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異端の召喚

「さらばだ、レナード」


セリナは馬車の前で、いつものキリッとした顔で言った。でも目の奥で、どこか悲しそうな光がゆれている。レンの胸がちくっと痛んだ。彼は彼女に背を向けて、故郷へ帰る道を歩き出した。


「もっと気の利いた言葉をかけてやれよ」


セレスティアがあきれたようにつぶやく。リシアも心配そうにレンを見ていた。レンは足を止めて、ゆっくりと振り返った。セリナはまだそこに立っていた。


「セリナ!」


思わず大きな声で呼んだ。彼女は驚いたように振り返る。レンは一歩、また一歩とセリナに近づいていく。そして彼女の目の前で立ち止まると、まっすぐに瞳を見つめた。


「俺は、お前との戦いを忘れない」


その言葉に、セリナは少し眉をひそめた。


「私は、お前への想いを、この胸に秘めて国を導く力とする。だから私は、私に勝ったことを、お前が皆に誇れるように…帝国で生きていく」


彼女の言葉がレンの心に響いた。レンはふっと笑顔になって、セリナの肩にそっと手を置いた。


「大丈夫だ。俺は勝ったことを後悔することなんかしない。むしろ、俺に勝てなかったことを、お前がいつか誇りに思えるように、俺はもっと強くなる」


セリナは目を大きく見開いた。


「だから、お前も強くなれ。そして俺に勝てなかったことを、いつか笑い話にしてくれる日が来るのを、俺は楽しみにしている」


セリナは一瞬泣きそうな顔をしたが、すぐに笑顔でうなずいた。


「ああ、約束する。必ず、お前に勝てなかったことを笑い話にしてやる」


そう言って、彼女は馬車に乗り込んで首都へ向かった。レンは彼女が見えなくなるまで、じっとその場に立っていた。


「あいつ、少し泣いてたな」


リシアがそっとレンの腕に触れた。レンは静かにうなずいて、また故郷に向かって歩き始めた。



王都に戻ったレンたちを、民衆は英雄として迎えた。でも貴族たちは冷たい態度だった。レンが戦争を終わらせたことは評価しているけれど、あまりにも強すぎる力を恐れていた。


「アルバート卿は、王国を超える存在になっている。あんな危険な人物を、王国の中心に置いてはいけない」


そんな声が貴族の間でささやかれ始めた。

レンはそんなことを知ってか知らずか、いつものように冷静に過ごしていた。


そんなある日、国王エドワードがレンを呼び出した。


「レナード・アルバートよ。神聖王国から、お前に異端審問の召喚状が届いた」


国王の言葉に、レンは少し驚いた顔をした。


「異端審問ですか」


我がアークライト王国は周辺を四つの国と連合に接している。


先日まで戦争状態だった北方の軍事国家、ヴァルクス帝国


西方の信仰国家、教会と王権が一体化した国家であり

大陸の「正義」を自称する、ノイシュタット神聖王国


南方の広大な砂漠を拠点にした都市国家の連合体、ザハル砂漠連邦


北東の辺境 、魔族と呼ばれる種族が暮らす土地。

長らく人類国家と冷戦状態である、魔族領域


今回届いた召喚状はノイシュタット神聖王国からのものだった。


「表向きは、お前の武器と戦い方の正体を調べるという名目だ。だが本当の狙いは、お前を殺す口実を作ることだ。神聖王国の異端審問官ハインリヒ枢機卿は、お前を火刑にするつもりだ」


国王は、この召喚状が政治的な狙いで送られたものだと教えた。レンは黙って国王の話を聞いていた。


「召喚に応じなければ、和平どころか大陸全体が戦火に包まれることになる。お前はどうする?」


国王はレンの決断を待った。レンは静かに目を閉じた。


「お兄様を異端だなんて、許せません! 絶対に行ってはダメです!」


リシアは涙を流しながらレンの胸にすがりついた。エレノアは落ち着いて、セレスティアは不安そうにレンの決断を待っていた。


「分かってる。これは俺を消すためのショーだ」


レンはリシアを優しく抱きしめてそう言った。


「これはFPSで言えば、キャンペーンの次のミッションだ。しかも俺を狙ってくる敵がいる、難しいミッションだ」


その言葉で、リシアは少し落ち着いた。

レンがいつものゲーム用語で状況を説明してくれたからだ。


「セレスティア、俺の武器を隠し持っていてくれ。もしもの時に備えるんだ」


「まかせろ。私の作品はお前を守るためにある」


セレスティアは力強くうなずいた。


「エレノア、お前は情報戦を頼む。相手は理屈で武装している。だからその理屈の穴を突くんだ」


「承知いたしました。裁判の裏には必ず政治的な狙いがあります。私がその糸口を見つけ出します」


エレノアは冷たい瞳の中に、わずかな熱を宿した。


レンはリシアの手を握って、ゆっくりとうなずいた。


「大丈夫だ。俺たちは、もう一人じゃない」


そう言って、レンは国王に深く頭を下げた。


「陛下、お言葉に従って神聖王国へ向かいます」

レンの言葉に、国王は満足そうにうなずいた。


神聖王国への道中、レンたちは修道騎士団に追われる一人の女性を助けた。


彼女の名前はカティア・ヴェルンハルト。

神聖王国出身の修道女だが、異端魔法「逆唱祈祷」を理由に追放されたという。


「私は聖句を逆さに唱えて、癒しの光を攻撃に変える禁じられた術を使います。あなたと同じ異端者です」


カティアはレンにそう告げた。

レンは彼女の言葉に、かつて一人で戦ってきた自分の姿を重ねた。


「あなたは私と同じ孤独な戦いをしています。だから私もあなたと一緒に戦いたい」


カティアはレンに同行を申し出た。レンは迷ったが、彼女の瞳に宿る強い信念の光を見た。


「孤独な戦いには慣れてる。でも、もう俺は一人じゃない。だからお前も、もう一人で戦わなくてもいい」


そう言って、レンはカティアの申し出を受け入れた。

カティアは驚いた顔をした後、静かにうなずいた。


一行は神聖王国の首都に到着した。大きくて厳かな大聖堂が彼らを待ち受けていた。


「これは、まるで俺を裁くための舞台だな」


レンは大聖堂を見上げてそうつぶやいた。


「でも、舞台でも真実を示せば、人の心は動きます」


カティアはレンの隣で静かに言った。


「そうだな。俺はこの舞台、勝つ気満々だ」


レンは不敵な笑みを浮かべた。その時、大聖堂の鐘が厳かに鳴り響いた。それは異端審問の始まりを告げる合図だった。


レンは仲間たちと共に大聖堂の扉を開けた。その先には、彼らを待ち受ける熱狂した群衆の姿があった。

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