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二話 友達未満


 

 誤字脱字を指摘しながら津百合さんと小説を修正しているとふと彼女が顔を上げてこちらを凝視してきた。


 「ん?どうしたの?何か間違ってた?」


 「いや、そう言うわけじゃないんだけど何で高橋君はそんなに小説に詳しいの?」


 ふと思ったことを聞いただけなのだろうだが、僕はそのふとした質問で一瞬心臓が跳ね上がりそうになっていた。


 少し迷いはしたが僕はただ小説が読むのが好きなだけで少し詳しいだけだと、僕は彼女にそう伝えた。


 別に小説を書いていた事を言うのは問題なかった。ただ僕の心意気の問題だった。また誰かに自分の書いたものを破かれるのが怖かったから。


 それにまだ他人は信用できないから。


 「ふ〜ん、そうなんだ。もし書いてたら読んでみたかったのにぃ」


 幸いにもそう言うと彼女は先ほどの発言を気に止めることもなくまた、誤字脱字やストーリーの修正を始めた。


 と思っていた。また修正に戻ったかと思えば彼女は突然こっち向いて


 「本当は何か書いてるでしょ。恥ずかしいから見せたくないんでしょ〜。本当はあるんでしょ〜」


 全然気にしていた。全然バレていた。


 「いや、書いてないから。僕読む派だから」


 びっくりして勢いよく否定してしまった。余計に疑われるかと思ったが彼女は意外にもあっさりと退いてくれた。


 「むっ、まだ否定するか。まあ良いでしょう今回は許しましょう。」


 彼女はまた原稿に向かい直した。


 彼女は意外と人が分かっているのかもしれない。


 その後も僕たちは夕陽が沈みかけるまで小説の話や物語の話なんかをしていた。


 「あ、もうすぐ暗くなっちゃう、もう帰らないとお母さんに叱られちゃう。髙橋君も遅くなっちゃうよ。」


 そう言うと彼女机の上の荷物を片付け出した。


 僕も気づけばこんな時間だったことに驚きを隠せなかった。彼女との時間はそれほど楽しかったのだ。


 ただ僕は一つ気づいていないことがあった。


 僕はこの学校に入学してからほとんど他人に対して触れようとしなかった。


 隣の席の津百合さんの顔すら見ていなかった。


 それを理由にするわけではないが僕はもっと早く気づくべきだっただろう。


 彼女が片付けを終えて僕も慌てて席を立ってカバンを持った時彼女は席から立っていなかった


 正確には彼女は席に座っていたわけではなかったのだ。


 彼女は車椅子に乗っていた。今になって今更気づいたのだ。


 「あの、津百合さん その足どうしたの?」


 僕は突然の出来事に驚いてその拍子に彼女の足について聞いてしまったのだ。


 あまり聞かないほうがいいと分かっていても僕には聞かざる終えなかった。


 「ああ、コレはね去年中学の時に事故にあってさ足が動かなくなっちゃったんだよね。」


 彼女はそんな事を明るく答えてくれた。気にしないで、と付け加えて。


 「ごめんデリケートな事なのにそんなこと聞いて、本当にごめん」


 「大丈夫だよ、それに最初に入学式のホームルームで言ったじゃん。聞いてなかったの?」


 謝るしかできない僕に笑って彼女はそう返してくれた。


 「謝るんなら、車椅子押してよね!」


 彼女は豪胆に笑いながらそう言った。


 

 車椅子を押しながら彼女と帰り道が変わるところまで移動していると、車椅子に座った津百合さんが僕に喋りかけてきた。


 「高橋君はさ何で小説が好きなの?私はね昔お母さんに呼んでもらった本が理由でね。その本がずっと頭に残ってて、中学の頃は読むだけだったんだけど高校になってふと自分が書いてみたい!って思ったんだ。」


