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軟禁失敗と嵐

 「・・・薄々気づいてはいたがお前は馬鹿なのか?」

 「はっ!?・・・あー!もー!!また負けたぁぁぁぁぁ!!!」

 

 癇癪を起こしたリリエルがトランプを放り投げトランプが宙を舞う。

 侍女達が、またかと無表情でそれを片付けている。

 リリエルが陸にあがってすでに1週間。

 アイザックはリリエルが帰らないように監禁した・・・つもりだった。

 監禁した次の日の夜、リリエルの様子を見に行ったアイザックは心の底から喜んだ。

 アイザックに抱きついて、潤んだ瞳で見上げて来るリリエルを見て。

 少し仕置きするだけでこんなにも従順になるのかとほくそ笑みもした。

 しかし。


 「アイザックぅ~!!暇、暇暇暇暇ぁぁぁぁ!!なぁんで直ぐ来ないの!?危うく窓から飛び降りようかと思った!」

 「なっ!?」


 窓の外は断崖絶壁の海が広がっている。

 間違いなくここから飛び降りたら死ぬだろう、人間ならば。

 傍から聞けば「自殺してやる!」発言に一気に背筋が冷えたアイザックだったがアイザックを見上げながら腕を子供のように揺さぶるリリエルからは元気いっぱいだ。

 

 「せっかくの陸なのに、こんな所にいたら勿体無いでしょー!?遊べっ!」

 

 と、言うわけで監禁したつもりなのだが、リリエルはそうは思っておらず余り効果がなかった。

 しかし独占、と言う目的は達成されている。

 外に遊びに行きたいと子供のように駄々を捏ねたかと思うと、却下すれば癇癪を起こしてアイザックに殴りかかって来ることさえある。

 食事に魚を用意しようものならば「あなたは人間食べるの?!食べないでしょ!?」と言って泣き喚く。


 「リリエル、お前絶対に末子だろう。もしくは1人子か」

 「ん?7姉妹の末っ子だけど・・・なんで?」

 「見ていればわかる」

 「ふ~ん」


 どうでもいいこと、興味のないことには反応が薄い。

 わがままで自分勝手で・・・それなのに人に好かれる摩訶不思議。

 末子の謎だ。

 今でもトランプに飽きたらしいリリエルはアイザックの足を軽く蹴りながら「暇~」と呟いている。

 

 「・・・俺はお前の保護者ではないぞ」

 「何言ってるの?意味わかんないし。それより外行こうよ~暇ぁ。ねーえ!お願い」

 「う・・・お前、こんな時ばかり・・・卑怯だぞ」

 

 腕に身体をこすり付けるよに擦り寄ってきたリリエルは間違いなく確信犯・・・と言いたいところだが無自覚だろう。

 可愛い、と素直に思ってしまう自分がくやしい。

 監禁するつもりだったはずなのに・・・と思うが、これは始めから決めていたことだから構わないだろう。

 

 「明日、海に出る」

 「いや」

 「・・・何故」

 「飽きた。つまんない。街がいい」

 「駄目だ。海に出るのは決まっていたことだからな」

 「えええ~・・・ま、いっか」


 なんでお前がそんなに偉そうなんだ・・・と思わなくも無いが、そんなわがままなところも気に入っているのだから仕方が無い。

 振り回されるのが楽しいなんて末期だ。

 







 「船に乗るんならそう言ってよ!!わ~すごぉい!!初めて乗ったぁあ!」

 「・・・船以外の何で海に出るつもりだったんだ?」


 アイザックの呟き丸無視でリリエルはあっちこっち船を見て回っている。

 今ではリリエルとすっかり仲良くなったアイザックの愛犬、ジュリオと一緒に。

 わんわん!と元気良く吼えるジュリオに負けず劣らずの騒ぎようだ。


 「犬!あれなんだと思う?・・・え?名前で呼べ?あ~・・・名前なんだっけ」

 「わんっ!わんわん!!」

 「あー、そうそう、それ。行こう!ジュリオ!」

 「わんっ!」


 何やらジュリオと会話しているらしいがリリエルの中身の幼さゆえに戦員の誰もが孫を見るような生暖かい目で見守っていた。

 それにしても幼すぎるだろう、と思う。

 同年代の女は結婚しているものもいるだろう。

 にも関らずこの子供のような振る舞いと無邪気さ。

 アイザックのことを「別に好きじゃない」と言っておきながら、そのことを忘れたようにアイザックの袖を引いて船の説明をせびって来る。

 亜麻色の髪が海風に揺れ、その瞳が水面を眺め、愛おしいものでも見つめるように細まった。


 「・・・海が好きなのか?飽きただのつまらんだの言っていただろう」

 「・・・そうだね、つまんないよ。もう知り尽くしちゃてるもん。私はもっと色んなことが知りたい、見たい。でも」

 「でも?」

 「・・・でも、海は大好き。だって海なんだもん」

 「そ、そうか」


 振り返ったリリエルの大人びた顔に、不覚にも動揺してしまったアイザックは意味不明なリリエルの言葉に突っ込んでいる余裕などない。

 普段幼い分、こうした不意打ちが多くて困る。

 再び海に目を向けるリリエルの背後に近寄り、その細い腰を引き寄せようとしたその時。

 

