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絆の証明(前編)

 オルフィナの宣言と共に、部屋の様子が大きく変わった。

光が渦を巻くように集まり、床や壁が溶けるように消えていく。レン達の足元に感じていた確かな石の感触が失われ、ふわりと浮遊感に包まれた。


「うわあ!」


リシアが小さく声を上げる。気が付くと、彼らは六つの浮遊する石の足場の上にいた。それぞれの足場は人一人が立てるほどの大きさで、古代文字が刻まれている。足場同士は細い光の橋で繋がれているが、その橋は非常に不安定で、見ているだけで揺れているのが分かった。


「これは...」


 エレノアが冷静に状況を分析しようとする。

足場の中央には、巨大な水晶球が宙に浮いていた。美しく透明な球体で、内部には七色の光が渦巻いている。まるで生きているかのように、光がゆっくりと脈動していた。


「綺麗ですね」


イリヤが感嘆の声を上げる。


「でも、何か不穏な感じもしますね」


カティアが警戒心を露わにした。

セレスティアが自分の足場の端まで行って、光の橋を観察している。


「この橋、魔法で作られてるけど...かなり不安定だぞ」


「やっぱりか」


レンがため息をついた。


『これが《絆の証明》の試練です』


オルフィナの声が空間に響く。普通の口調だが、その中に込められた厳格さが伝わってくる。


『あの水晶球に、あなたたち六人の魔力を同時に注ぎ込むのですが——』


レナードは自分の足場から水晶球を見つめた。距離はそれほど遠くない。普通に歩けば30秒もかからない距離だろう。しかし、この不安定な足場と光の橋では話が違う。


『ただし、条件があります』


オルフィナの声に厳しさが込められた。


『一人でも足場から落ちれば、全員が最初からやり直しです』


「全員が...?」


リシアが不安そうにつぶやいた。


『そうです。さらに、光の橋は一人しか通れません。二人同時に乗れば崩壊します』


「つまり」


アークヴァルドが理解した。


「一人ずつ順番に中央へ向かい、魔力を注ぎ込まなければならないということですね」


『その通りです。でも、最も重要なのはこれです』


オルフィナが手をかざすと、足場の周りに霧が立ち込め始めた。最初は薄い霧だったが、みるみるうちに濃くなっていく。


『各自の足場にいる間は、あなたたちの視界は封じられます』


「視界が...?」


セレスティアが驚いた。


確かに、霧が濃くなると仲間たちの姿が見えなくなった。声は聞こえるが、姿は全く見えない。まるで白い壁に囲まれたような感覚だった。


「お兄様?」


リシアの不安そうな声が聞こえる。


「ここにいるよ、リシア」


レンが答える。


『光の橋を渡っている者の姿だけは見えますが...つまり——』


オルフィナの言葉に、レナードは理解した。


『橋を渡る者は、仲間の声だけを頼りに進まなければなりません。そして仲間たちは、その者を完全に信頼して導かなければなりません』


これはなかなかに大変だな…。レンは息を呑んだ。

橋を渡る者は実質的に目隠し状態で不安定な道を進み、残された仲間たちは姿の見えない相手を言葉だけで支える必要がある。しかも一人でも失敗すれば全員やり直し。


「これは...厳しいですね」


カティアがつぶやいた。


『さらに、制限時間は半刻(約15分)です。一人当たり2分半しかありません』


「2分半で橋を渡って魔力を注ぎ込み、戻ってくる...」


エレノアの声が霧の向こうから聞こえてくる。


「かなりタイトなスケジュールね」


『最後に——』


オルフィナの声が一段と厳しくなった。


『この試練では、あなたたちの心の状態が直接橋の安定性に影響します。疑心や不安があれば、橋はより激しく揺れ、崩壊の危険が高まります』


「心の状態が...?」


イリヤが驚いた。

つまり、完全な信頼関係がなければクリアできない試練ということか。技術や能力だけでなく、精神的な結束が求められている。


『では、始めましょう。誰から行くか決めてください』



 霧の中でレン達は声だけで相談した。お互いの姿は見えないが、それぞれの位置や状況は声で把握できる。


「順番はどうする?」


レンが口火を切った。


「慎重に考えなければ......」


エレノアの冷静な声が響く。


「一人でも失敗すれば全員やり直しだから」


「俺が最初に行こう」


アークヴァルドの落ち着いた声が聞こえた。


「年長者として、道を示すのが務めだ」


「でも、アークヴァルドさん...」


リシアが心配そうに言う。


「危険じゃないですか?」


「心配してくれてありがとう、リシア様」


アークヴァルドの声に温かみがあった。


「でも、大丈夫です。皆さんを信じていますから」


「アークヴァルドの魔力は安定してますから成功率は高いと思います」


カティアが同意した。


「最初に成功例を作るのはいいアイデアだ」


「私も賛成です」


イリヤの声が続く。


「アークヴァルドさんなら安心です」


セレスティアも技術的な観点から意見を述べた。


「橋の構造を最初に確認してもらえれば、後の人たちにアドバイスできるしな」


「よし、じゃあアークヴァルドから」


レンが決断を下した。


「みんな、全力でサポートしよう」


「分かりました」


エレノアが答える。


「私が進路の分析を担当します」


「俺は橋の安定性を見る」


セレスティアが続いた。


「私は励ましの声かけを」


イリヤが名乗り出る。


「私も応援する」


カティアが力強く言った。


「私は...お兄様と一緒に全体を見守ります」


リシアが少し不安そうに言った。


「みんな、頼みます」


アークヴァルドの声に決意が込められていた。

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