絆の証明(後編)
決断を下した瞬間、霧が少し薄くなり、光の橋の上にアークヴァルドの姿が現れた。
彼は深呼吸をしてから、慎重に第一歩を踏み出した。橋が激しく揺れる。左右にぐらぐらと振れて、まるで強風に煽られた吊り橋のようだった。
「うわ!」
アークヴァルドが思わず声を上げる。
「落ち着いて!ゆっくりで大丈夫です!」
エレノアが冷静に指示を出す。
「そうだ、急ぐ必要はない」
レンも声をかけた。
アークヴァルドは足を踏ん張って、バランスを取り直した。
「右に少し寄って!そこに安定したポイントがあるから!」
セレスティアが橋の構造を読み取って、的確なアドバイスを送る。
「見えました」
アークヴァルドが右足を慎重に移動させる。確かに、そこは他の部分よりも光が強く、安定しているようだった。
「その調子です!」
イリヤが明るい声で励ます。
「アークヴァルドさんなら絶対にできます!」
アークヴァルドは仲間たちの声を完全に信じて進んでいく。橋は相変わらず揺れるが、彼の心が安定しているせいか、崩壊するほどではない。
「今度は左斜め前に!」
エレノアが次の指示を出す。
「足元の光る線に沿って歩くんだよ」
セレスティアが補足する。
「もう少し!あと三歩です!」
カティアが距離を測って教える。
ついにアークヴァルドが水晶球に到達した。
「着いた!」
「やった!」
リシアが喜びの声を上げる。
アークヴァルドは水晶球に手を置き、魔力を注ぎ込む。暗黒魔法の力が水晶球に流れ込むと、球体が深い紫の光を放った。
「成功!戻ってきて!」
イリヤの嬉しそうな声が響く。
復路も同様に、仲間たちの声に導かれながら慎重に進む。アークヴァルドは同じ道を戻り、無事に自分の足場に帰還した。
「お疲れさまでした!」
リシアが称賛の声をかける。
「ああ、皆さんのおかげです」
アークヴァルドの声には安堵と満足感が込められていた。
「橋の感覚は掴めました」
次はエレノアが挑戦した。霧の中から彼女の声が響く。
「エレノア、足元に気を付けて」
レンが声をかける。
「ありがとうございます、レナード様」
エレノアの声は落ち着いていた。
「皆さんを信じています」
エレノアは冷静に橋を進んでいく。分析力のある彼女は、仲間たちのアドバイスを瞬時に理解し、効率的に進んだ。アークヴァルドの経験も活かして、より安全なルートを選択する。
「エレノア、右側の光る部分を踏んで」
セレスティアが指示する。
「分かりました」
エレノアが的確に反応する。
彼女の情報魔法が水晶球に注ぎ込まれると、球体が青白い光を放った。
続いてセレスティアが挑戦する。
「セレスティア、君らしく行けばいい」
レンが励ます。
「当たり前だ」
セレスティアがいつもの無愛想な口調で答えるが、その声には仲間への信頼が込められていた。
職人らしい慎重さで橋を渡り、技術魔法を水晶球に注ぎ込む。球体がメタリックな光を放った。
次にリシアが挑戦した。
「リシア、絶対にできる」
レンが声をかける。
「はい、お兄様、リシアは頑張ります!」
リシアが力強く答える。
「でも慎重にね」
エレノアが心配そうに付け加える。
「はい、慎重にですね」
リシアが苦笑いした。
彼女の光の魔法が注ぎ込まれると、水晶球が黄金の炎のような光を放った。
次にカティアが挑戦した。
「カティア、君なら絶対にできる」
レンが声をかける。
「ええ、ま、任せてください!」
カティアが力強く答える。
彼女の禁呪魔法が注ぎ込まれると、水晶球が紫の炎のよう放った。
イリヤの番になった。
「イリヤ、神様が守ってくれるはずだ」
「はい!皆さんも一緒に祈っていてください!」
イリヤが明るく答える。
「もちろんです」
エレノアが答える。
イリヤの神聖魔法が水晶球に注ぎ込まれると、球体が温かな金色の光を放った。
それぞれが仲間たちの声を完全に信頼し、残された者たちも全力で支援する。誰一人として疑うことなく、お互いを信じ合って——。
最後はレンの番だった。
「レナード、準備はいいか?」
アークヴァルドが問いかける。
「ああ」
レンは深呼吸して前を見つめる。
「みんなを信じてる」
「お兄様」リシアが不安そうに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、リシア。みんながいるから」
レンは光の橋に足を踏み出した。
橋が揺れる。思った以上に不安定だ。でも、怖くない。仲間たちがいるから。
「レナード様、左にもう少し!」
イリヤの声が道しるべとなる。
「そこで一度止まって、呼吸を整えて」
エレノアが的確な指示をくれる。
「橋の中央部分は特に不安定だ。端の方を歩け」
セレスティアが技術的なアドバイスをくれる。
「大丈夫です、レナード!私たちがついてます!」
カティアの力強い声が背中を押してくれる。
「お兄様、私たちを信じて進んでください」
リシアの声に、レンは心が温かくなった。
「もう少しです。あなたなら必ずできます」
アークヴァルドの信頼の声が聞こえる。
仲間たちの声に導かれ、レンは水晶球に到達した。
「着いた」
「やったあ!」
リシアの喜びの声が響く。
レンは最後の魔力——指揮魔法を注ぎ込んだ。すると、水晶球が虹色に輝いた。七人の魔法が調和して、美しいハーモニーを奏でているようだった。
『見事です』
オルフィナの声と共に、霧が晴れて皆の姿が見えるようになった。レン達は互いを見つめ合い、達成感を共有した。みんなの顔に安堵と喜びが浮かんでいる。
『あなたたちは真の絆を証明しました』
「やったな、みんな」レンが笑顔を見せる。
「お疲れさまでした」エレノアが上品に微笑む。
「けっこう怖かったぞ」セレスティアが珍しく素直に感想を述べる。
「でも、みんながいたから大丈夫でした」カティアが照れ笑いした。
「本当に素晴らしいチームワークでした」イリヤが手をぱちぱちと叩く。
「お兄様、すごかったです!」リシアが嬉しそうに言った。
「皆さんのおかげです」アークヴァルドが深く頭を下げた。
『一人として疑うことなく、完全に仲間を信頼した。これこそが真のチームワークです』
オルフィナの声には満足感が込められていた。
『この試練を通じて、あなたたちの絆はより一層深まったでしょう』
確かにその通りだった。言葉だけに頼って相手を支え、相手を完全に信頼する——それは想像以上に深い結束を生み出していた。
「本当に...心から信じ合えてる感じがします」
リシアが感慨深げにつぶやいた。
「ああ」レンも同感だった。
「こんなに深く仲間を信頼できるなんて」
『では、次の段階に進むとしましょう』
オルフィナは満足そうに微笑んだ。
『次に問うのは——なぜあなたたちは空を飛びたいのか、です』
新たな問いかけに、レン達は顔を見合わせた。技術を手に入れるためにここまで進んできた一同は
やっと最後の関門まで進む事ができたのだった。