表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/161

王との謁見

レオンハルト王子が仕掛けた完璧な謀略は、彼の失脚という誰もが予想しなかった結末を迎えた。


エレノアが流した偽情報、そしてレンが率いるアルバート家が仕掛けた奇策の前に、彼の完璧な戦略は打ち破られたのだ。

レオンハルトは、屈辱に耐えきれず自ら王都を離れ、姿を消した。

彼の敗北は、ただの敗北ではなかった。

それは、彼が信じ続けた「完璧な論理」が、レンの「予測不能な人間性」によって打ち破られたことを意味していた。


国王は、今回のことの経緯を静かに見つめていた。

彼の表情は、息子の敗北に対する失望でもレンの勝利に対する歓喜でもなく、深い思索に沈んでいた。


アークライト国王、エドワード・フォン・アークライト


彼は、かつて「戦場の獅子」と呼ばれた英雄であり、その容姿こそ今では白銀の髪と髭が混じるが、それでも王に相応しい威厳に満ちたものだった。

彼の瞳は、多くの戦いと政治的な駆け引きを見てきた深い知恵と、物事の全てを見透かすかのような鋭い光をいまだ湛えていた。


レオンハルトの失脚後、レンは王宮に呼び出された。

謁見の間は、重厚な静寂に包まれていた。


玉座に座る国王の威圧感は、戦場で幾多の敵を打ち破ったレオンハルトをも上回るものだった。


「レナード・アルバートよ。面を上げよ」


国王の声は、厳かで、玉座の間に響き渡った。

レンは、FPSの『イベントシーン』のように、緊張しながらも顔を上げた。


「この度は、私の息子、レオンハルトとの戦いでの勝利、見事であった。しかし、お前は王族に刃を向けた。その罪は、万死に値する」


国王の言葉に、謁見の間に居並ぶ貴族たちの間に緊張が走った。

彼らは、レンがどのような罰を受けるのか固唾をのんで見守っていた。だが、レンは動じなかった。

彼は、この言葉が、国王の真意を探るための『フェイント』だと理解していた。


「陛下、私はこの戦いを『王族への挑戦』とは考えておりません。これは、王国の未来をかけた一つの『演習』であると信じておりました」


レンの言葉に、国王はわずかに眉を上げた。

彼の言葉は、貴族たちの常識とはかけ離れたものだった。


「演習だと? 貴様は、レオンハルトの完璧な戦術をまるで子供の遊びのように打ち破った。あの完璧な戦略を、なぜお前は崩すことができたのだ?」


レンは、国王の瞳をまっすぐに見つめた。


「陛下、レオンハルト殿下の戦術は、『完璧』でした。

ですが、それは『効率』と『論理』を追求した結果に過ぎません。その完璧な戦術には『遊び心』がありませんでした。そして『人間』という、予測不能な要素が欠けていました」


レンの言葉は、国王の心を深く抉った。レオンハルトの完璧主義は、国王が最も危惧していたことだった。レオンハルトは、王国の安定のためならば人々の感情を無視し、無慈悲な決断を下すだろう。

国王は、息子が持つその冷酷な野望を誰よりも理解していた。


「遊び心だと? 国の命運をかけた戦に、遊び心など必要ない。貴様は、その非合理な戦術で私の息子を破滅へと追い込んだのだぞ。ましてや、エレノアという裏切り者を、なぜ仲間として受け入れた?」


国王の鋭い問いに、レンは迷うことなく答えた。


「陛下、私の知る世界では『チーム』こそが、勝利への鍵でした。エレノア殿下の知性は、この世界では理解されないかもしれませんが、私にとってはかけがえのない『仲間』です。私は『完璧な勝利』よりも、『仲間との絆』を選びました。それが、この戦いでの私の『真の強み』でした」


国王は、レンの言葉に深く頷く一方で、彼の言葉に潜む危険な可能性も察知していた。


(仲間との絆…か。それは、王国の秩序を揺るがすほどの力にもなり得る)


国王は、レンの持つカリスマ性、そして人々の心を惹きつける能力が、いずれ王家の支配に脅威となりうると感じていた。国王は、レンを警戒しつつも彼の力を利用することを決意した。


それはレンという未知の存在を自分の管理下に置くための巧妙な策略だった。


国王は、玉座から立ち上がりレンの前に進み出た。


「レナード・アルバートよ。お前の言葉、そしてお前の行動は、私に多くのことを教えてくれた。お前は、レオンハルトを『討伐』したのではない。王国の『毒』を浄化したのだ。故に、お前とアルバート家への全ての咎を許す」


国王の言葉に、謁見の間に安堵の空気が流れた。

レンは国王の深い慈悲に感謝し、頭を下げた。


「しかし、お前には新たな使命がある。レオンハルトの野望は、彼自身のプライドから生まれたものではない。彼は、この王国の腐敗を正すために、完璧な『秩序』を求めた。だが、その方法はあまりにも冷酷だった。お前は、彼のやり方とは違う『人間』を信じる方法でこの国を導くのだ」


彼の言葉は、国王が長年抱えてきたレオンハルトへの不安を打ち砕くものだった。国王は、レオンハルトが持つ冷酷な『合理性』ではなく、レンが持つ温かい『人間性』こそが、王国の未来を築く力であると確信した。


国王は、レンに王国の軍事顧問という重職を命じた。


それは、レオンハルトの失脚という事実を、王国の『新たな希望』へと昇華させるための国王の決断だった。


そして、この任命はレンというイレギュラーな存在を、王家の監視下に置くための巧妙な罠でもあった。


国王は、レンに王国の腐敗を正すための新たな『ミッション』を命じた。

しかし、それはレンを王国の政治という複雑な『戦場』へと引き込むための布石だった。国王は、レンが持つ「人間性」という力を利用し、同時にそれを制御しようと目論んでいた。


レンは、この戦いが単なる「ゲーム」の勝利ではないことを悟った。それは、この世界の『人間』と深く関わり、彼らと共に、より良い未来を築いていくという、彼の新たな『使命』の始まりだった。


彼は、国王の期待に応えるため、そして故郷のアルバート家と、かけがえのない仲間たちを守るため、新たな戦場へと歩み始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