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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

名探偵(?)悪役令嬢 ~真実の愛は、いつも1つ~

作者: 星森




「 リリー・カサブランカ公爵令嬢!

今この時をもって、お前との婚約を破棄する!


そして!!


これからは、このサリー・マクガレン男爵令嬢と婚約を結び直す!

お前は、俺がサリーと仲がいいのに嫉妬して、サリーに様々な嫌がらせをしたな!

お前のような悪女とは結婚できない!

俺はサリーと真実の愛を貫く!」



 理想の王子様の廉価版のような金髪蒼眼の優男、マイケル・トーミウォーカー王子は、隣にいるピンク・ブロンドのサリー・マクレガンの肩を抱いてリリーを指差した。



 場所は王都に近い森の拓けた場所 。


 今は、狩猟大会の結果発表が終わったタイミング。


 マイケルは1位だったが、それは取巻き達が自分の獲った分を差し出したデキレースだ。



 この茶番に参加した貴族たちが、マイケル一味とリリーの成り行きを、固唾を飲んで見守っている。



「左様ですか」


「……おい、他に何か言うことはないのか」


「ありません。

余計なことを言うと弁護士に叱られますので、今後は私に接触なさらないように」


「なんだと?!

自分の立場を弁えろ!

まずはサリーに謝罪だ!」


「名誉毀損で訴えます。私が『嫌がらせした』証拠は裁判所に提出してください。

ここで問答はしません。

強要するなら強要罪で告訴状を出します」


「なぬっ」


「私は、ただ謝ってくれればいいの!

裁判なんて大袈裟な!」

と、サリーが涙ながらに訴える。


 リリーはソレに呆れた目を向けてから、近くにいる侍女に「父への報告と裁判の手続きを」と言った。


 侍女は「承知しました」と言って書簡を作る。

 伝書鳥に括りつけて飛ばすのだ。


 場所が場所なので、マイケル達は何もできない。

 暴力をふるおうにも人目があるし、牢に入れたくても城まで距離がある。



 司会進行を任されていた文官爵の若い男が、閉会宣言し解散となった。同時に雨が降りだす。


 各々が馬車に乗り込むと雨足は途端に強くなった。道がぬかるんで動けなくなる前に王族は少し距離のある古城に、他の貴族は近くの山小屋に、それぞれ避難することになった。


 マイケルとの婚約契約が正式になくなるまでリリーは王族に準ずるので、特別仕様車に乗り王宮騎士に囲まれて移動しなければならない。





 

 雨は雷を伴い激しさを増す一方。


 リリーを含む王族を乗せた馬車2台が桟橋を渡ったところで、橋は増水した川に流され、対岸に護衛騎士の多くが残された。


 もう1歩で目的の古城。というのところで、今度は狼の群れに遭遇した。


 




 外から物音がしなくなった。リリーと同乗していた黒髪の私設護衛ロドニーがドアを開けると、王宮騎士と御者と馬は骸になっていた。


 もう1台の馬車からマイケルの取巻きであり王宮騎士団長の息子でもあるカルシオンが、降りてきて状況を確認した。


 生き残ったのはリリー、ロドニー、マイケル、カルシオン、サリー、眼鏡。


 一行は徒歩で古城入りした。


 BGM:ヘドウィグの○ーマ






 玄関に入ると、仕着せ姿の不気味な老婆が出てきた。


「こちらはマイケル・トーミウォーカー第1王子殿下だ。粗相のないように。

ここに来る途中の橋が流された。

雨が止んで迎えが来るまで世話になりたい」


 カルシオン・シアーズ伯爵令息が言うと、老婆は頷き「主人は不在ですが、どうぞ」と各々を客間へ案内した。





 3時間後、すっきり陽も落ちた。


 夕飯に呼ばれ、ダイニングに揃う。


「しっかし気味の悪い館だなぁ」


 マイケルが辺りを見回して呟く。


 掃除はされているが、やはり古臭く汚れて見える。


「殿下、失礼です」


 カルシオン同様、王子の取巻きでもある宰相の息子アフォメが、眼鏡の位置を直しながら注意する。


「しかしなぁ」


 雷が鳴る。雨は止みそうにない。


「いやぁん、怖ぁい」

と、これ見よがしにサリーがマイケルにくっつく。


「よしよし、俺がついてるからな」

と、鼻の下を伸ばす。


 その光景を生ぬるい目で見るリリー&護衛ロドニーに対し、カルシオン・シアーズ伯爵令息は赤毛を逆立ててギリギリ歯軋りした。



「ここには婚約破棄されて引きこもり、1人寂しく死んだ令嬢の亡霊がいるのです」



 ──ガシャンッ



「はい、マイナス10点!

