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異世界リロード 〜没落貴族ですが、現代FPS知識で戦場を無双します〜  作者: 雪消無
第7章:魔族領域の秘密と、転生者の遺産
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絆の力

「最後の勝負だ、アークヴァルド」


ルシファードが魔法剣を構え直した瞬間、周囲の空気が張り詰めた。


アークヴァルドの全身から放たれる黒いオーラは、さらに濃度を増し、周囲の石壁にひび割れが走る。その圧力は、レンたちの心を重く圧しつけた。


「ふん、数が多ければ勝てると思うのか?」


アークヴァルドは、嘲笑を浮かべた。彼の瞳には、仲間を信じるレンたちの絆が、ただの弱々しい感傷にしか映っていなかった。


「純血魔族の力を甘く見るな」


レンは、仲間たちの配置を素早く確認した。リシアとイリヤが左右に散開し、エレノアが後方で治癒魔法の準備をしている。そして、ルシファードは、自分の隣で剣を構え、アークヴァルドを鋭く見据えていた。


「みんな、無茶はするなよ」


レンは、仲間たちにだけ聞こえるように、小さな声で言った。彼の心は、アークヴァルドの圧倒的な魔力に、緊張で締め付けられていた。


「相手は本気だ」


「お兄様こそ、無茶しないでください」


リシアが、心配そうに答えた。彼女の声は震えていたが、その瞳には強い決意が宿っていた。


その時、アークヴァルドが右手を高く上げた。彼の全身の魔力が、一点に集中していく。


「終わりにしよう。『純血の審判』!」


巨大な黒い魔法陣が、地下室の床に現れた。それは、彼の憎悪と絶望が具現化したかのようだった。魔法陣から、無数の闇の矢が放たれる。その数は、とても避けきれるものではなかった。


「散開!」


レンが叫んだ。


五人は、咄嗟に四方に散らばったが、闇の矢の数が多すぎる。


「きゃあ!」


リシアの悲鳴が響いた。


レンは、はっと顔を上げた。

リシアの左腕から、鮮血が流れ出している。


「リシア!」


レンは、妹の無事を確かめるように叫んだ。


「大丈夫です、お兄様…」


リシアは、痛みを堪えながら言った。


「かすり傷です」


エレノアが急いで治癒魔法をかけた。


「すぐに治しますから」


彼女の声は、リシアを安心させるように、優しかった。


(良かった、もしリシアの身に何かあったら…そこの顔色悪い顔に生えた角を叩き折ってその首、河原に晒してやるからな…)