 「あっ!」

 「がっ!」

 

 またしても顎に襲撃が走った。

 お約束になりつつある状況だ。

 それでも海に身を乗り出したリリエルに焦り、慌てて船の方に引っ張る。

 勢いでアイザックの胸にすっぽりと収まってしまった。

 

 「ちょ、ちょー!アイザック離して!今姉さま達が・・・」

 「こら、暴れるな。海に落ちるぞ」

 「落ちても平気。アイザックみたいに溺れないよ」

 「なっ!あれは嵐だったからで・・・泳ぎは得意だ!」

 「「「「「「リリエル!」」」」」」

 「!」


 言い合いを始める2人を遮ったのは6人の姉の声。

 どこから聞こえて来るのか分からないアイザックはすばやく身構え、リリエルを片腕に抱き込んだ。

 離せ、とうるさいリリエルは無視して海を見てみればそこには上半身を水面に出した美女6人。

 アイザックはぎょっとして目を見開いた。


 「今助ける!そこを動くな!」

 「は・・・?ああ、姉さま達は溺れてるわけじゃ・・・って!ええ!?ね、ねねね姉さま!人間の前にそんな簡単に出てきちゃっていいの!?」

 「「「「「「そんな場合ではありませんっ!」」」」」」


 全員が慌てている。

 しかし6人の姉の焦ったような怒号にアイザックとリリエルは一瞬口を閉ざす。

 その隙に6人が口々に話し出した。


 「お父様が魔女に捕まってしまったの!!」

 「リリエルを人質にとったって・・・!!」

 「あなたがいつまでたっても帰ってこなかったから、お父様もお信じになって・・・」

 「でも、今日あなたの気配が海に伝わってきて出てきたの!」

 「無事でよかったわ。可愛いリリエル」

 「でも、お父様は摑まったままよ・・・リリエル、戻ってきて頂戴!一緒にお父様を助けに・・・」


 つまり、アクアがリリエルを人質に取ってお父様を誘拐した、と。

 意味がわからん、とリリエルは首を捻る。


 「お願いよ、リリエル。お父様が居なくなって、あなたまで居ないなんて・・・私達、私達・・・」

 「姉さま・・・」


 リリエルはぎゅっと腹に回されたアイザックの腕に力が入ったことを感じたが姉達の涙する顔を見て首を傾げるばかりだ。

 だって・・・。


 「お父様ならそこにいるじゃない」

 「「「「「「え?」」」」」」


 6人の姉の後ろ。

 鬼の形相でこちらを見ているのは確かに父王であった。

 父に向かって指を指しているリリエルを見て、今まで凪いでいた海が荒れ始める。

 大きな波が発生しだし、今までアイザックとリリエルに遠慮して引っ込んでいた船員達がわらわらと出てきた。 

 「嵐がきたぞー!」と口々に言い合い、帆を終い、ロープを締め出す。


 「え・・・お父様、なんで怒ってるの?姉さま達流れちゃったじゃん」

 「リリエル!ここは危険だ!中に・・・」


 訳がわからないがリリエルだけは安全な場所に移そうとアイザックがリリエルを抱き上げたその時。


 「娘に、触るなっ!!!!」

 「なっ!!」

 「アイザック!」


 アイザックが波に攫われ、海に消えてしまう。

 リリエルは驚いて追いかけようとしたが父に阻まれてしまった。


 「リリエル、帰ろう」

 「お父様!アイザックが!・・死んじゃう!離してっ!!」


 腕を掴む父を振り払おうともがくがびくともしない。

 男ってずるい!と思いながらめちゃくちゃに暴れた。

 だって人間は水の中では息が出来ないから。


 「・・・そこまで、あの男が好きか」

 「はぁ!?今そんなこと言ってる場合じゃ・・・お父様、お願い。離して!」


 怒ったような悲しそうな表情をする父を構っている余裕などない。

 アイザックは泳げないと思い込んでいるリリエルは本気で焦っていた。

 

 (アイザックが、死んじゃう・・・!)


 リリエルの目から、一筋の涙が流れたその時。

 荒れ狂う嵐のなかその声だけがはっきりと耳に届いた。


 「・・・助けが必要かい?リリー」


 リリエルの1番の友達。

 ときには優しく、ときには厳しく。

 大好きな頼れる、リリエルの掛け替えの無い人の1人。


 「アクア!!!!」


 名を呼べば、黒い蛇のような下半身を髑髏に巻いた魔女・アクアが嫣然と微笑んだ。





 

 

 

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