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空への意志

 絆の証明を終えたレンたちは、再びオルフィナと対面していた。

部屋の空気は先ほどまでの緊張感とは違い、どこか厳粛で神聖な雰囲気に包まれている。オルフィナの表情は満足そうだったが、その瞳には新たな探究心が宿っていた。


『あなたたちの絆は確かに本物でした』


オルフィナが穏やかに微笑む。


『ここまでで皆さんは個々の資質も絆も十分にあることを証明してきました。ですが...』


オルフィナの声に厳粛さが込められた。その表情が急に真剣になる。


「でも?」


カティアが首をかしげた。


『古代技術を託す前に、最も重要な問いを発しなければなりません』


オルフィナは彼らを一人ずつゆっくりと見回した。その視線には深い洞察力が宿っている。


「最も重要な問い...」


セレスティアが緊張したようにつぶやいた。


『なぜあなたたちは空を飛び、そして強大な火力を求めるのですか?』


その問いかけに、レンたちは戸惑った。予想していた質問とは少し違っている。


「なぜって...」


レンがが言葉に詰まる。


「移動手段として...じゃダメなんですか?」


リシアが不安そうに聞いた。


『単なる移動手段として空を飛びたいのですか?戦いを有利にするために強力な武器が欲しいだけなのですか?それとも、別の理由があるのですか?』


「深い質問だな」


アークヴァルドが考え込んだ。


 オルフィナは手をかざすと、空中に巨大な映像が浮かび上がった。そこには古代の空中戦艦が映し出されていた。美しい流線型の船体に強力な砲台を複数備え、雲海を悠然と航行している姿は圧倒的な迫力があった。


「すごい...」


セレスティアが技術者として感嘆の声を漏らす。


「あんな設計、見たことない」


『これが私の全盛期に作り出した究極の戦艦です』


その威容は想像を絶していた。雷光の砲撃で山をも砕き、嵐を突き抜けて空を駆け抜ける姿は、まさに空の王者と呼ぶにふさわしい。


『しかし』


オルフィナの声が重くなった。映像が変わり、今度はその戦艦が街を攻撃する場面が映し出された。映像には、砲撃によって破壊される建物、逃げ惑う人々、炎に包まれる大地が映っていた。美しかった街が一瞬で廃墟と化していく。