ヨークトリア夫人に言いつけるぅ~」


 玄関で対応した老婆が、給仕しながら上の亡霊発言をした。驚いたマイケルがカラトリーを落とすと、リリーがすかさずそれを詰った。


 ヨークトリア夫人は、王族のマナー講師。スパルタ指導で有名な人。


 マイケルは、ヨークトリア夫人の名前を聞くだけでチビりそうになる。


「そ、そうやって揚げ足取りばかりするから嫌なんだ!

お前は、ちっとも可愛くない!」


「私、自分よりバカな男って嫌いなの」


 リリーは、そっぽを向く。


「くっ」


「いやだわ~、こんな人が婚約者だったなんてマイケル様! 可哀想~!」


「そうだ、少しはサリーを見習え!」


 リリーは体をクネクネさせると「い゛やぁん゛、怖ぁい゛」と、ドスの効いた声で言った。



「「「「「……」」」」」



「まさか……婚約破棄なさったのですか?」


 震える老婆が訊ねると、サリーは嬉しそうに答える。


「そーなんですぅ~♡

私たち真実の愛で結婚を勝ち取ったんですぅ~♡」


 まだ何の手続きもしていない。


「ああ……なんてこと……真実の愛を口実に婚約破棄したカップルが、この亡霊城に入ると男性はチ○コが捥がれ、女性は虚乳にされてしまうという伝説が……ああ、なんてこと……」


 ヨロヨロと老婆は、床にへたり込んでしまった。


「なんだと?!

今すぐエクソシストを呼べ!」


 マイケルが立ち上がって指令を飛ばす。


「落ち着いてください。

この天候では、どうにもなりません」


 比較的冷静な眼鏡が宥める。


「そーよ、マイケル様。

亡霊なんて居るはずないじゃない」



 ──ガタンッ



 ディスプレイされていた鎧兜が落下した。

 誰も触れていない。


「……い、いるはずないじゃない……アハ、ハ」









「わああああああっ」


 翌朝は、鶏でなく騎士団長の息子カルシオンの悲鳴から始まった。


 リリー身支度の途中であったが、切り上げて現場に向かう。


 護衛のロドニーと一緒に、サリーに宛がわれた客室に入る。


 ベッドの上に横たわるサリーの死体をマイケル、カルシオン、アフォメが囲み呆然としていた。


 ロドニーは死体に近付くと、その服を破り割いた。


「おい、何を──何だ、これ?」


 サリーの胸部が真っ青に変色している。


 ロドニーが、患部に触れる。


「っ勝手に触るな!」

と、マイケルがこの期に及んで俺のもの発言。


「やはり……」


「一体、どういうことです? 説明してください」


「豊胸の失敗でしょう」

と、ロドニーが言う。


「恐らくゴム製の何かを、胸部に入れたと思われます。

ほら、脇に切開痕がある。

昨日からの長雨で体が冷えてしまい、固くなったゴムが心臓への血流を邪魔したのです」


「バカな……」


「俺だ! 俺のせいだ!」


 カルシオンが、赤い頭を抱えて崩れ落ちる。


「3ヵ月ほど前だった。

サリーが俺の腕に胸を押し付けてきた時すぐに、その膨らみが偽物だとわかった。

だから『胸パッドで大きく見せてると初夜でガッカリされて、殿下の寵愛を失う』と注意した。それが、こんなことに……」


「なんてことを!

