表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界リロード 〜没落貴族ですが、現代FPS知識で戦場を無双します〜  作者: 雪消無
第4章:『旅路での出会いと、新たな力』
50/161

帝国の謀略

アルバート家の領地に、二度目の秋が訪れていた。ヴァルクス帝国との国境に接するこの土地は、かつての寂れた辺境という面影を完全に払拭し、驚くべき活気と豊かさに満ち溢れていた。彼の改革の魂はこの地に根付き、兄たちや領民たちの手によって、その成果は着実に拡大していた。


王国への納税も確実に行えるようになり、その収支報告を目にした国王は、あらためてレンの手腕と能力に脅威を抱くこととなった。


だが、良いことばかりではなかった。

現在、王国の隣国、ヴァルクス帝国との関係が姫騎士セリナの捕虜という状況で急速に悪化している。


レンは、領地改革を進めながらも、エレノアの情報網を駆使し、帝国の動向を監視し続けていた。

軍事顧問としての任務を片時も忘れることはなかった。

また、その重責を担う立場から定期的に王都へ帰還しなければならず、王国の最前線であるこのアルバート家領地を帝国に対する最も堅牢な「砦」へと変貌させる、という仕事は困難を極めていた。


実際、彼が導入したFPSやRTSの概念は、農業や商業の振興だけに留まらなかった。

新たに整備された街道は、平時には物流の動脈だが、有事には兵員の迅速な展開を可能にする軍用道路としての側面も持つ。

各地に作られた作物の備蓄倉庫は、そのまま兵糧の集積所へと転用できる。

領民たちは、農作業の合間にレンが考案した独自の訓練を行い、民兵としての練度を飛躍的に向上させていた。


アルバート領は、豊かさと強さを両立させた、理想的な国境領地へと変貌を遂げつつあったのだ。


そして、この改革の根幹を支えていたのが、エレノアが張り巡らせた、蜘蛛の巣のように緻密な情報網だった。

彼女は、国境を越えて帝国領内にも多数の協力者を獲得し、その動向を常に監視していた。軍事顧問の職務を疎かにしない、というレンの強い意志の表れでもあった。


その日、レンは収穫祭を終えたばかりの故郷に滞在していた。表向きは領地の視察だが、真の目的はエレノアからもたらされた、ある不穏な報告を精査するためだった。


「…やはり、間違いなさそうだな」


司令室として使っている屋敷の一室で、レンは帝国領の地図を睨みながら呟いた。彼の前には、エレノアとセリナが、緊張した面持ちで座っている。


「はい」


エレノアは、手元の資料を指し示した。


「ここ数ヶ月、帝国宰相派の貴族たちが、領内の孤児や身寄りのない少女たちを密かに集めているという情報が複数入っています。そして、その中から、セリナ様に容姿が酷似した少女が一人、宰相の居城へと連れていかれた、と」


「私に似た少女…?」


セリナが眉をひそめる。


「宰相が、一体何のために…」


「考えられるのは、替え玉、あるいはプロパガンダへの利用」


レンは、厳しい表情で続けた。


「最悪のシナリオは、その少女を『聖女』か何かに仕立て上げて、『姫を誑かした邪悪な王国を討つ』という聖戦を煽る、もしくは、お前を『偽物』あるいは『裏切り者』に仕立て上げることだ。そうすれば、帝国は『偽りの姫を匿う邪悪な王国』という大義名分を得て、心置きなくこちらに侵攻できる」


FPSのシナリオで、何度も見た手口だった。

敵対国家の正統性を内側から崩し、自らの侵略を正当化する。古典的だが、民衆の扇動には極めて有効な手段だ。


「父上は…将軍は何と?」


セリナが問う。


「セリナ様のご実家である将軍家は、宰相の動きを警戒し、軍の移動を自重するよう皇帝陛下に進言しているとのことです。しかし、宰相派の貴族たちが『姫を見殺しにする気か』と突き上げ、軍内部でも意見が割れている、と」


エレノアが淡々と報告した。


状況は、レンの予測通り、最悪の方向へと進みつつあった。これは、単なる国境紛争ではない。帝国の内乱と、王国への侵略が連動した、大規模な動乱の前触れだ。


「…エレノア、この情報をすぐに王都へ。国王陛下に、帝国の真の狙いを伝えるんだ。俺たちは、ここで帝国の出方を待つ」


「お待ちください、レナード様」


エレノアが制した。


「私が行くよりも、レナード様ご自身が王都へ向かうべきです。この情報は、あまりに衝撃的すぎる。一介の密偵からの報告では、王都の貴族たちは容易に信じないでしょう。軍事顧問である貴方の言葉でなければ、彼らは動きません」


エレノアの指摘は的確だった。自分が王都を離れれば、この最前線の指揮に空白が生まれる。しかし、中央が動かなければ、辺境の奮闘など無意味に終わる。


「…分かった。セリナ、お前は俺と王都へ。エレノア、お前はここに残って、引き続き情報の収集と、領地の守りを兄さんたちと頼む。リシアも、お前と一緒だ」


「承知いたしました」


「兄様、お気をつけて…」


リシアの不安げな声に頷き、レンはセリナと共に急ぎ王都へと馬を走らせた。

王宮に到着したレンたちが目の当たりにしたのは、まさにエレノアが懸念した通りの光景だった。重臣会議は帝国への対応を巡って紛糾していた。


「帝国は姫の返還を求めているだけだ! 素直に返せば、戦にはなるまい!」


「いや、これは揺さぶりに過ぎん! 弱腰を見せれば、さらなる要求を突き付けてくるぞ!」


議論は完全に平行線を辿っていた。

そこに、レンがもたらした「偽りの聖女」と「宰相の野望」という情報は、大きな爆弾を投下した。


「馬鹿な! 一貴族の三男坊の戯言を、真に受けろと申すか!」


「そうだ! それは、捕虜である帝国の姫を返還したくないがための、貴様の言い訳ではないのか!」


案の定、宰相と繋がっているであろう貴族たちから、猛烈な反発が巻き起こる。レンがどれだけ論理的に帝国の狙いを説明しても、彼らは聞く耳を持たない。


故郷の領地で静かに火の手を上げたようとしていた帝国の謀略は、今や王国全体を巻き込む大きな戦雲となり、レンたちの頭上を覆い尽くそうとしていた。だが、彼の心に迷いはなかった。守るべきものが、そして共に戦う仲間が、すぐ隣にいるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