第十二話 また会ったな
武闘大会二日目、午前十一時から、俺と観客として登録した父さん母さん、梅田さん、悠さんの計五人は会場へと移動した。
「おや、あなたは昨日、輝と対戦した」
「初めまして、悠といいます。よろしくお願いします」
悠さんは、父さんたちとは初対面だ。
まぁ、この調子ならすぐに馴染むだろう。
「それにしても、いつの間に輝はこんなきれいな人と出会ったんだか。変なやつでしょう? 迷惑かけてませんか?」
「父さん! そんなことしてないから、変なこと言うなよ!」
まったく、こりゃ目を離したらまた何か変なことを言われそうだ。
そうなったら、俺も父さんの黒歴史を余すことなくバラしてやる!!
「あ、そうだ。第一試合は俺出ないから、そこだけ知っといてくれ」
十五人のトーナメント制だと、必ず一人余る。
ちょうどそこに俺が転がりこめたわけだ。
無条件で第二試合に出られるなんて、ラッキーだ!
「残念だな~ じゃあ第一試合、楽しみがないじゃないか」
「昨日みたいに、美人さんを探してたらどうだ?」
「うっ……なぜそれを……」
「父さん? その話、詳しく聞こうかしら?」
笑顔のまま母さんが父さんに”圧”を飛ばす。
笑顔と圧、勝てる奴なんていません。
「はは、こりゃあ母さんと父さんの熱い戦いが見れそうだな」
母さんはどこからかフライパンを取り出し、父さんは酒の瓶を取り出す。
そして互いの生死なんか関係ない! ってくらいの勢いで戦い始めた。
梅田さん、悠さん、申し訳ないが、しばらくその二人の戦いに付き合ってあげてくれ。
他の家庭も、夫婦喧嘩はこんな感じなのだろうか?
控室に行くと、もう全員が集まっていた。
そのなかに、見覚えのある顔を見つける。
「また会ったな、輝。お前も勝ち進んだのか」
「そういうお前こそ、途中で負けてなかったんだな」
声を駆けながら寄ってきたのは、佐野優だった。
忘れもしない、俺の家の近くでやりたい放題してくれた男だ。
何人もの人からすべてを奪っただけでなく、俺にまで強奪を仕掛けてきやがった。
はっきり言って、こいつ嫌い!
「そんな警戒するなよ。何せ今は強奪をするわけじゃない。戦いで死ぬこともない」
そうじゃない! お・ま・え自体が嫌いなんだよ!
分かるか!? 今は死なないとか、そんなんじゃないの!!
「あ、あと準備しとけよ?」
「は?」
クイッ
優はメニュー画面を指さす。
おそらくトーナメント表のことだろう。
「決勝戦、お前と戦うの俺だから」
そういうと自信満々な様子で、優は控室から出て行った。
あいつ、最初なのか。
決勝戦で戦うってことは、あいつと俺はリーグ表では反対側ってことか。
え~っと、二試合目で俺は誰と戦うかな~
「って、あいつ大丈夫か!?」
トーナメント表を見て心の底から驚いた。
なんと、あいつの二回戦の相手は、現在ランキング三位のウィリアムという人、その次勝てば、恐らく進んでくるであろう、ランキング四位のロバートと戦うことになる!
つまり、俺と決勝に当たるまでに、二度もレア武器持ちの奴と戦うことになるのだ!
まぁ、そのおかげで俺はレア武器所有者と戦わなくて済むんだけど。
なら俺は、三回勝ち進めばいいだけだ。
決勝までは、なんの懸念もなく勝ち進むことができるな。
ただ優……本当に決勝まで来られるのか?
いや、来てほしくはないんだけど……
「開始!」
おっと、優の戦いが始まったみたいだ。
まぁ、一応見てみるか。
「遅い遅い! 弱い弱い! 強気に来いよ!」
お前が強気すぎるんだよ……
優は大剣を握り、相手めがけて振り下ろしていた。
相手もさすがは一日目を勝ち抜いただけはある。
優の攻撃を、ぎりぎりながらもすべて躱していた。
ドゴン!
優の振り下ろした大剣は、地をえぐり、大地を揺らす。
相手さん、かわいそうに……
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」
ついに逃げ切れなくなった相手さんは、追い詰められたところを大剣で一刀両断……される前にビー!! とブザーが鳴り、試合は終了した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大歓声だ。
まぁ、流石としか言いようがないな。
そこからの第一試合は、あまり盛り上がらなかった。
まぁ、もう試合のレベル……というか優のレベルが違いすぎた。
”最高”を見た後では、何を見ても物足りなく感じるだろう。
ちなみに俺もそうだ。
やっぱり、その分野の頂点を見ると、どうしても盛り上がるだろ?
「どうよ輝、俺に勝てそうか?」
「それ、自分で聞くのかよ。まぁ、自信は無いな」
「ははは! 正直だな。そこは嘘でも勝てる!って言っていいんだぜ?」
「それで負けたら悲しくなるよ。それに、お前の方こそ決勝まで来れるのか?」
「余裕に決まってんだろ」
「あの人だろ? 次の対戦相手になるであろう人は」
椅子に座る、一人の老人を指さす。
白髪で、手もしわだらけで、一見とても戦闘ができるようには思えない。
それに片目は見えないのか、開いていない。
持っている武器は弓……ってことはロバートか。
弓を使うのに、片目……距離感は大丈夫なのか?
いや、それはどの武器にも言えることか。
「あぁ、あいつだな。弓……ねぇ」
優の口角が上がる。
有利だからか?
