3話 魔法授与儀式
「ねぇ、カリン!冒険者にはどうすればなれるの?」
カリンを見てそう尋ねる。
「お嬢様は一応侯爵令嬢なのですが…。でもそうですね…。この国は冒険者が興した国です。なので実力のある冒険者は下手をすると下級貴族より権力があったりします。実は私ももともとは貴族の令嬢だったんですよ?」
「そうだったの!?」
「えぇ、今は師匠の指示のもと旦那様にお仕えしていますが。一応まだ現役の冒険者です。この国は16歳から冒険者ギルドに登録ができるようになりますが、この国のほとんどの人は16歳から学園に入学しますし、冒険者が興した国らしく学園卒業の単位として冒険者ギルドの依頼をこなす実習があります。なのでギルドに登録した際にいただく冒険者カードはこの国では手っ取り早く身分を証明できる証明書のようなものになります。」
「…そうなんだ。」
そんな運転免許証みたいな。ちょっと冒険者のイメージが変わったかも。
「なので『冒険者』にはこの国の誰でも簡単になれますよ。でもお嬢様が聞きたいのはそう言うことはないですよね?」
「えぇ、私は将来、冒険がしたいわ。世界中を旅していろんな景色をみたい。」
「わかりますよお嬢様。私もそこが始まりでした。なら方法は簡単です。お嬢様が侯爵令嬢としてではなく、冒険者としての価値を旦那様に示せばよいのです。」
「ど、どうやって?」
「やはり学園にいる間になにか大きな結果を出すことでしょう。ダンジョンを攻略したり、長年未解決の事件を冒険者として解決したり。学園を卒業すればだいたいの人が生活のために定職に就きますが、それでもこの冒険者という職業がなくならないのはそういった功績がこの国の利益に繋がるからです。」
「カリンは何をしたの?」
「…詳しくは言えませんが、長年未解決だった事件を解決したとだけ。」
「そう…。」
なるほど。冒険者として生活していけるだけの実力と、国に対する利益が貴族でいることより上だと示せばいいのか。うーん、難しそう…。
「わかったわ。ありがとう。それでカリン、その、私に冒険者としていろいろ教えてくれないかしら。」
「かしこまりました。ですがまずはお嬢様の侯爵令嬢としての教育が優先です。その空いた時間でお教えいたします。また、本格的に教えるのはお嬢様が7歳になってからです。それまでは教育に専念してください。」
「え~…。わかったわ…。」
「申し訳ありません。それが決まりなのです。」
そう言ってカリンは頭を下げ、そして焦った様子になる
「では戻りましょうかお嬢様。」
そうして私たちは屋敷に戻った。
仕事に遅れたカリンがメイド長に怒られていた。
うぅ、ごめん。私も一緒にメイド長に謝ることにした。
淑女教育をしつつ、そんなこんなで一年が経って7歳になった。
この国、いやこの世界は7歳を迎えられることを大事にしている。
この魔物が当たり前にいる世界で、今ではそうでもないがまず7歳を迎えることが難しかったらしい。
7歳までは神が運命を握っているとかなんとか。
そして7歳を迎えるとこれからは自分で運命を切り開きなさいとのことで魔法という力を授かるのだ。
7歳になった時点で魔法を授かるのだが、不安定なその力を定着させるために教会で儀式を行う必要があるらしい。
私はその教会に馬車で父と一緒に向かっている。あと護衛としてカリンもいる。
アイオーラ領にも教会はあるのだがこういった儀式をするのは王都にある教会だけ。
しばらく馬車に揺られていると目的地に到着した。
「緊張しているかい?シオン。」
「はい、緊張しています。」
魔法。魔法だ。私はラスボスだし(魔物になってたけど)バンバン魔法使っていたし、
めちゃくちゃ強かったし、前世の意識がある私が使えれば冒険者としても無双できるのは?
むふふ…。楽しみだぞ。
教会の中に入り、奥の部屋に入ると魔法授与儀式が始まる。
この部屋の中には私と父と神父様とお手伝いのシスターが数人。
カリンは部屋の外で待機していた。
神父様が何か口上を言ったあと水晶を取り出す。
「それではシオン様。前へお越しください。」
神父様に名前を呼ばれて私は水晶の前にでる。
「水晶に手を当ててください。何の魔法を授与されるかは水晶の光の色で決まります。」
魔法は基本的に4系統。火、水、風、土。
優秀な人は複数の魔法系統を授与される。
そして稀に4系統に当てはまらない光系統がいるそうだ。まぁヒロインがそうだしいるだろう。
ラスボスでは私は全系統の魔法をバンバン使っていたしこりゃちょっと騒ぎになるのでは?
好奇心と緊張の中、水晶に手を当てる。
…。あれ…。反応しない?あ、いや、水晶が黒く…?
水晶を見ていた神父様は驚いた様子で目を開き、そして父は絶望したような表情になる。
父は神父様に近づき、耳もとで何かを喋っていた。
神父様はうなずくと私に告げる。
「残念ですがシオン様の魔法適性はありません。ですが魔法が使えなくとも、この世界では立派に生きていくことができます。これから辛いことや大変なことが待っているかもしれませんが、自暴自棄にならず、つらい時は周りの人に助けを求めて、立派に生きてください。」
ショックだった。
ラスボス戦では魔法をバンバン使っていたではないか。じゃああれはなんなんだ?
ぼーっと考えていると父は穏やかな表情で私に言った。
「大丈夫だ。シオン。君は魔法が使えなくてもこの国では貴族だ。君が立派なレディーになれるように私も支えるから、どうか落ち込まないでくれ。」
その言葉にうなずく
「いい子だ。私は神父様と話があるから、先にカリンと一緒に屋敷に帰ってくれるかい?」
父は穏やかにそう言って神父様とこそこそ話し始めた。
私は重い足取りで教会をでて、カリンと一緒に屋敷へ戻った。
あれ?もしかして私冒険者になれない…?
読んでいただきありがとうございます。
遅くなり申し訳ございません。
最低でも一週間に一話更新できるように頑張っていきます。
これからもよろしくお願いします。