武力クーデター勃発(中編)
戦場は、まるで大作映画のクライマックスシーンのようだった。
レンは、手に持った『軌跡の刃』と、展開した『シャドウ・ストライカー』を巧みに操り、戦場を縦横無尽に駆け巡っていた。彼の頭の中は、まるでFPSゲームのHUDが起動しているようだった。
「トレース・ビジョン、発動」
『軌跡の刃』に魔力を流すと、敵兵の移動予測ルートが光の線として浮かび上がった。レンはその線を読み取り、まるでゲームのコントローラーを操作するように、次の行動を決める。
「そこだ!」
彼は予測線に従って『ブリンク・ストライク』を発動した。それは、一瞬で敵兵の目の前にワープするような高速移動だ。敵兵たちは、突然目の前に現れたレンに驚き、動きが止まる。
「なんだあれは!」
「人間か? 獣人か?」
敵兵たちは混乱していた。予想外の高速移動に、彼らの伝統的な戦術は通用しない。レンは、敵兵に攻撃を仕掛けるのではなく、彼らの首に提げられた魔法通信装置を正確に破壊していく。
「通信を断つ!」
それは、FPSゲームでいうところの「通信妨害」戦術だった。敵の連携を分断し、組織的な動きを封じる。
「指令が来ない!」
「どうすればいいんだ!」
敵兵たちはパニックに陥り、烏合の衆と化していく。
レンは、一人で戦場全体をコントロールしているような感覚を覚えていた。しかし、彼の心は、高揚感だけではなかった。
アークヴァルドの副官は、彼の隣で震えていた。
「殿下…一体何者なんでしょうか、あの狼獣人は…」
彼は双眼鏡を手に、戦場を凝視していた。レンの動きは、まるで幽霊のようだった。一瞬にして現れ、消える。魔族が持つ常識を遥かに超えた戦い方だ。
「まるで幽霊のような動きだ。魔族でもこんな戦い方は見たことがない…」
アークヴァルドは、苛立ちを隠せないでいた。彼の計画は、完璧なはずだった。魔王軍の戦術は全て分析済みだ。しかし、レンという未知の存在が、彼の計画を狂わせた。
「落ち着け!」
彼は副官を怒鳴りつけた。
「所詮は一人だ。数で押し潰せ! 全員で一斉に包囲しろ!」
しかし、彼の命令は、現場の兵士には届かない。通信装置は破壊され、指揮系統は機能不全に陥っていた。
アークヴァルドは、自分の無力さに苛立ちを感じていた。こんなはずではなかった。こんな小さな障害に、彼の偉大な計画が邪魔されるなんて、許せるはずがない。
彼は、自分の信念を再度確認する。
(大丈夫だ。私がやっていることは正しい。純血の魔族がこの世界を支配するべきなんだ。この混乱も、全ては新しい世界を創るための産物だ…!)
彼の心は、焦燥と、それに打ち勝とうとする狂信的な信念の間で揺れ動いていた。
レンは、敵兵を無力化しながら、孤立した魔王派の住民や兵士を次々と救出していく。彼の戦術は、単なる戦闘だけではなかった。
「救出完了。次のポイントへ移動」
彼は救出した人々に、優しい声をかけた。
「ありがとうございます!」
「あなたは一体…」
「気にしないでくれ。安全な場所に避難するんだ」
レンの心は、FPSゲームの「ミッションクリア」という感覚に似ていた。しかし、目の前で助けた人々の感謝の言葉は、ゲームの達成感とは全く違う、温かいものだった。
彼は、この世界に来て初めて、転生者としての使命を強く感じていた。
(この世界の平和を守る…それが俺の役目なんだ。)
彼は、人々を救い、争いを終わらせるために、戦場を駆け回っていた。彼の心は、疲労を感じながらも、確固たる使命感に満たされていた。
一方、魔王城では、激しい攻防が続いていた。
「城門が破られました!」
「第二の防衛線まで後退!」
魔王軍の兵士たちは、次々と押し寄せる敵兵に圧倒され、後退を余儀なくされていた。
しかし、その時だった。城の上空から、定期的に光線が放たれ始めた。光線は、正確に敵兵を捉え、無力化していく。
「『天の火』が起動しました!」
クリムゾン伯爵が、喜びの声を上げた。
『天の火』は、セレスティアが事前に設置していた自動迎撃システムだ。
FPSゲームの「タワーディフェンス」を応用したもので、敵を自動で識別し、非殺傷の光線で無力化する。
「なんだあの光は!」
「魔法が効かない!」
アークヴァルドの部隊は、この近未来的な防御システムに、全く対応できなかった。
セレスティアは、竜人族の姿で誇らしげに言った。
「やったな、俺の『天の火』。レンの防御理論を魔導工学で再現するなんて、我ながら天才的だ」
彼女の顔は、自分の才能を誇る、満面の笑みで輝いていた。彼女にとって、この戦いは、自分の技術が世界を救うことを証明する舞台でもあったのだ。
魔王ルシファードは、城壁から戦場を見下ろしていた。
「セレスティア殿の技術に救われたが…」
彼の心は、安堵と、そして深い責任の気持ちで一杯になっていた。
「このような兵器に頼らなければならない状況を作ってしまった私の責任は重い…」
彼は、自分自身の不甲斐なさを感じていた。平和な世界を築くために、武力ではなく、対話で解決する道を選んだはずなのに、結局はこのような事態を招いてしまった。
城の防御は『天の火』によりなんとか持ちこたえているが、敵の数は圧倒的に多い。
「このままでは時間の問題ですね」
エレノアが冷静に分析した。
「やはり、根本的な解決が必要です」
ルシファードは、自分の心の奥底で、根本的な解決とは何かを自問自答していた。それは、武力による勝利ではない。もっと別の、心の底から人々を納得させられるような、そんな解決策を探していた。