 君はどう?と彼女は聞いた。


 僕はただ気づいたら小説が好きで書いていた。何て言う事はできないから僕は少し曖昧に答えることしかできなかった。


 「僕はただ小説の物語を読んでたらその世界観を味わえるからとかそんな理由かな。」


 「ふ〜ん、まあいいよ。けどどっかでちゃんと理由教えてね。そうだ!ねえ明日も小説見てよ!他にも書いてるのが沢山あるから。」


 「君がいいなら僕はいいけど。」


 そう言うと彼女は嬉しそうに笑っていた。


 そんな会話をしているうちに僕たちは道が別れるとこまで既に着いていた。


 「それじゃ高橋君また明日も放課後にね〜。それとボサボサの髪も整えなよ〜。」


 そう言うと彼女は一人で懸命に車椅子のタイヤを動かしながらゆっくりと進んでいった。


 そんな彼女の車椅子をこぐ背中が見えなくなるのを待って僕はゆっくりと家に向かった。


 彼女との会話は思ったよりもずっと楽しく少し親友のことを思い出して胸が痛くなった。


 けれど、今日彼女と会った事で少しだけ小説を書けるかもしれないとそう思えた。


 家に帰ると遅い帰宅を心配していた母さんが玄関まで慌てて出てきた。


 「どうしたの!こんな時間まで外をほっつき歩いて、お母さんどれだけ心配した事か。」


 中学での一件があってから僕の母は僕のことに対して異様に過保護になってしまったのだ。


 僕にとっては家族が心配してくれる事は嬉しくもあったがとても複雑な気持ちだった。


 ただ今の僕は小説に手を付けたい一心だった。


 心配する家族を置いて二階にある自室に駆け上がった僕はカバンからゆっくりと書きかけの原稿を取り出した。


 この原稿はあの日破かれた物の直前までを書いていた物だ。


 小説が破かれた日からコレをずっとそばに置いていた。


 だけど、僕は小説の原稿を破かれた日から僕はその続きが書けなくなった。


 破かれた場所から先へ進めなくなったのだ。


 近くに置いておけば何かの拍子に続きが書けるかもしれない、そんな思いでずっと近くに置いていたが書けたる日は一度としてなかった。


 けれど、もしかしたら今日は先に進めるかもしれないそんな気がしていた。


 気ずくと僕は椅子に座って原稿に向かって睨めっこを二時間も続けていた。


 今日は何だか書ける気がしたがそんな事はなかったらしい。

 

 結局僕はその話の先にいつまでも進めないのだ。


 また親友に破かれることを誰かに破かれることが怖くて。


 しばらくそんな思考に浸っていたが、僕は母さんの僕を呼ぶ声で急速に現実に引き戻された。


 「(まもる)〜ご飯で来たからそろそろ降りておいで〜冷めるわよ〜。」


 階段を降りリビングにかけられた掛け時計を見ると時計の針はもう十時を過ぎていた。 


 リビングでは僕の母さんと父さんが僕のことを待っていてくれた。


 「母さんも父さんも何で先に食べてないの?もう十時だよ別に待たなくても良かったのに。父さんも朝早いのに。」


 そう言うと母さんが笑いながら答えてくれた。


 「それはね、父さんが一緒に食べるって聞かなかったから。守が起きるまで待ってたのよ。」


 「ちっ、違うただ今日は守がいつもより楽しそうだったから何かあったのかと思ってだな。親として聞かなきゃいけないと思っただけだ。」


 父は照れくさそうに小柄な体をすくめて言い訳を言っていた。


 「それで、何かいい事でもあったのか?最近はもうずっと毎日しんどそうな顔で帰っていたからな。でも、今日帰ってきた時はいつもより明るい顔だったからな。」


 つくづく僕はいい家族を持ったと再認識させられた。僕の些細な変化もずっっと見守ってくれている事が嬉しく思えた。少し言葉を選んで僕はこう答えた。


 「今日はね。新しい友達ができたんだ!まだ友達未満だけどね。」


 まだ僕たちは放課後に小説を読んでそれを治すだけの小さな関係なのだ。


 津百合さんとは少し友達になってもいいと思えた。

 


 


 

 

 

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