実際、悠さんにも優にも、俺の銃は通らなかった。
見えないバリアがあったからだ。
最終的に俺は剣で砕いたが、それまでは銃はほぼ無力だった。
となれば彼の矢も当然、はじき返されるだろう。
「なぁ、お前や悠さんが纏ってる見えないバリアはなんなんだ?」
正直、答えてもらえないと思ったが、意外にも彼はすんなりと教えてくれた。
「あれは近接武器のレア種についてる固有能力、天恵。近距離武器のリスクを減らすために造られたものだろうな。一定量のダメージを防いでくれる」
「ってことは、どんなに弱い攻撃でも、攻撃を続けて一定量を超えると破れるのか?」
「そういうことだ。まぁ、かなりのダメージがいるけどな」
なるほどな。
じゃあ、もしかしたらロバートの弓でも、勝機はあるのか。
「まぁ、相手もランキング四位、油断して負けるなよ」
「負けるわけねーだろ」
優はそういって、控室を出て行った。
もう他の試合も終わったのか。
速いな……
俺も一度、皆の所に戻るか。
「どうだったみんな、優の戦い……は……?」
席に戻ると、魔王とでも戦ってきたのか! というレベルでボロボロな父さんと母さんがいた。
しかもまだお互い、瓶とフライパンでチャンバラをしている。
梅田さんと悠さんは、もう慣れてしまったのか、気にすることなく座っている。
「なにやってんだ二人とも……」
「か、母さんがやめないからだよ……」
「私のせいにするっていうの? 元はと言えばあなたが悪いんでしょ!」
やれやれ、全くこの夫婦は。
「ほんとすみませんね、変な親で」
「いえいえ、賑やかでいいじゃないですか」
そういってもらえると、少しは楽になる……が!
「えぇぇぇい! そろそろやめにしろよ! ここ武闘場であって喧嘩場じゃないんだよ!」
流石にうるさいので、黙ってもらった。
それでもなお、無言でお互い瓶とフライパンを振り続けている。
はぁ……
「そういえば二人とも、優の試合はどうでしたか?」
「すごい……いや凄すぎるの一言でしたよ!」
「次の彼の試合、世界四位、ロバートとの戦いです。そしてその次も、恐らく優かロバート、勝った方が世界三位、ウィリアムと戦うことになる。きっと迫力満点ですよ」
「楽しみです! 」
「輝さんも、頑張ってくださいね」
「まぁ、決勝までは進める……と思います」
まぁ、これで優が世界三位、四位を倒して決勝まで進んできたら、もう俺終わりだけど。
「楽しいな。なぁ?」
「ん? なんか言ったか?」
父さんと母さんの方を見たが、まだ絶賛喧嘩中だった。
梅田さんと悠さんも、こちらに話しかけてきた様子はない。
「こっちだよ、後ろ」
「ん? 誰だあんた」
俺の三つほど後ろの席に、一人の男が座っていた。
フードと逆光で、ここから顔は確認できない。
仕方ないから近づくか。
「え~っと、どちら様でしょうか?」
「忘れたのか? 悲しいな……え~ん」
ウソ泣きすんなよ急に!
気持ち悪いな!
しかも、男性の声で泣かれて、女性ならまだしも……
「ん~? ……あ!」
「思い出したか!?」
「誰?」
ズコッ
という効果音が聞こえてきそうなほど、盛大に男は椅子から転がり落ちた。
「神だよ! この世界を変えた神!!!」
「あぁ、お前か」
「反応軽くない!?」
なんだ? こいつ漫才師か何かか?
いちいち反応が大げさだな。
「それで? 何の用だ?」
「いや、ただ単に戦いを見に来たんだよ。言っただろ? この大会は私が楽しむためのものだ」
「いや、それは分かってるけどさ、俺に話しかけてきた理由が何って聞いてんの」
「神に対して、ずいぶんな態度だな」
「あいにく、俺はお前を信仰の対象……的な感じでは見てないの」
「まぁ、そうだよな……話しかけた理由はただ単に、近くにいたからだ」
「なら他にもいただろ。強者なら悠さんとか」
「俺は女性と話すのが苦手なんだよ!」
いや、神にもそんなのがあるのかよ。
さてはこいつ、女性と親しくしたことないな?
ハハ~ン!
「どうやらお前とは気が合いそうだな! ははは!!」
「急に抱き着いてくるなよ! てか態度変わりすぎだろ!」
「神よ、人は利害の関係が一致すれば簡単に仲間になるのだよ」
「そういうもんかねぇ……」
「というか、一日目は見てなかったんだな」
「はは、上位三百人が集まっているとはいえ、俺の心を熱くさせてくれる戦いは、ここでしか見れないからな。昨日の戦いなんて見るに値しないんだよ」
「じゃあせめて、俺と悠さんを第二試合で当てるなよ……」
「え? お前、あいつと戦ったの?」
「あぁ……って、もしかして……」
「嘘だろぉぉ!? そんな激熱の戦いを俺は見逃したのかよ!?」
この神……バカだ、どこまでも。
「よし、そろそろあいつらの戦いが始まるぞ!」
「あ、なら俺は控室に戻らねーと。じゃあな」
神にあっさりと別れを告げ、控室へと走った。
よしよし、間に合った。
さて、あいつら、どんな戦いをするんだろう?
控室の窓から頭を出し、試合開始を今か今かと待った。
「開始!」
注目の一戦、世界一位と四位の戦いが、今始まった!