大会には興味がない
「お疲れ様です!」
俺は最近通い出した両親の元同僚がやっているボクシングジムに到着後、開口一番大きな声で挨拶した。
「おおっ!噂をすれば天才中学生の到着だ!」
「また…直人さん。それやめてくださいよ。」
ここのジムのオーナーかつトレーナーをしている葛城直人さん。大学までボクシングを続け、日本ヘビー級で王者になったほどの実力者。ただ、王者になってすぐ、引退を発表し、そのまま警察官となった。
ただ、現場勤務は合わず、大学で教育学部にいたことも考慮され、結局長い期間を警察学校の講師を務めていた。
引退後、このジムを開き新たな王者を輩出しようとしてるらしい。俺が天才と呼ばれているのは、実力を見るという名目で出場させられた全国U-15ジュニアボクシング大会で初出場で全国優勝を果たしてしまったことが挙げられる。
まぁ、秘密の特訓と称して父さんが署内の元プロや大学ボクシング経験者を俺にコーチとしてつけて全国大会前までに鍛えられた事が功を奏したと言える。
それを言っていないからこそ、天才と呼ばれてしまっているわけだが。
とは言え、申し訳ないが俺はプロには興味があるが大会には大して興味がない。なにせ、全国大会までがつまらなすぎるからだ。
本気でやると大怪我させてしまうし、手加減するとつまらない。それならジムで軽く運動する程度にしておけばいい。
そう思った俺は最近、気がついたときにしか通っていない。両親にも説明したところ、俺の思いを察して自由にさせてくれている。父さんに至っては、喧嘩という形で実践は積めるから別に大会に無理して出る必要はないとか抜かす。
それもどうなんだとは思うけどな。
いいのかそれで。
俺はいつものメニューこなして、3時間ほどが経過し、帰り支度をしようとしていたとき、葛城さんが申し訳さそうに俺に近づいてきた。こういうときは決まって面倒事を頼まれる。
以前は何だっけ?
自称天才中学生ボクサーとスパーリングをしてほしいと頼まれたっけ。本人から挑発されてつい本気でやっちゃって泣き出すまでボコボコにしたっけ?
その前にはどう見ても不良の風貌をした奴とのスパーリングを組まされた。ルールもへったくれもなく殴りかかってきたので、顔面に膝を入れたうえでボコボコにしてやったな。
どっちも後日、謝罪しに来たっけ。
今度は何をお願いされるんだか。
「本当に申し訳ないんだけど、彼とスパーリングしてもらえないかな。」
そう言って指さした先には以前までとは違いしっかりとボクサーの姿をした少年の姿が。
俺がそちらを向くと彼は礼儀正しくお辞儀してきた。
「ようやくまともな相手を用意したってわけですか。」
「やってくれるかい?」
「手加減しませんよ?」
「彼も本気の君とスパーリングしたいそうだ。今の自分の実力がどの程度なのか見定めたいらしい。」
「どういうこと?」
「君は覚えていないようだけど、彼は全国大会の1回戦で君と対戦してるんだ。もちろん結果は無惨なものだったけど。」
「ふ〜ん。覚えてないや。」
「とりあえず相手してあげてくれないか。」
「まぁ…いいよ。帰る前にスパーリングしようかと思ってたから、相手してあげるよ。ただ1Rだけね。俺、腹減ったから。」