最高の相棒(バディ)?
俺が騎士団の訓練を始めて数日。
訓練場での俺の指導は、騎士たちの間で急速に浸透していった。
「レナード様、この陣形で本当にいいんですか?」
「ああ、いい。互いの死角をカバーし合うんだ」
最初は反発していた騎士たちも、俺の戦術が実際に効果を発揮するのを目の当たりにし、次第に俺を信頼するようになっていく。
模擬戦では、俺の戦術を使ったチームが圧倒的な勝利を収めた。個々の実力は同じなのに、連携の差で結果が変わる。それを見た騎士たちは、驚きを隠せない様子だった。
「すごい...こんなに違うなんて」
「レナード様の戦術、本物だ」
(よし、手応えがある)
だが、王都の貴族たちは、そう簡単に俺の台頭を許すはずがなかった。
「レナード殿の戦術は、確かに目新しい。だが、所詮は辺境の小貴族の小細工。王都の騎士団を率いるには、いささか器が小さいのではないか?」
「陛下も、なぜあのような若造に、我が国の精鋭を任せたのか...」
陰口は日常茶飯事。まあ、予想通りだ。
だが、それだけでは終わらなかった。
ある日、訓練中に、俺の足元に突然、落とし穴が出現した。
「うお!?」
間一髪で避けた。もし落ちていれば、大怪我では済まなかっただろう。
(これは...明らかに仕掛けられたな)
別の日は、訓練用の剣に細工が施され、俺が振るった瞬間に刃が折れるという事故も起きた。
「レナード様!」
騎士たちが駆け寄ってくる。
「大丈夫だ、怪我はない」
(へぇ、こんな古典的な『罠』を仕掛けてくるとはな)
内心で笑っていた。
(まるで、ゲームのチュートリアルに出てくるような、分かりやすい敵だ)
俺は、FPSで培った『危機察知能力』と『状況判断力』で、彼らの陰謀をことごとく回避する。むしろ、彼らの仕掛けた罠を逆手に取り、彼らを出し抜くことを楽しんでいた。
例えば、落とし穴の件では、わざと別の貴族をその場所に誘導し、彼を落とし穴に嵌めてやった。もちろん、怪我をしない程度に、だが。
「うお!」
「おや、大丈夫ですか?こんなところに穴が...」
俺は心配そうな顔で近づく。内心ではニヤニヤだ。
「貴様、また何か企んでいるな」
セリナが、隣で呆れたように呟く。
彼女は、俺の身を案じ、貴族社会の危険性を忠告してくれていた。その言葉には、態度とは裏腹に俺を心配する気持ちが込められているのが分かった。
「貴族社会は、戦場よりも陰湿だ。正面から戦うだけでは、いつか足元を掬われるぞ」
セリナの声は真剣だった。
「分かってるって」
俺はいたずらっ子ぽく笑う。
「だから、俺は『裏取り』してるんだよ。敵の意図を読んで、先手を打つ。これはFPSの基本だ」
「ウラトリ?また奇妙な言葉を...」
セリナは、俺の言葉に眉をひそめるが、その表情には、どこか納得したような色も浮かんでいた。彼女は、俺の『裏取り』戦術に、次第に興味を抱き始めているようだった。
(この姫騎士、意外と学習能力高いな)
ある日、俺を陥れようと画策していた貴族の一人が、訓練場に現れた。
彼は、訓練方法に難癖をつけ騎士たちを扇動しようとする。
だが、騎士たちはすでに俺の戦術の有効性を理解している。彼の言葉に耳を傾ける者はいなかった。
「レナード殿。貴殿の訓練は、あまりにも危険ではないか?騎士たちに無謀なことをさせていると聞くが」
俺に詰め寄ってくる。
よく見ると、その貴族の背後にセリナが立っていた。彼女は俺の動きをじっと見つめている。
(よし、ここで決めるか)
「危険?いえいえ、これは危機回避訓練、リスクマネジメントです」
俺は穏やかに答える。
「戦場では、常に危険が伴います。それを回避し、勝利を掴むための訓練です」
俺は貴族の言葉を軽く受け流し、そして、彼の耳元で囁いた。
「それに、公爵様。先日、訓練場に仕掛けられていた『罠』。あれは、誰の仕業でしたかね?」
貴族の顔色が変わる。
彼はまさか俺がそのことを知っているとは思っていなかったのだろう。
さらに畳みかける。
「王都の貴族社会も、なかなか『デスゲーム』ですね」
ニヤリと笑って公爵の目を見つめる。
「ですが私は『チート』持ちなんで、ご心配なく」
わざと貴族には理解不能な言葉で伝え、貴族の肩をポンと叩き騎士たちの訓練へと戻った。公爵は呪いを受けたようにその場に立ち尽くし、顔を真っ青にしていた。
(よし、これで当分は大人しくなるだろう)
セリナはその一部始終を見ていた。
彼女の口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
「貴様...本当に、面白い男だな」
セリナの言葉に、俺は心の中でガッツポーズをした。
(先日の模擬戦のこともあってセリナのことは気になっていたからな。これで少しはセリナとの『信頼度』も上がったかな...)