胸なんかなくたって殿下は、サリーを愛していたのに!」


「え? あ、ああ……そうかも、しれない」


 眼鏡の青春っぽい熱さに戸惑いながら頷くマイケル。

 内心、結婚する前に死んでくれて良かったと胸を撫で下ろした。


 真実の愛なんて、そんなものである。






 何故かたくさんある棺桶にサリーを納めてから、それぞれ室内で過ごした。


 雨は止んだが、地面がぬかるんでいて外に出られない。






 夜中。

 喉が渇いたリリーは、キッチンに向かった。


 自宅ならメイドが部屋に水を置いておいてくれるが、この古城には老婆しかいない。

 他の使用人は、主と共に出掛けたという。


 ロドニーを起こすのも気がひけたので、1人で向かう。途中、ダイニングを通る。


「ん?」


 テーブルに突っ伏している赤い髪。


 蝋燭の灯りだけでは、よく見えない……ただならぬ雰囲気に、そっと近づくと。


「……死んでるわ」


 脈をとらなくても、わかった。


 テーブルには「真実の愛は、いつも1つ」と血文字でダイイングメッセージが。



 ロドニーを呼ぶため踵を返して──


「きゃっ」


「おっと失礼」


 青い眼鏡もといアフォメ・トラベルト侯爵令息だった。

 夜中なのに、赤い蝶ネクタイとショートパンツ・スタイルだ。

 お洒落さんかよ。


「お急ぎで、どちらへ? 悪役令嬢さん」


「あなたの仲間が、また1人減ったから人を呼びに行くのよ」


 眼鏡の顔色がサッと変わる。


 テーブルに伏しているカルシオンに気付いて近寄る。


「これは……」


 カルシオンの死体の横に、注射器と粉が散乱している。


 アフォメが、その粉を自分の指に着けて匂いを嗅ぐ。


「アーモンドか」


 そう言って、指先をペロッと舐めた。


「ぐ……青酸カリだ」


 床に倒れたアフォメは、バタバタと体を二転三転させ動かなくなった。


 リリーが今度こそロドニーを呼びに行こうとすると、キッチン方面からバターを抱えたマイケルがやって来た。


「む、こんなところで何を……おい! 眼鏡!」

と、アフォメの死体に駆け寄り、その肩を揺さぶる。


 よろけて立ち上がると、カルシオンも死んでいることにも気付く。


「魔女め! 俺の手下の眼鏡とゴリラを殺したな?!」


「どうやって? 血も出てなければ首絞めた痕もないじゃない」


「亡霊を使って!」


「……動機は?」


「そんなもの俺にフラれた腹いせに決まってるだろう!」


「だったら本人を殺すでしょう」


「実は俺のことが好きなんだろ!

だから殺せなかったんだ。

お前が『どうしても』と頼むなら側室にしてやらないことも──」


 リリーは呆れて、ロドニーのところへ向かった。








 3日目。

 リリー達は、朝食の場に来ないマイケルを呼びに行ったがドア越しに反応がない。


 応答のない本人の代わりに犬の鳴き声がする。

 番犬として夜間、庭に放しているという。


 吠え方が異常なのでロドニーがドアを蹴破って突入すると、下半身を丸出しにしたマイケルが絶命していた。


「これは……」


「「亡霊の仕業です」」


 ロドニーと老婆が声を揃える。


「え、ちょっと待って。陰部に思い切り犬の歯形ついてるけど?

これ、どう見ても『陰部に溶かしたバター塗って犬に舐めさせてたら噛み千切られてショック死』だけど?」


「「亡霊の仕業です」」


「昨日の2人は?」


「「亡霊の仕業です」」


「『青酸カリだ』って言い残したけど、あれってロドニーが『気分よくなる薬』と偽ってメイド経由でカルシオンに渡したんじゃないの?」


「「亡霊の仕業です」」


「うわぁ……もういいや、朝ごはん食べよう。──あら?」

と、振り返るとロドニーしかいない。


「どうしました? お嬢様」


「お婆さんは?」


「ここには2人しか居ませんよ」


「え、だって──」


 城の表から声がする。


「迎えが来たようです。行きましょう」


「え? ちょっと」


 ロドニーは、ごねるリリーを抱き上げて玄関へ。


 やはり迎えが来ていて、カサブランカ公爵家の騎士やメイドがリリーを囲んで労った。






 カサブランカ家の馬車に揺られながら、窓の外を見やるリリー。


 古城が遠退いていく──と、突然、砂ぼこりと共に崩れ落ちた。


 1km近く離れているのに、音と振動を感じる。


「城が……」


 唖然とするリリーにロドニーは「あの城は老朽化し過ぎて、形を保ってたのが奇跡ですよ」と肩を竦める。


「あちこちクモの巣だらけで寝れたもんじゃなかったし」


「え?」


 確かに城は古かったが、掃除は行き届いていた。


 どういうことなのか?








 3日後。

 リリーは、国立図書館で古城について調べた。


 城の持ち主は50年前、婚約破棄された令嬢で、人を寄せ付けず1人寂しく亡くなったとある。


 "令嬢が亡くなって以来、城は無人であった“とも。


 記事に残っていた令嬢の姿絵は、老婆に似ていた。


「ね、だから亡霊の仕業だって言ったでしょ」

と、今日もついてきたロドニーがウィンクする。


「あの一連の事件を殺人とするなら、私とあなたしか生き残ってないもの。どちらかが犯人よ」


「どっちだと思います?」


「わからないわ、推理は苦手よ」


 リリーは追求をやめて外に出た。


 あの雨が嘘だったような晴天だった。









 結局マイケル達の死体が見つからないまま、彼とリリーの婚約はなくなった。


 実際には見つかったが、死因が酷すぎて王家が隠蔽したので、表向き"見つからなかった"ことになった。


 かなりの慰謝料(口止め料)がリリーに入った。


 未亡人ならぬ未婚約のリリーは、新しい見合いに挑むことになった。


 見合い相手との待ち合わせであるカフェに行き、案内された場所に座ると、後ろにいた人が向かいの席に座った。


「そう言えば、あなたって伯爵家の出身だったわね」


「3男なので婿に行けますよ」


「それは魅力的」














□完□







リリー「どうして豊胸の失敗だって、わかったの?」

ロドニー「胸の形が不自然だったから」

リリー「あなた名探偵になれるわ」

ロドニー「お嬢様の婿の方がいいです」

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