裏切り者の名
いちばん信じていた“味方”こそが、
本当は、最初からすべてを知っていた。
【1】帰還を拒否する者たち
AbIn本部からの“強制帰還命令”に、調査班の面々は凍りついていた。
だが、玲は迷わなかった。
玲:「戻らない。私たち、あの地図の場所で見たものを、何も知らなかったことにはできない」
匠海:「……俺もだ。命令違反でもなんでもいい。クオパストたちを“敵”にしたままじゃ、進めない」
柚季:「あたしも同じ。今さら上の言いなりになる気はないしね」
勝俊:「どーせあっちは、俺たちが帰ったら“始末”するつもりだろ? 逃げ場なんて、最初からねぇんだよ」
一方で――颯汰は違った。
颯汰:「……俺は戻る。本部に戻って、この件の“全容”を確認する必要がある」
玲:「……そうた?」
颯汰は目をそらす。
颯汰:「……あまりに情報が足りない。きやたこの話、ミノの話、酸素戦争……それらがすべて“真実”かどうか、裏取りが必要だ。感情だけで動いてはいけない」
玲は、寂しそうに笑った。
玲:「……わかった。気をつけて」
颯汰は一人、船から離脱した。
その姿を、ゆらが静かに見送っていた。
彼女の小さな唇が震える。
ゆら:「……バカ」
【2】機密ファイル“Λ項計画”
颯汰が向かったのは、深海浮遊ステーション「オルタナA12」。
ここにはAbInの全機密データが保管されていた。
端末に自らのアクセスコードを入力し、極秘ファイルを開く。
[Λ項計画/記録:E-712A]
「選別は完了した。酸素量の配分上、深海区域には生存権を与えない」
「クオパスト種の知性は認めるが、政治的・倫理的に“人間”として扱うには至らない」
さらに、1枚の報告書を見つけた。
[報告者:副本部長・風間俊也]
颯汰の顔が青ざめる。
そう、風間俊也――それは、自分の父親の名だった。
【3】人間の裏切り、人間の苦悩
玲たちの船に、1通の暗号通信が届く。
それは颯汰からのメッセージだった。
「父は、Λ項計画の主導者だった。
私は、これを知るために調査班に志願した。
最初から、“クオパストを救う”つもりはなかった。
けれど……彼らの目を見て、私は間違っていたと気づいた。
このまま、本部は“クオパスト絶滅作戦”を発動させる。
止めてくれ。……今度こそ、人間でありたいんだ」
玲は、涙をこぼしながらメッセージを読み終えた。
玲:「そうた……あなたは、自分の“罪”を引き受けようとしてるんだね……」
颯汰の父親が主導者でした…
この後さらに驚きの展開が