「ひどい...」


イリヤが胸を押さえた。


『強大すぎる力は、使う者の心次第で恐ろしい破壊をもたらします』


「こんなことが...」


アークヴァルドが眉をひそめた。


『私の技術は飛行術と砲術、両方とも強力です。間違った目的で使われれば、多くの無辜の民が犠牲となるでしょう。古代において私はそれを止めることができませんでした』


オルフィナの表情が厳しくなった。その瞳には深い後悔の色が浮かんでいる。


「オルフィナ様...」


レンが同情するような眼差しで見つめた。


『だからこそ問います。あなたたちの空への想い、そして力への渇望は、果たして純粋なものなのですか?』


 重い沈黙が流れた。

確かに、彼らがガンシップを求める理由は戦闘能力の向上だ。でも、それだけではないはずだ。


「俺は——」


レンが口を開こうとした時、オルフィナが手を上げた。


『待ってください。まずは、あなたたちそれぞれの心の奥底を見せてもらいましょう』


オルフィナが魔法を唱えると、彼らの周りに光の球体が現れた。美しく輝く球体が一人一人の前に浮かんでいる。


『この光球は、あなたたちの真の想いを映し出します。嘘偽りは通用しません』


 最初に光球がリシアを包んだ。

球体の中に映し出されたのは——遠い戦地で傷ついた兵士たちを治療するリシアの姿だった。彼女は必死に光魔法で治療を施している。


「私は...」リシアが真剣な表情で語り始めた。


「空を飛んで、戦場で苦しんでいる人たちを助けたいんです」


リシアの声には今まで聞いたことがないような強い意志が込められていた。


「でも、戦場は危険です。地上から近づけば、私も撃たれてしまいます」


映像では、砲撃戦の中を地上で移動しようとして、敵の攻撃を受けて倒れるリシアの姿があった。


「うう...」リシア自身が映像を見て顔をしかめた。


「空中からなら安全に戦場に近づけます。そして、強い火力があれば敵を退けて、安全に治療活動ができます」


続く映像では、空中から敵を制圧し、降下して負傷者を治療するリシアの姿が映っていた。


「武器は人を傷つけるためではなく、人を守るために使いたいんです」


「リシア...」


レンは妹の成長に感動していた。


 次にエレノアが光に包まれた。

映像に映ったのは、領地を襲う巨大な魔物の群れと戦うエレノアの姿だった。地上の兵士たちでは太刀打ちできない巨大な敵に立ち向かっている。


「私は領主として、領民たちを脅威から守らなければなりません」


エレノアは貴族らしい気品を保ちながら冷静に語った。


「でも、地上だけの戦力では限界があります。空からの魔物、巨大すぎる敵——」


映像では、地上部隊だけでは対処しきれない巨大な飛竜に、空中戦艦で立ち向かうエレノアの姿があった。


「さすがエレノア」


セレスティアが感心した。


「空中戦力と強力な火力があれば、これまで諦めるしかなかった脅威にも対抗できます」


砲撃で飛竜を撃退し、領民たちを守り抜く場面が続いた。その表情には確かな責任感が宿っている。


「力は、守るべきもののために使うのです」


 セレスティアの番になった。

映像に映ったのは、巨大な魔獣と戦う冒険者たちを支援するセレスティアの姿だった。彼女が作った特殊な装備で、冒険者たちが魔獣と対峙している。


「俺は...」セレスティアが珍しく感情を込めて話した。


「最高の武器を作りたい。でも、それは破壊のためじゃない」


「セレスティア?」


リシアが驚いた表情になった。いつもの無愛想な彼女とは違う。


「俺の作った武器で、もっと多くの人を救えるはずだ」


映像では、セレスティアが作った特殊弾薬を使って、魔獣を撃退(殺すのではなく追い払う)している場面があった。


「追い払う武器...」


アークヴァルドが興味深そうに見つめた。


「空中工房なら、地上では不可能な精密加工ができる。無重力環境での鍛造、雲の魔力を使った冷却——」


続く場面では、空中でしか作れない特殊な「非致命性武器」を製作し、それによって敵を無力化しながら民間人を守る様子が映っていた。


「真の技術は、生かすためにあるんだ」


「すごい発想です」


エレノアが感嘆した。


 イリヤの光球には、暗雲に覆われた戦場を照らすイリヤの姿が映っていた。


「イリヤは、戦いで迷子になった人たちを照らしたいです!」


イリヤがいつもの明るさで、でも真剣に話した。


「戦争では、たくさんの人が道に迷います。兵隊さんも、逃げている人たちも」


映像では、戦場の混乱で行方不明になった兵士や避難民を、空から光魔法で照らして安全な場所に導くイリヤの姿があった。


「素晴らしい使い方ね」


エレノアが微笑んだ。


「でも、悪い人たちも光を見てやってきます。だから、その時は——」


続く場面では、避難民を狙う盗賊団に対し、空中から制圧砲撃を行って撃退するイリヤの姿が映っていた。


「みんなを守るために、悪い人には光の雷を落とします!」


「イリヤらしい考え方です」


カティアが苦笑いした。


 カティアの映像には、仲間を庇って空中戦を繰り広げるカティアの姿があった。


「私は...」カティアが拳を握りしめた。


「どこでも仲間を守りたいです」


「カティア...」


「地上でも、空でも、海でも——どんな場所でも」


映像では、飛竜の大群に襲われた商船を、空中戦艦で救出するカティアの姿があった。


「でも、ただ戦うんじゃない」


続く場面では、威嚇砲撃で敵を怯ませ、戦闘を避けながら人々を救出する様子が映っていた。


「最小限の武力で最大限の効果——それが私の戦い方です」


「賢明な判断だ」


アークヴァルドが頷いた。


 アークヴァルドの映像には、各地の紛争を調停するアークヴァルドの姿が映っていた。


「私は...」アークヴァルドが静かに語った。


「空から世界の平和を守りたい」


「平和を...」イリヤが感動したような表情になった。


「長年戦ってきたが、多くの戦いは避けられるものでした」


映像では、対立する二つの軍の間に空中戦艦で現れ、圧倒的な火力を見せつけることで戦争を回避させる場面があった。


「戦わずして勝つ...」


エレノアが感心した。


「真の強さは、戦わずして勝つことです。圧倒的な力があれば、多くの血を流すことなく平和を守れるはずです」



 全員の想いを聞き終えると、オルフィナは深く頷いた。


『なるほど...』


オルフィナの表情が穏やかになった。


『あなたたちの力への渇望に、邪な心は感じられません』


「オルフィナ様...」


オルフィナの言葉を聞いてレンはほっとした。


『皆、他の誰かを守るために力を求めています』


オルフィナは満足そうに微笑んだ。


『リシアは救うための力を、エレノアは守るための力を、セレスティアは生かすための力を』


オルフィナは彼ら一人一人を見つめた。


『イリヤは導くための力を、カティアは護るための力を、アークヴァルドは平和のための力を』


そして、最後にレンを見つめた。


『そして、レナード——あなたはどうですか?』


仲間たちを見回してから、ゆっくりと答えた。


「俺は...」レンが少し考えてから続けた。


「みんなの正義を実現するために、空と火力の両方が欲しい」


「みんなの正義を?」


オルフィナが興味深そうに聞いた。


「そうです。一人一人の想いは正しい。でも、一人の力では限界がある」


レンの想いが光球に映し出される。

そこには、ガンシップに乗ったレンたちが世界各地を飛び回る姿があった。


「災害救助、魔物退治、盗賊討伐、戦争調停——空を飛べて、強力な火力があれば、あらゆる場面で人々を助けられる」


映像では、様々な危機に対して最適な対応を取るレナードたちの姿が映し出されていた。


「でも、何より大切なのは——」


「力を持つ責任を忘れないこと。常に『なぜ戦うのか』を問い続けること。それが俺の空への想いです」


「お兄様...」リシアが感動した表情でレンを見つめた。



『...見事です』


オルフィナは深く感動したような表情を浮かべた。


『あなたたちの想いは、確かに純粋なものでした』


オルフィナは空中に新たな魔法陣を描き始めた。複雑で美しい文様が空中に輝いている。


『自らのためではなく、他者のために力を求める——それこそが真の戦士の資格です』


魔法陣が輝きを増していく。


『よって、私はあなたたちに飛行技術と砲撃技術の両方を託したいと思っています』


「本当ですか!」リシアが飛び跳ねて喜んだ。


「やったあ!」イリヤも手をたたいて喜んでいる。


「ついに...」エレノアも満足そうに微笑んだ。


『ただし』


オルフィナの表情が再び厳しくなった。


「ただし?」カティアが緊張した。


『最後の試練が残っています』


「最後の試練?」レンが聞き返した。


『空への憧れと、力への責任感の両立を問うものです』


 新たな試練への導入に、彼らの表情が引き締まった。

しかし、同時に確かな手応えも感じていた。自分たちの想いが認められたという安心感と、仲間たちとの絆がより深まったという実感があった。


最後の試練が何であれ、彼らなら乗り越えられるだろう。

そんな確信を抱きながら、次なる挑戦を待っていた。

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