピンチが大好きなんだよね」
リシアが心配そうな顔をした。
「お兄様、そんなこと言って大丈夫ですか」
「心配するな。敵が先手を打ってきたら、こっちも逆襲するまでだ」
レンは仲間たちに指示を出した。
「セレスティア、俺の武器を渡してくれ」
「承知した」
「リシア、お前は俺の隣にいてくれ。お前が俺の最強の盾だからな」
「はい、お兄様!」
仲間たちの顔を見回して、レンはまた不敵に笑った。
夜中になって、部屋の明かりが消された。外から何人もの足音が近づいてくる。レンは仲間たちに合図を送った。
「来たぞ! セレスティア、金属片を鳴らせ!」
セレスティアは懐から小さな金属を取り出して、静かに音を立てた。その音が地下室に響いて、いろんな方向から聞こえてくる。
「リシア、今だ!」
リシアはレンの合図で光の魔法を使った。暗闇に慣れた暗殺者たちの目がくらんだ。
「うわあああ!」
暗殺者たちは光と音で混乱して、動けなくなった。
レンはそのチャンスを逃さなかった。
「光と音で敵を混乱させる作戦成功だ。エレノア、あいつらの会話を聞き取ってくれ」
エレノアが魔法で暗殺者たちの通信を盗み聞きした。
「『ターゲットを始末しろ。証拠を消せ』と言っています。やはり枢機卿の直属の兵士たちですね。何かの証拠を隠すために来たようです」
レンは頷いた。
「よし、作戦変更だ。一人だけ捕まえる。あとは片付ける」
レンは『軌跡の刃』で、暗殺者たちを次々と倒していった。
レンは暗殺者の一人を捕まえて、エレノアが質問を始めた。
「話せ。お前たちの目的は何だ?」
エレノアの鋭い視線に、暗殺者は震えながら答えた。
「枢機卿マルケシウス様が、嘘の証拠を作っています」
レンは眉をひそめた。
「偽造か。やっぱり俺をハメるための罠だったんだな」
「はい。聖遺物の偽物を使って、あなたに罪を着せる計画です。今夜、その偽物を大聖堂に隠す予定でした」
エレノアは静かに頷いた。
「聖遺物の偽物か。セレスティア、本物と偽物を見分けることはできるか?」
セレスティアは力強く頷いた。
「当然、あたしを誰だと思ってるんだい?作り方の痕跡を調べれば、本物と偽物なんか一目瞭然だよ」
「よし。これで次の法廷での反撃の材料が手に入ったな」
レンはまた不敵に笑った。
「捕まえた暗殺者はどうしますか?」
リシアがレンに聞いた。
エレノアは「利用すべきです」、セレスティアは「危険だから処分すべき」と、それぞれの意見を言った。
レンは静かに答えた。
「こいつを生かして、情報戦に使う。お前たちには出来るだけ殺させたくない」
リシアは涙を流した。
「お兄様」
レンはリシアの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。俺はもう一人じゃない。だから俺の仲間は、俺が守る」
最後に、レンたちが部屋に戻る途中で、大聖堂の上の階で「聖遺物の展示替え」が行われているのを見つけた。
まさに「偽の証拠を仕込んでいる」場面だった。
「行くぞ。俺たちの反撃戦だ」
レンは仲間たちにそう言って、大聖堂の暗闇の中へ向かった。