リシアの守護者(ガーディアン)
王都の貴族の夜会で、リシアは可憐な白いドレスをまとい、レナードの隣に立っていた。
彼女は、兄の功績を称える貴族たちに囲まれ、少しだけ誇らしげに微笑んでいた。
その中に、傲慢な視線を向ける男がいた。バートラム子爵。彼は、没落貴族の妹にすぎないリシアを侮辱することで、レナードに揺さぶりをかけようと目論んでいた。
「アルバート卿、あなたの妹君は、まるで辺境に咲く野花のように可憐だ。だが、王都の社交界では、その無垢さが時に足元を掬われることになりかねない。護衛役の兄上は、妹君をきちんと守ってさしあげねば」
その言葉は、まるで親切心から出た忠告のようだったが、その瞳は侮蔑に満ちていた。リシアは兄が自分のせいで屈辱を受けるのではないかと、不安で身がすくんだ。
だが、レンは動じなかった。
彼はFPSの『心理戦』のスキルを起動した。
「バートラム子爵、それはご心配なく。私は妹を、絶対に守り抜きますから」
レンは、優雅な笑みを浮かべながら、エレノアに探らせていたバートラム子爵の情報をさりげなく口にした。
「……それにしても、子爵が最近、お悩みのようだと耳にしました。どうやら、ご自身の領地の鉱山が、思わぬ『資金難』で採掘が難航しているとか。私に、何か『攻略法』をお話しいただければ、『解決策』を見つけられるかもしれませんよ?」
レンは、あくまで優雅に、だが確実に相手の弱点を突いた。バートラム子爵は、顔を青ざめさせた。彼の鉱山事業の失敗は、まだ誰にも知られていないはずの秘密だった。
さらにレンは、彼が王都の社交界で複数の女性に手を出しているという噂にも触れた。
「それに、女性たちからの『ヘイト』管理も大切ですよ、子爵。もし、複数の女性に『ターゲット』にされると、思わぬ『クロスファイア』を受けることになりますからね」
レンの言葉は、まるでシステムメッセージのようにバートラム子爵の頭に響いた。彼の秘密をすべて見透かされたような感覚に、子爵は耐えられなくなった。
「き、貴様……!」
バートラム子爵は、怒りに震えながらも、これ以上屈辱的な言葉を浴びるのを恐れ、その場から逃げるように去っていった。リシアは、何が起こったのか分からず、ただ呆然と兄を見つめていた。
「お兄様……?」
レンは、安堵したように微笑むリシアの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ、リシア。俺は、リシアが安心して過ごせるように常に周りの『地形』や『敵』を観察しているからね。リシアはただ俺の隣にいてくれればいい。俺が、どんな手を使っても絶対にに守り抜くから」
リシアは、兄の瞳に宿る、絶対的な『守護者』としての光を見た。その日、彼女は兄の傍がこの世界で最も安全な場所だと確信した。