『裏取り』成功
「よし、次は『フラッシュバン』の訓練だ!」
俺がそう言うと、騎士たちは首を傾げた。セリナも、呆れたように俺を見ている。
「フラッシュバン? また貴様の故郷の奇妙な言葉か。一体何をするのだ?」
「ああ、これはな、敵の視界を奪うためのものだ。例えば、こうやって、光魔法を応用して、一瞬だけ強烈な閃光を放つ。敵が目を眩ませている間に、突入して一気に殲滅するんだ!」
俺は、光魔法の適性を持つ騎士に、閃光弾の原理を説明する。騎士は、半信半疑ながらも、言われた通りに光魔法を放つ。訓練場に、まばゆい閃光が弾けた。騎士たちは、目を押さえ、よろめく。
「な、なんだこれは! 目が、目がぁ!」
「これが『フラッシュバン』だ。どうだ、効果は絶大だろう? 次は『グレネード』だ。爆裂魔法を応用して、敵を物陰から炙り出すんだ!」
俺は、次々とFPS用語を連発し、騎士たちに新たな戦術を叩き込んでいく。騎士たちは、最初は困惑していたが、その効果を目の当たりにするうちに、次第にレンの指示に従うようになっていく。セリナは、そんな俺の様子を、呆れたように見つめていた。
「貴様は、本当に……。この世界の常識を、ことごとく破壊していくな」
そんな中、騎士団の反発を抑えるため、俺はセリナと模擬戦を行うことを提案した。
「ここで、模擬戦をやってみたいと思う。相手は護衛として随行しているセリナだ。彼女の戦闘能力は俺より遥かに高い。どうやって勝つかをみてもらいたい」
セリナは、プライドから受けて立つ。その目は本気で勝ちに来ていることが伝わるほど燃えている。
騎士達はセリナの美しさに気を取られ実力を測れないでいた。そのため余興程度と受け取ったようだった。その周囲の雰囲気がセリナの怒りの火にさらに油を注ぐ。
「さあ、セリナ。俺の『FPS戦術』、お見せしよう」
俺は、ニヤリと笑った。セリナは、その笑みに、どこか不吉な予感を覚えているようだった。
セリナは、火魔法を纏った剣を構え、猛然と俺に襲いかかってきた。その速度は、山賊との戦いで見た時よりもさらに増している。その圧倒的な速度に騎士たちは息を呑み、やがて動揺が広がる。
「なあ、あれって、もしかして…」
「ああ、違いない。確か捕虜になったと聞いたが…」
セリナの正体がわかり騎士達の目の色が変わる。
彼らは、セリナの圧倒的な武力を知っている。そして、剣も魔法も使えない俺が、彼女に勝てるはずがないと信じている。だが、彼らは知らなかった。俺が、この世界の誰よりも、セリナという「ボスキャラ」の攻略法を知っていることを。
セリナの動きは、確かに速い。だが、その動きには、ある種のパターンがある。彼女は、常に最短距離で俺に詰め寄ろうとする。そして、攻撃は常に直線的だ。FPSで言えば、ただ突っ込んでくるだけの『脳筋プレイヤー』だ。
「ガロウ! 騎士たちに指示を出せ! 『デコイ』になってもらうぞ!」
騎士たちに指示を出す。騎士たちは、俺の言葉に困惑しながらも、ガロウの指示でセリナの周囲を囲むように動き始めた。セリナは、騎士たちの動きに一瞬戸惑う。その隙を、俺は見逃さなかった。
「セリナ! こっちだ!」
わざとらしく声を上げ、セリナの注意を引く。セリナは声に反応し、猛然と俺に突進してきた。その動きは、まさに『突撃兵』。狙い通りだ。
セリナの攻撃を紙一重でかわし、訓練場の障害物の陰に隠れる。セリナは、俺を追いかけ障害物の陰に飛び込んできた。その瞬間、障害物の反対側へと回り込み、セリナの背後を取る。
「なっ……!?」
セリナは驚き振り返ろうとする。だが、その動きは、俺の反射神経には及ばない。セリナの背中に魔法弓の先端を突きつけた。
「『裏取り』成功、姫騎士殿」
セリナは悔しそうに唇を噛んだ。彼女のプライドは、再びズタズタに引き裂かれただろう。騎士たちは、その光景に呆然としていた。まさか、あの姫騎士が、剣も魔法も使わずにこんな形で敗北するとは。
「貴様……! そのような小細工で、私に勝ったとでも言うのか!」
セリナは、怒りに震える声で叫ぶ。だが、俺は冷静に答えた。
「これは小細工じゃない。戦術だ。そして、戦術は、時に個人の武勇を凌駕する。お前は、俺の『FPS戦術』の前に、敗北したんだ」
セリナは、俺の言葉に反論できない。彼女は、俺の実力を認めざるを得なかった。そして敗戦したときから何も成長していない自分自身のことが一番許せなかった。
「……覚えておくぞ、レナード・アルバート。貴様のその奇妙な戦い方、必ずや見切ってやる」
セリナは、そう言い残し、訓練場を後にした。
(利用してすまない、セリナ。だが、これから俺の『パートナー』として戦ってもらうためには根本的に考えを変えてもらう必要があるんだ…)
騎士たちは、俺を見る目が明らかに変わっていた。彼らは、俺の戦術が、決して絵空事ではないことを理解したのだ。そして、騎士団長もまた、俺に深々と頭を下げた。
「レナード殿。貴殿の戦術、まことに見事であった。我が騎士団は、貴殿の指導に従い、必ずや最強の騎士団となってみせましょう」
俺は、騎士団長の言葉に満足げに頷いた。これで、王都の騎士団を、俺の思い通りに動かすことができる。新たな「ゲーム」の準備は、着々と進んでいた。