レンはアークヴァルドに対する決意を新たにした。


「ちっ、小賢しい…」


アークヴァルドは、苛立ちを隠せないでいた。


彼の完璧な計画が、レンたちの連携によって、何度も狂わされていく。彼は、一人ずつ確実に仕留めることに決めた。


アークヴァルドの視線が、イリヤに向けられた。


「まずはお前からだ!」


彼の言葉には、根深い軽蔑がこめられていた。


「やらせるか!」


レンは、イリヤを庇うようにアークヴァルドに向かって駆け出した。


しかし、アークヴァルドの魔法の方が早かった。黒い光線が、イリヤに向かって放たれる。


「危ない!」


ルシファードが、イリヤの前に飛び出し、魔法剣で光線を受け止めた。


「ルシファード!」


イリヤは、彼が自分を庇ってくれたことに驚きと、深い感謝を感じていた。


「大丈夫だ」


ルシファードは、歯を食いしばりながら言った。


「でも、この魔力…予想以上に強い…」


アークヴァルドは、ルシファードの苦悶の表情を見て、冷笑した。


「所詮は人間の血を引く半端者よ。純血の力には敵わん」


彼の言葉は、ルシファードの心の奥底に刺さる。


「半端者?」


ルシファードは、怒りを込めて言い返した。


「僕は誇りに思ってる。人間と魔族、両方の血を受け継いでいることを!」


「馬鹿が…」


アークヴァルドは、さらに魔力を高めた。


「それが汚れだと気づかんのか」


「汚れじゃない」


レンが、前に出た。


彼の心には、アークヴァルドの歪んだ思想に対する、強い反発が生まれていた。


「それは多様性だ。強さの源だ」


「多様性だと?」


アークヴァルドは鼻で笑った。


「戯言を…」


「戯言じゃない!」リシアが立ち上がり、声を荒げた。


「お兄様が教えてくれました。違いがあるから、お互いを支え合えるんだって!」


イリヤも頷いた。


「そうです。みんなと一緒にいると、心強いです」


エレノアが、杖を構えながら続けた。


「種族なんて関係ありません。大切なのは、心です」


アークヴァルドの表情が歪んだ。彼は、レンたちの言葉が、自分の信念を揺るがすように感じ、強い苛立ちを覚えていた。


「くだらん感傷を…そんなものが力になると思うのか?」


「なる」


レンが断言した。

彼の瞳には、確固たる光が宿っていた。


「俺たちが証明してやる」


レンは、仲間たちを見回した。リシア、イリヤ、エレノア、そしてルシファード。みんなの目に、同じ決意が宿っているのがわかった。


「みんな、聞いてくれ」


レンが静かに言った。


「俺一人じゃ、あいつには勝てない。でも、みんながいれば違う」


「お兄様…」


リシアが微笑んだ。


「レン様の指示に従います」


エレノアが頷いた。


「任せてください」


イリヤが構えを取った。


「僕も一緒だ」


ルシファードが剣を握り直した。


レンは深呼吸をした。


「よし、最後の作戦だ。全員で同時攻撃を仕掛ける。タイミングを合わせろ」


「同時攻撃?」


アークヴァルドが嘲笑った。


「無駄だ。俺の魔力の前では…」


「やってみなければわからない」


レンは、そう言いながら駆け出した。


「今だ!」


レンの合図と共に、五人が一斉に動き出した。リシアが右側から光の魔法を放つ。イリヤが左側から風の魔法で援護する。エレノアが後方から光の魔法で敵の視界を封じる。ルシファードが正面から魔法剣で突撃する。そして、レンが中央から真っ直ぐに突進した。


「ふん、所詮は烏合の衆…」


アークヴァルドが防御魔法を展開しようとした瞬間、異変が起きた。


五人の魔法が空中で混じり合い、これまでにないほど美しい虹色の光を放ったのだ。それは、まるで五つの色が一つに溶け合う、奇跡のようだった。


「なんだ、これは…」


アークヴァルドは驚き、防御魔法が遅れてしまった。


「これが…!」


レンが叫んだ。


「俺たちの絆の力だ!」


虹色の光が、アークヴァルドの防御魔法を突き破り、彼の身体に直撃した。


「ぐああああ!」


アークヴァルドが、苦悶の声を上げた。

煙が晴れると、アークヴァルドは膝をついていた。しかし、まだ完全に倒れてはいない。彼の目には、未だ闘志の光が残っていた。


「まだ、終わらん…」


アークヴァルドは、血を吐きながら立ち上がった。


「純血の誇りにかけて…」


「もうやめろ、アークヴァルド」


ルシファードが、哀しそうに言った。


「君も昔は違ったはずだ。なぜそこまで憎しみに囚われるんだ?」


「憎しみ?」


アークヴァルドは、ルシファードの言葉を鼻で笑った。


「これは愛だ。魔族への愛だ…!」


「それは愛じゃない」


レンが首を振った。


「恐怖だ。変化を恐れる気持ちだ」


「黙れ!」


アークヴァルドは、最後の力を振り絞った。


「貴様らには分からん!」


彼は、レンに向かって叫んだ。


「人間がどれほど残酷で狡猾な存在か…!」


レンは、アークヴァルドの言葉に、違和感を覚えた。


「人間が残酷?それはお前の偏見じゃないのか?」


「偏見だと…?」


アークヴァルドの動きが一瞬鈍った。


その瞬間、彼の瞳に、深い悲しみが宿る。


「俺は…俺は実際に人間の残酷さを味わったのだ…」


アークヴァルドの声が、震え始めた。


彼は、ぽつりぽつりと、自分の過去を語り始めた。幼い頃、彼は平和な一族の中で、薬草栽培をして暮らしていた。しかし、人間の商人に騙され、一族はすべてを奪われた。財産、家族、そして故郷。彼は、人間の裏切りによって、全てを失ったのだ。


