軌跡の刃
レンは、仲間たちと共にダンジョンに挑みレオンハルト王子が残した最後の試練を乗り越え、ついに魔晶石を手に入れた。
戻ったレンは、セレスティアの工房へと向かった。
彼女は、レンが持ち帰った魔晶石を手にするとその瞳に職人としての光を宿らせた。
「待たせたな、レナード。お前の戦術を、この世界に刻む『作品』が完成した」
セレスティアが手渡したのは、一見すると何の変哲もない、美しい銀の短剣だった。しかし、その刀身には、まるで星の光を閉じ込めたかのような、神秘的な輝きが宿っていた。
「これが…『軌跡の刃』だ」
セレスティアは、その短剣に、レンのFPS知識を具現化する『魔法』を込めた。それは、この世界に存在するどの武器とも異なる、レンのFPS知識を物理的に具現化するための、「鍵」だった。
この短剣の真の力は、使い手が持つ魔力とリンクすることで発現する。
* 「残像」の視覚化: 刀身に魔力を流すと、レンが過去に培ったFPSでの「予測」や「エイムアシスト」といった概念が、魔法的な「残像」として視覚化される。敵が次に移動するであろうルートが光の線として浮かび上がったり、敵の弱点が光る点として表示されたりする。これにより、レンは頭の中の知識だけでなく、視覚的な情報として戦況を把握できるようになった。
* 「高速移動」の具現化: 刀身に魔力を集中させ、特定の方向に振り抜くと、レンの動きが一時的に加速し、まるで瞬間移動したかのような軌跡を描く。これは、FPSの「ダッシュ」や「ブリンク」といったアビリティを再現するもので、敵の射線を一瞬でかわしたり、一気に距離を詰めて奇襲を仕掛けたりすることが可能になった。
「軌跡の刃」は、レンのFPS戦術をこの世界の戦場で『チート』へと昇華させた。
ある日、村に侵入した賊を討伐するため、レンたちは出撃した。賊は、地形を活かして待ち伏せしており従来の戦術では正面から突入すれば全滅は免れない状況だった。
「レナード、どうするの? 敵は完璧に待ち伏せしてるわ」
セリナが焦りを滲ませながら尋ねた。レンは、静かに短剣に魔力を流した。すると、彼の視界には岩陰に潜む敵兵の動き、そして彼らが次に展開するであろうルートが、青い光の「残像」として浮かび上がった。
「見えた。敵の『索敵』範囲と、次の『ルート』が」
レンは、仲間たちに指示を出した。
「リシア! 右の岩山に向かって、魔法の『スモーク』を! セリナは、その煙幕を抜けて、左翼を突破しろ!」
レンの指示は、一見すると無謀なものに見えた。
しかし、彼らはレンの言葉を信じて行動した。リシアが魔法で煙幕を張ると、セリナは迷うことなく敵陣へと突撃した。
その隙に、レンは「高速移動」の能力を発動した。
彼の姿は一瞬にして消え、まるで光の「軌跡」を残すかのように敵陣の奥深くへと侵入した。彼の動きは、賊の指揮官には見切ることができなかった。
「馬鹿な…! いつ…どこから!?」
賊の指揮官が驚愕の声を上げた時には、レンの短剣が彼の喉元に突きつけられていた。
「チェックメイトだ」
レンは、冷静に告げた。
賊たちは、指揮官を失ったことで混乱し、あっという間に制圧された。
この戦いは、レンの「軌跡の刃」がもたらす圧倒的な力を見せつけた。彼の戦術は、もはや単なる「奇策」ではない。それは、この世界の誰も見たことがない未来を予測し、物理法則を書き換える「チート」だった。
レンは、セレスティアの言葉を思い出した。
「お前の頭の中にある『ゲーム』の法則を、この世界の法則に書き換えるためのものだ」
レンは、リシアという精神的な支え、セリナという武力的な支えに加え、セレスティアという物理的な支えを得た。
彼のFPS知識は、彼女の天才的な技術と融合し、この世界の常識を遥かに超えるチート級の力へと昇華していくのだった。