王都での『政治戦』も、なかなかやりがいがある。
数週間も指導すると、騎士団は劇的な変化を見せ始めた。
彼らは、もはや個々の武勇に頼るだけの集団ではない。互いに連携し、カバーし合い、戦況を読みながら動く、まさに『チーム』へと変貌を遂げていた。訓練の質は飛躍的に向上し、騎士たちの士気も最高潮に達している。
「レナード殿。貴殿のおかげで、我が騎士団は生まれ変わりました。感謝いたします」
騎士団長が深々と頭を下げる。
彼の目には、俺への尊敬と確かな信頼が宿っていた。
最初は反発していた騎士たちも、今では俺の指示に迷いなく従う。彼らはこの戦術が、世界の常識を遥かに超えるものであることを理解したのだ。
「いやいや、これもみんなの努力の賜物ですよ」
俺は謙遜しながらも内心では優越感を感じていた。
だがここで顔に出してはいけない。
「俺は、ちょっと『コーチング』しただけですから」
(これで王都の騎士団は、俺の『最強のチーム』としてどんな敵にも立ち向かえるだろう)
「それにしても、貴様は本当に奇妙な言葉を使うな」
セリナが呆れたように俺を見ている。
彼女は、俺の隣で騎士たちの訓練の様子を眺めていた。
俺が騎士たちに指示を出すたびに、彼女は首を傾げ、時には「意味が分からぬ!」とツッコミを入れてくる。
だが、その表情はどこか楽しそうだった。
「仕方ないだろ。俺の故郷の言葉だからな」
俺は笑いながら答える。
「でも、お前も少しは慣れてきたんじゃないか?『リロード』とか、『グレネード』とか」
「ふん!」
セリナが顔を背ける。
「貴様の奇妙な言葉など、覚える気はない!だが...」
彼女が少し恥ずかしそうに続ける。
「その『クリアリング』とやらで、敵の不意を突くのは、確かに有効な戦術だと認めよう」
セリナは、顔を赤くしながらも俺の戦術を認める言葉を口にした。
彼女の意外なツンデレ反応に、俺は思わず笑みがこぼれる。
(可愛いな、この姫騎士)
王都での政治劇も、FPSの『チームデスマッチ』のようなものだと、俺は捉え始めていた。貴族たちの陰謀を『敵』と見なし、俺のFPS知識を駆使して彼らを攻略していく。
(王都は、俺にとっての新たな戦場、マップだ)
俺の心の中で新たなゲームのロードが完了した。
(そして、この姫騎士は、最高の相棒、バディになるかもしれない)
次なるステージは王都の貴族社会。
そして、その隣にはツンデレ姫騎士の姿があった。
彼女との間に芽生え始めたかすかな信頼と、そして、もしかしたら、それ以上の感情。
「なあ、セリナ」
「何だ?」
「この王都での戦い、一緒に乗り越えてくれるか?」
俺の問いに、セリナは少し驚いたような表情を見せた。
そして、小さく頷く。
「...ああ。貴様一人ではどうなるか心配だからな」
「悪いな…いてくれると助かる」
俺は心から言った。
セリナは顔を赤くして、プイっと横を向いた。
「勘違いするな!貴様が死んだら、誰が私を故郷に返してくれるのだ!」
「はいはい、分かってるよ」
俺は笑いながら答える。
この『ゲーム』は、まだまだ始まったばかりだ。
でも、今回は一人じゃない。
最高のパートナーが、俺の隣にいてくれる。
(前世では失った仲間との絆。今度こそ、大切にするんだ)
俺は心の中で誓った。
そして、新たな戦いへと歩み始めた。