「俺はその時誓った…二度と人間を信じない。魔族の純血を守り、人間の汚れた血が混じることを絶対に許さないと…」


レンは、アークヴァルドの言葉に、深い同情を感じた。


「だからお前は人間を恐れているのか…純血主義は、人間への恐怖の裏返しなのか…」


「恐怖?これは恐怖ではない!正当な警戒だ!」


アークヴァルドは、再び激昂した。

彼は、レンに向かって最後の魔法を放とうとした。しかし、その魔法は発動しなかった。アークヴァルドの魔力が、完全に尽きていたのだ。


「終わったな」ルシファードが、ゆっくりと彼に近づいた。アークヴァルドは、力なく地面に座り込んだ。


「負けた、か…」


「アークヴァルド」


ルシファードが、手を差し伸べた。


「まだやり直せる。一緒に新しいヘテロジェニア連合を作ろう」


アークヴァルドは、その手を見つめた。長い沈黙の後、彼は小さく首を振った。


「もう、遅い…俺はもう、戻れない…殺せ」


そのとき、レンが静かに言った。


「お前の家族の苦しみは理解できる。でも、一人の悪い人間のせいで、すべての人間を憎むのは正しいのか?」


「一人だと?」


アークヴァルドが、冷笑した。


「その後も何度も人間に裏切られた! 魔族を見下し、利用し、捨てる。それが人間の本性だ!」


「いや、そうではない」


魔王が穏やかに言った。


「君は傷ついた魂を持つ存在だ。その痛みは、私にも理解できる」


「理解?貴様に何が分かる!」


「私も同じだからだ」


魔王が告白した。


「人間の血を引く私も、魔族からの偏見に苦しんできた。『人間の手先』『純血を汚す存在』と言われ続けた…」


アークヴァルドの動きが止まった。


「そんな…」


「君の苦しみと、私の苦しみ…根は同じなのかもしれない」


「君の恐怖も不安も、理解はできる」


レンが優しく言った。


「でも、君の家族を苦しめたのは、『人間』ではなく、『悪い人間』だ。すべての人間が敵ではない」


「そう簡単に言うな!」


アークヴァルドが叫んだ。


「俺の家族がどれほど苦しんだか、貴様に分かるか!」


「分からない」


レンは、率直に認めた。


「君の痛みを完全に理解することはできない。でも、その痛みから生まれた憎悪が、今度は無関係な人々を苦しめている」


「君が今やっていることは、君を苦しめた人間と同じことだ」


魔王が指摘した。


アークヴァルドの瞳から、次第に力が失われていく。


「俺は…俺は復讐をしていただけなのか…」


「復讐ではなく、正義だと思っていた」


レンが理解を示した。


「でも、君の正義は、他者の苦しみの上に成り立っている」


「君の懸念は正当なものだ」


魔王が歩み寄った。


「魔族の伝統や文化を守りたいという気持ちも理解できる。でも、それは他者を排除することではなく、自分たちの良いものを大切にすることで実現すべきだ」


「君の家族が受けた仕打ちは間違っていた」


レンが付け加えた。


「でも、その間違いを正すのは、同じ間違いを繰り返すことではない」


アークヴァルドは、その言葉に膝をついた。


「俺は…間違っていたのか…」


「間違いではない」


魔王が、手を差し伸べた。


「ただ、方法が違っていただけだ。君の声も、今後の統治には必要だ。君のような経験をした者の意見こそ、真の共生社会を築く上で重要だ」


「本当に…俺の意見も聞いてくれるのか…」


アークヴァルドが震え声で尋ねた。


「もちろんだ」


レンが頷いた。


「痛みを知る者だからこそ、同じ苦しみを持つ人々を救えるはずだ」


アークヴァルドは、ついに武器を置いた。


「俺は…力だけではなく、理念でも敗北したのか…」


「敗北ではない」


魔王が、温かく微笑んだ。


「新しい始まりだ」


戦いが、ついに終わりを告げたのだった。


こうして、武力クーデターは完全に終結した。そして、純血派も含めた真の多様性を認める新しい統治体制の基盤が築かれていくことになるだろう。


アークヴァルドの心の傷は深かったが、それを理解し受け入れることで、ヘテロジェニア連合は、より強固な共生国家へと進化する道筋を得たのである。

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