2話 状況把握
部屋でそのまま休むように言われた私はベッドで一人考えることにした。
すぐに死ぬわけじゃない。落ち着こう。
まずはこの世界のおさらいからだ。
この世界は『君は世界に一つの花』というゲームでいわゆる乙女ゲーと言われるジャンルなのだが、すごく斬新な特徴としてオープンワールドなのだ。
だがすべてが自由なわけではなく、学園卒業の概念があるため制限時間はある。
メインイベントをクリアするたびに攻略対象者を1人仲間にできる。
エンディングは卒業までにフラグを回収しかつ一番好感度の高い攻略対象者がエンディングのルートになる。
攻略対象者は4人。
攻略対象者を仲間するほどラスボス戦の攻略が楽になる。
メインイベントの攻略する順番は自由。つまり仲間にする攻略対象の順番は自由。
逆にメインイベントをクリアするのも自由なのでラスボスに単騎で挑むことも可能。
ストーリーのあらすじとしては
フィオーレ王国は制度として国立の学園を持っており、ひょんなことからその学園に主人公が入学。
様々なメインイベントを乗り越え成長していくのだが、メインイベントの裏にはラスボスである悪役令嬢の暗躍があり、卒業前の時期に国家を揺るがす大事件が起こる。
それを主人公が解決していくストーリー。
ざっとゲームの特徴としてはこんな感じ。
さて、私がラスボスなって主人公に討伐される部分の話になるが、大きな問題が一つある。私はそこまで詳しくストーリーを追っていないことだ。ストーリーは発売前に知ったゲームのあらすじくらい。
一応手術前にゲームはクリアした。クリアはしているのだが、オープンワールドの探索が楽しすぎてメインイベントをまったく進めていなかった。
制限時間があったことを知らずに探索ばかりしていたらいつのまにか国家を揺るがす大事件が起き、単騎でラスボスに挑んでクリアしたのだ。めちゃくちゃ難しかった。めちゃくちゃ難しくてゲームをやり直すのではなく、単騎でラスボス戦をクリアすることが目的になっていた。
手術まで近いこともあり、吹っ切れて手術後に2週目でストーリーをちゃんと楽しもうと思い、ラスボスのムービーもスキップしてしまった。
なので悪役令嬢がなぜ、どんな経緯でラスボスになったのかまったくわからないのだ。
なんとなく、悪役令嬢の身に何かがあり、復讐的なニュアンスがあるのはわかったのだが、詳しくはわからない。
これじゃ、対策のしようもない。
…どうしよう。
私は不安な思いを抱えたままぐるぐると思考し、そのまま眠りについた。
翌日、夜明け前に目が覚めた私は、水を飲みたくなって部屋出て下に降りようとすると昨日のメイドがいた。
「おはようございます。お嬢様。本日はお早いのですね。」
「おはようカリン。あなたも早いのね。いつも早くからありがとう。」
「…いえ、仕事はもう少し後から始まるのですが、私は仕事の前に日課で散歩しているのです。」
「散歩?」
「ええ。屋敷の周辺を少し。散歩でリフレッシュしてからいつも仕事に臨みます。」
「そうなの…。」
リフレッシュか…。これからのことで、もやもやしてるし私も散歩しようかな。
「ねぇカリン。私もその散歩についていっていい?」
「…えぇ大丈夫ですよ。護衛も私で大丈夫でしょうし一緒に散歩しましょうか。では、お嬢様のお出かけのご用意をいたしますね。」
「ありがとう。」
私の表情を見て察したのか、少し考えた後、カリンはそう言って準備をしてくれた。
準備を終えた私はカリンと一緒に屋敷をでる。
青みがかった空の下、少し歩くと開けた場所にやってきた。
屋敷はアイオーラ領の高台にあり、降りると町がある。
開けた場所からは眼下に広がって町が見える。
その時ちょうど日が昇り始め、その輝きで町を赤く照らし始める。
その中世的な町並みは私にとって、ファンタジーの世界にいることを感じさせた。
私はそんな風景をカリンと一緒に眺めていた。
「きれいな景色ね。カリン。」
「はい。私は冒険者時代の頃から朝焼けの景色が好きなのです。冒険が始まる気がして。」
「確かにそんな感じがするわね。そう。冒険ね…。」
そう言って私は前世の会話を思い出す。
卒業したらいろんなところへ旅行に行こうと。いろんな景色をみよう、と。
ゲームではいろんなところへ探索していたが、モニター越しの景色では今目の前に広がる景色には敵わない。
私は冒険がしたいと強く思った。
そうだ、そうだよ。メインイベントの裏では悪役令嬢が暗躍していて、国家を揺るがす大事件を起こす。
だったら普通にストーリーを無視すればよいでは?
暗躍しなければよいのでは?事件をおこさなければよいのでは?
貴族だから学園には入れられてしまうと思うけど、何も起こさず無難に卒業すればよいのでは?
卒業後、私は冒険者として冒険したい!一応侯爵令嬢だからどうなるかわからないけど、そこは父と相談しよう。
決意した私はカリンに向かって告げる。
「ねぇ、カリン。私、将来はたくさん冒険がしたいわ!」
空はもう青く澄んでいた。