真実
この世界で、誰が“悪”なのか。
それは、真実を知るまでわからない。
【1】揺らぐ「敵と味方」の境界
調査艇にてクオパストの都市から帰還した玲たちは、船内で急ぎ報告会を開いた。
匠海:「クオパストとの交渉は、一応の成功……ただし、“王”との対話は困難を極める」
柚季:「でもね……私はあの王様、“きやたこ”って、すごく寂しそうに見えた」
勝俊:「いや、あの触手、バチバチに殺意あったけどな!?」
玲はそのとき、言葉を発しなかった。
──あのとき、きやたこが語った“過去”が、頭から離れなかった。
【2】語られた過去:酸素戦争
深海に存在したクオパストの都市は、かつて“ヒト”と共存していた。
都市は人工酸素によって保たれ、ヒトとクオパストは協力しながら生活していた。
だが、異変が起きた。
酸素生成システムに異常が発生し、供給量が激減。
地上から派遣された“科学部隊”はこう結論づけた。
「地上の文明を守るため、酸素は地上へ引き上げる。深海の存続は切り捨てる」
それは、「ヒトがヒトを選ぶ」という選別だった。
置き去りにされたクオパストたちは、次々と酸素不足で命を落とした。
きやたこの“母”もその一人だった。
玲:「……置いていかれたんだ、ずっと……」
彼女の瞳には、クオパストの子どもたちが浮かんでいた。
あの小さな瞳。あの声。
彼らは、戦おうとしていたわけじゃなかった。
ただ、“生きよう”としていた。
【3】異変、再び
そんな矢先――センサーが激しく反応した。
颯汰:「な……なんだこれ!? 船体上部、急速な酸素圧増大!」
りゅうが:「船、壊れるぞこれ……! 圧に耐えられない!!」
映像には、別のクオパストが映っていた。
それは、きやたことは違う。
青く、巨大で、全身が“呼吸器官のような器官”で覆われた異形の存在――
玲:「あれ、きやたこじゃない……!」
きやたこの“弟”、ミノだった。
ミノは酸素を増幅させる能力を持ち、過去には酸素を生み出す要として都市を守っていたが――
現在、その酸素は暴走していた。
柚季:「あの子、自分が酸素を出せば出すほど、船を壊すってわかってないのよ!」
勝俊:「じゃあ止めないと……って、どうやって!?」
玲は、ふらりと前に出た。
玲:「行く……私が、あの子に話す」
【4】暴走する命、届く想い
玲が単身、小型艇でミノの元へと向かう。
船内では止める声が響くが、彼女は静かに微笑んだ。
玲:「……お願い、誰かをまた“置いていく”のは、もうやめたいの」
酸素が飽和した深海。
そこに浮かぶ、膨張しきったミノ。
玲:「あなた、誰かに……認めてほしかったんでしょう?」
ミノの動きが止まる。
まるで、言葉を理解しているように。
玲:「きやたこが、“あなたは希望だった”って……言ってたよ」
ミノの瞳が、かすかに揺れる。
そして――
ぽたりと、ひと粒。
水中に溶ける、“涙”のようなものが浮かんだ。
その瞬間、酸素圧が急激に下がった。
ミノは、玲をそっと抱くように触手を差し出した。
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